重い新作
Title:世界収束二一一六
Musician:amazarashi
amazarashiの新作は、非常に重いアルバムでした。
もともとamazarashiの秋田ひろむの書く歌詞は虚無的な独特の世界観に重さは感じたのですが、いままでの作品は比較的内省的なテーマ性が多く見受けられました。しかし今回の作品ではむしろ社会的なテーマ性を感じられる曲が目立ちます。
例えば1曲目の「タクシードライバー」は疲弊している日本の一郊外を舞台としており、いきなりはじまるこんな風景描写が非常に重苦しくのしかかります。
「ショッピングモール、アウトレット、郊外の黄昏
家族連れ、人いきれ、シャツに聖者の肖像、滲んで
車の牽引ロープを買った伏し目がちな青年 自宅の鴨居にぶら下げて首を括る予定」
(「タクシードライバー」より 作詞 秋田ひろむ)
また「しらふ」でも描かれているのは下流社会の人々。
「事務所前チューハイで乾杯の晴天 古株の面々 まるで現代の蟹工船
妥協でされるがままの搾取 汗を酒で潤す さながらヨイトマケの唄か山谷ブルース」
(「しらふ」より 作詞 秋田ひろむ)
なんていうかなりへヴィーな歌詞も登場してきます。こういう「疲弊した郊外」や「下流社会」というのは今の日本の現在社会の中で重要なテーマのはずですが残念ながらロックバンドの楽曲のテーマとしてはあまり取り上げられません。むしろこの手のキーワードがよく登場するのはHIP HOPの分野。だからこそ、今、日本のロックバンドは今一つ勢いがなく、アイドル勢なんて畑違いの勢力が台頭してきているような結果を招いているのではないか、なんてことを漠然と考えてしまいました。
ただもっともそんなamazarashiの歌にもリアリティーがあるのか、と言われると少々微妙な部分があって、理屈先行な部分は否定できません。だからこそ、彼らは「中二病バンド」なんて言われてしまうかもしれませんが・・・。ただ、彼らがもともと持っていた虚無的な世界観はそんな現代社会のキーワードにピッタリマッチしてしまいます。そういう意味でも現在の世相と彼らの持つ世界観が今回のアルバムではうまくクロスオーバーしたように感じました。
一方でその向こうにある明るさ、希望という部分も明確に描いているのが今回のアルバム。それがはっきりとわかるのはちょうど中盤に位置する「ライフイズビューティフル」でしょう。自分たちのいままでの音楽活動に重ね合わせたような曲で、その最後は
「見ろよもう朝日が昇ってきた 人生は美しい
人生は美しい」
(「ライフイズビューティフル」より 作詞 秋田ひろむ)
と希望たっぷりにしめくくっています。もっとも、そんな曲の直後に「生きる」という意味について強く問いあげる「吐きそうだ」という曲が続き、さらにある意味この曲と対になっているような、音楽活動を続けるために底辺ではいずりまわっている姿を歌った「しらふ」が続いているあたり、かなり皮肉めいたものも感じてしまうのですが。
サウンド的には今回もバンドサウンドにピアノやストリングスが入りダイナミックなサウンド構成の中、秋田ひろむが感情たっぷりに歌い上げるスタイルはいつもと一緒。世相を取り込んだことにより歌詞がより重さを増したため、サウンドもよりダイナミズムさを増したようにも感じました。
そのダイナミックなサウンドを含めて非常に重さを感じたamazarashiの新作。ただ、それは彼らのメッセージが非常にストレートに入って来た、という証拠でもあり、非常に上手くつくられた作品と言えるのかもしれません。正直、歌詞には理屈先行の部分があり、その点は好き嫌いはわかれるかもしれませんが、重いメッセージがズシリと心に残るアルバムでした。
評価:★★★★★
amazarashi 過去の作品
千年幸福論
ラブソング
ねえママ あなたの言うとおり
あんたへ
夕日信仰ヒガシズム
あまざらし 千分の一夜物語 スターライト
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