愚直なまでにギターロック
Title:Across the metropolis
Musician:the pillows
4月に待望のニューアルバムをリリースするthe pillows。その新作に先立ってリリースされたのがいわゆるB面ベストである本作。2007年以降にリリースされたシングルのカップリング曲が収録されている他、ライブ会場限定シングルとしてリリースされた「TABASCO DISCO」やthe pillows & Ben Kweller名義でタワレコ限定シングルとしてリリースされた「Lightning Runaway ~NO MUSIC, NO LIFE~」、さらには新録曲の「世界は屋上で見渡せた」「チェルシーホテル」が収録されています。また、B面ベストとしては2002年に「Another morning, Another pillows」以来の第2弾。本作もアルバム2枚組というボリュームある内容となっています。
シングルのカップリング曲といえばともすればアルバムにも収録されない知る人ぞ知る的な曲が多いのが通例。ただ、そんな曲だからこそ、ともすればシングル曲やアルバムではあまり聴けないようなタイプの実験的な曲が聴けるのもカップリング曲のよくあるパターンだったりします。
しかしthe pillowsについてはそんな一般的なカップリング曲のパターンとは違いました。シングルのカップリング曲も含めて、愚直なまでにストレートなオルタナ系ギターロック。「BOYS BE LOCKSMITH」などはこれぞthe pillows節とも言えるようなポップなメロディーラインにノイジーなギターサウンドが耳を惹く作品になっていますし、「Sad Fad Love」「Go!Go!Jupiter」などなど、軽快なギターロックのthe pillowsらしいナンバーが並んでいます。
歌詞の方もthe pillowsらしさを感じる歌詞が並んでいます。「ファイティングポーズ」の競争の敗れた人たちの心境を描いた歌詞は胸に響くものがありますし、「Snoozer」の
「持って生まれた自分の
傲慢さに躓く夢想家
誰も足を踏み入れない
砂漠でまだうたた寝してるのさ」
(「Snoozer」より 作詞 SAWAO YAMANAKA)
という孤独を描いた歌詞もthe pillowsらしさを感じます。
特に新録の「世界は屋上で見渡せた」が素晴らしかったです。学生の頃の風景を描写した歌詞がノスタルジックな気持ちにさせられる歌詞で、「世界は屋上で見渡せた」というタイトルも、まだ外に広がる世界を知らない中高生の頃の世界を象徴するようなタイトルがまたとても印象に残ります。
カップリング曲ということで特徴的なのはあえていえば英語詞の曲が多かったことくらいでしょうか。the pillowsといえば非常にシンプルで愚直なギターロックを奏でるバンドなのですが、その特徴がカップリングにも貫かれていたということがこのB面ベストでわかります。
そのためともすれば「マンネリ」とさえ捉えかねないのですが、このB面ベストを聴いてもそのような印象をあまり受けません。それはB面ベストに収録された曲がいずれもシングルとしても通用できるインパクトとクオリティーがあったから、というのも大きな理由なのですが、とことんポップなメロディーラインを下手に凝らないギターサウンドにのせて歌っているからこそ、普遍的な魅力を持つメロディーラインと歌詞が表に出ているからなのでしょう。シンプルゆえに飽きの来ない楽曲、といってもいいかもしれません。
B面ベストですが、通常のアルバムと並べて聴いても遜色ないどころか、ベスト盤クラスの魅力的な曲が並んでいるアルバムです。B面ベスト=ファン向けアイテムみたいに感じて敬遠しているのならかなりもったいないアルバムだと思います。ファンならずとも要チェックな傑作です。
評価:★★★★★
the pillows 過去の作品
LOSTMAN GO TO YESTERDAY
PIED PIPER
Once upon a time in the pillows
Rock stock&too smoking the pillows
OOPARTS
HORN AGAIN
トライアル
ムーンダスト
ほかに聴いたアルバム
30th anniversary THE BLUE HEARTS re-mix「re-spect」
手を変え品を変えリリースされるブルーハーツ便乗商法ですが、正直言ってこれは酷い。クリエイティブディレクター箭内道彦プロデュースにより10組のミュージシャンが参加したアルバムなのですが、カバーではなく、既存のブルハの曲をリミックスするスタイル。結果、自分なりにカバーしたわけではなく中途半端に原曲を残したアレンジに、無理やり自分のボーカルやバンドの演奏をのっけた内容になっています。特に酷かったのがSilent Sirenの「リンダリンダ」と片平里菜の「情熱の薔薇」で、甲本ヒロトのボーカルも入った原曲に、むりやり自分の歌を重ねたリミックスとも言えるのか微妙な酷い内容。神聖かまってちゃんの「夕暮れ」のようなボーカルとマッチしたなにげによく出来た曲も中にはあったのですが、「re-spect」というタイトルから反するような、原曲に対してあまり愛情を感じられない企画でした。4人の顔を漫画で並べただけというジャケットもなんだかなぁ、といった感じですし。
評価:★★
今の時代がいちばんいいよ/前野健太
シンガーソングライター前野健太の新作はCDブックというスタイルで発売された全編弾き語りによるアルバム。ただCDブックといっても一般書籍と同じ大きなのパッケージというだけで、「本」にあたる部分も単なる歌詞カード。あまり「CDブック」とする意義は感じません。
ただ内容の方はあいかわらずの名曲揃い。都会で生きる人たちの風景を哀愁感あふれるフォーキーなサウンドで歌い上げます。もともとこの都会で生きる人たちの描写というのは、いままでの前野健太の世界観をそのまま引き継ぐものなのですが、弾き語りというシンプルなスタイルで歌い上げることにより、その特徴がより強調されたようなアルバムになっていました。
評価:★★★★★
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