見ざる 言わざる 聞かざる
Title:Three wise monkeys
Musician:ECD
90年代初頭の日本のHIP HOPシーン黎明期から活動を続けるラッパーECD。いわば日本のHIP HOPシーンにおける重鎮的な存在である彼。活動当初よりコンスタントにアルバムをリリースし続けていますが、そんな彼の17枚目となるオリジナルアルバムが本作です。
ECDといえば最近では反原発の活動や反レイシズムの活動など社会派的な活動が目立っています。そして本作。「見ざる言わざる聞かざる」というタイトルに、手術にのぞむ医者のような井出達の上に動画を示すような矢印を重ねた意味深なジャケット写真。それなので当然本作も、かなり社会派的な色合いが強いアルバムなのかな?と思いながらアルバムを聴いてみました。
ところが予想に反して今回の作品、彼がかかわった社会的な活動に直接からむようなリリックはほとんどありませんでした。あえていえば「LUCKY MAN」のリリックは話題のSEALDsのメンバーがモデルになったのではないか、と推測できる程度でした。
一方で今回のアルバムで感じたのはECDのラッパーとしての決意でした。「DAMARANE」はかなりストレートなラッパーとしての決意表明が述べられていますし、「YOSOMONO」もアウエーでのステージの体験の中でラッパーとしての決意を感じさるリリックが耳を惹きます。さらに「MUDANATEIKOU」の
「民主的じゃないぜ この音楽は
俺がつくったCD お前聴くだけ
誰の意見も反映されない 当然
何言われても 聞く耳持たない独善」
なんて歌詞も彼の音楽に対するスタンスを強く感じることが出来ます。またこのスタンスが、アルバムタイトルである「三猿」につながっているのでしょうか。
自分の風貌について歌った「METSUKIWARUIOTOKO」みたいなユーモラスな曲もまじえつつ、全体的にはパーソナルなテーマが多かったように感じた本作。ただ一方では例えば
「2015じゃなかったら よかった今
こんな時代が俺 大キライだ」
というリリックからスタートする「1980」といい、パーソナルな内容でありつつもどこか社会への皮肉を感じさせるような歌詞もチラホラ。そういう意味では個人的な歌詞の内容でありつつも、聴く人にとっては実は社会派的な要素を感じるとる人もいそうなそんなアルバムだったように感じます。リリックは比較的具体性がありわかりやすい内容でありつつも、解釈に幅を持たせる部分があり、そこらへんはECDの才能なのかもしれません。
アルバムを聴くと比較的リリックが印象に残る作品なのですが、トラックの方は今風の強いビートのエレクトロチューンがメイン。「DANCE」のエレクトロビートなどかなりカッコいい仕上がりになっており、こちらも耳を惹く内容になっていました。
社会派的活動から癖が強いアルバムになっているのではないか、と敬遠してしまいそうな人でも、逆に彼の社会派的側面に期待する人にも満足がいくアルバムになっていたようにも感じます。そういう意味では彼のラッパーとしての懐の深さも感じさせた作品。さすがのその実力を感じさせる1枚でした。
評価:★★★★★
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