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2016年4月23日 (土)

ダンスミュージックを通じて見た昭和歌謡史

以前から気になっていた本なのですが、ようやく読んでみました。

大阪大学の准教授で大衆音楽研究家である輪島裕介氏による「踊る昭和歌謡」。以前、彼の著書で「創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史」という本を紹介したことがあるのですが、これが非常に優れた名著だっただけに、この本も発売当初から非常に気になっていました。

最初のイメージではこの新書本、昭和歌謡曲の中のダンスミュージックを羅列的に紹介していく本と思っていました。しかし実際に読んでみるとそれは大きな勘違いでした。この本で輪島氏が提示しているのは、「踊る」という視点を通じて見た、あらたな「昭和歌謡史観」でした。

この本の最初、「はじめに」で著者はいきなりこういう文章から切り出しています。「大衆音楽とは、踊る音楽である。」。大衆音楽は音楽にあわせて歌ったり踊ったり合いの手を入れたりすることが出来る音楽。それと対照的に音だけを集中的に聴き取る音楽を「芸術音楽」として、「大衆音楽」と「芸術音楽」の二項対立論を提示しています。

その前提に基づいて(この「大衆音楽」=「踊れる音楽」という図式は決して著者のオリジナルではないそうですが)昭和歌謡史を論じているのが本作。特に昭和歌謡史がともすれば、欧米の音楽から強い影響を受けたフォーク音楽、ニューミュージック、J-POPという流れと、その対極としての日本的要素が強い演歌、歌謡曲、アイドルポップといったふたつの流れで語られることが多い中、その狭間で語られることがほとんどないラテンからの影響を本書の前半で大きく取り上げて語っています。

特にユニークだったのが1950年代から60年代にかけて、「ニューリズム」と称して海外のリズムを積極的に、そして次々と日本に紹介し取り入れていった流れ。マンボやらカリプソやら南米系のリズムが次々と登場し、日本に大きな影響を与えていったことがわかります。今みたいにパソコンのクリックひとつで世界中の音楽に容易に触れることが出来る時代とは違い、海外の情報がほとんど入ってこなかった時代に、時には「大きな誤解」を含みながらも新たなサウンドが次々と紹介されるという音楽シーンは、いまだに90年代J-POPそのままの音が幅を利かせ、ともすれば停滞気味にすら感じられる今のミュージックシーンと比べてなんともうらやましさも感じてしまいます。

その中でも一章をあてて大きく取り上げられているのが日本生まれのリズム「ドドンパ」。いまでもその名前だけは聞いたことがある、という方も多いかもしれません。リズムを聴けば、「ああ、あれ」と思う方も多いでしょう。この「ドドンパ」が誕生に至った流れや当時の流行、その影響などを詳しく記述しており、この本の中のひとつのハイライトとなっています。

以前紹介した「創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史」の大きな魅力は、1974年生まれで、おそらくリアルタイムで昭和歌謡全盛期を知らない輪島氏が当時の資料や証言などを丹念に拾い上げて、客観的姿勢から当時の音楽シーンを描こうとする姿勢でしたが本作もそのスタンスが貫かれておき、大きな魅力となっていました。おそらくリアルタイムで50年代60年代を経験してきた人ではある意味主観的になりすぎるところを、丁寧に、客観的に描こうとしているからこそ、逆にその時代の空気感がより伝わってきているように思います。

ただちょっと残念だったのが、それ以降の音楽シーンについてはあまり深く切り込んでいなかった点でした。特に80年代から90年代に一世を風靡したユーロビートなど、日本でにも異常なまでにヒットした、という点ではもっと突っ込みがいのあるブームだったと思うのですが・・・著者の専門外だった、ということあでしょうか。もうちょっと切り込んでほしかったな、とも思ってしまいました。

そこらへんはちょっと残念だったのですが、日本の歌謡史に興味がある方には必読の1冊だと思います。特にダンスミュージックといえば、例えば80年代のディスコにしろ90年代のユーロビートにしろ2000年代のトランスにしろ現在のEDMにしろ、とかく音楽の中では軽んじられる傾向にあるジャンル。まあ、時として必要以上に機能的に特化しすぎる傾向にあるだけに、音楽ファンの中で軽視されるのは仕方ない部分もあるのですが、本書を読み、ダンスが音楽シーンに与える影響を強く考えさせられ、かつ踊れる音楽について大いに見直しました。

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