バンドのキャラクター性を生かし切った傑作
Title:不良品
Musician:氣志團
ここ最近、シングルが再びベスト10入りしてくるようになり人気が再燃してきた氣志團。なぜここに来ていきなり?タイアップに恵まれたからか??などと若干いぶかしく思っていました。そんな中でリリースされた約3年9ヶ月ぶりとなる氣志團のニューアルバム。人気再燃に伴いアルバムでもオリジナルとしては4作ぶりにベスト10ヒットをするなど順調な売上を記録しているようです。
しかし今回のアルバム、聴いてみてビックリしました。それは本作が予想を大きく上回る傑作となっていたから。氣志團といえばキャラクター設定に基づいた楽曲のユーモアさはともかくとして楽曲自体はベタな80年代のビートロック。それはそれであえて狙って演っている部分はあるのですが、正直、楽曲自体を切り取ると少々物足りなさも感じてしまっていました。
今回のアルバムにもそのベタなビートロック路線はもちろん収録されています。「幸せにしかしねーから」なんかはその典型例。歌詞も典型的なヤンキーイメージで特にひねりもありませんし、少々男尊女卑的な内容でも許容されるのは氣志團のキャラクター性があるからでしょう。氣志團らしい曲なのですがその反面、楽曲のみを切り取ると、正直あまり面白味はありません。
しかし今回のアルバムはそんなよくも悪くも氣志團らしいビートロックのみならず様々なタイプの楽曲が収録されていました。オープニングの「Bring it on!」はEDMチューンですし、続く「喧嘩上等」はキャバレーロック。「アビイ・ロード」は木更津の床屋について歌った曲なのですが、タイトルから想像できるイメージ通り、マージービートのナンバーですし、「恋のタラレバ」はハードコア風で、どこかマキシマム・ザ・ホルモン風な雰囲気も・・・(となるとタイトルは「恋のメガラバ」のパロディーか?)。
そんなバラエティー富んだ楽曲の数々も魅力的だったのですが、今回のアルバムで一番魅力的だったのは楽曲が氣志團というバンドとメンバーそれぞれのキャラクター性をしっかりと生かしていた、という点でしょう。メンバーそれぞれの自己紹介ソングでもある「ツッパリHigh School Mucical(登場編)」からはじまり、綾小路翔以外のメンバーがメインをつとめる曲も収録。それもそれぞれが趣味性をいかんなく発揮しており、「トミーのここまで言って委員会(仮)」はHIP HOP風ですし、「元祖早乙女光伝説」は思いっきり特撮ドラマの主題歌のような楽曲に仕上がっています。
「16歳」「ロックバンド」のような青春期のノスタルジーあふれる歌詞もまた氣志團というバンドのキャラクター性に沿っており魅力的。「16歳」は心を許せる友人との出会いを描いた未来に対する希望を感じる曲。「もっと自由で良いよ」という歌詞といい、「16歳」という年齢といい、尾崎豊の「15の夜」の次を歌ったようにも感じます。「ロックバンド」は星グランマニエがボーカルを取ったオルタナ系のギターポップ。氣志團の普段の作風とはちょっと異なるメロディーラインをしっかり聴かせるナンバーで、これもまた幅広い楽曲のタイプという本作の魅力のひとつを形作っている作風となっています。
アルバムは「ツッパリHigh School Mucical(出発編)」で一区切り。ミュージカルのフィナーレを彷彿とさせるような楽曲で、おそらくここまでが「本編」というイメージなのではないでしょうか。だとすると、その後に控えるアンコール曲2曲が実に素晴らしい。タイトルチューンでもある「不良品」は綾小路翔が氣志團と、他のメンバーに対する想いを綴った楽曲。その歌詞にグッと来る、一聴の価値がある楽曲をアコギ一本で聴かせてくれます。そしてラストの「ライバル」は逆にメンバー全員がそれぞれの想いを語るナンバー。このラストの流れは氣志團というバンドやメンバーへのメンバー全員の強い思いを感じることが出来る楽曲で、アルバムのラストに実にふさわしい楽曲になっています。
正直なところ氣志團というバンドは、「ヤンキー」というキャラクター一本勝負なところがあり、ここ最近は完全に「ネタ切れ」という印象がありました。それだけにこれからの活動は厳しいなぁ・・・と思っていたのですが、まさかそんな中、ここまでの傑作がリリースされるとは思ってもいませんでした。氣志團というキャラクターをきちんと生かした極上のエンタテイメント作品。まだこの手があったか!とすら感心してしまう内容。氣志團というバンドは私が思っていたよりもずっとずっと才能も実力もあるバンドなんですね・・・間違いなく氣志團というバンドの最高傑作であり、年間ベストクラスの傑作。まだまだ彼らの活躍から目が離せなさそうです。
評価:★★★★★
氣志團 過去の作品
房総魂~Song For Route 127
木更津グラフィティ
蔑衆斗 呼麗苦衝音
日本人
氣志團入門
ほかに聴いたアルバム
10(TEN)/大橋トリオ
タイトル通り10枚目となる大橋トリオの新作。斉藤和義とコラボを組んだ「恋するライダー」をはじめ、全体的には若干ロック志向になっているような印象が。ただ基本的な路線としてはピアノの音色を軸にジャズの要素を組み込んだ「大人のポップス」という志向性は同一。良くも悪くも大橋トリオらしい楽曲を貫いて安心して聴ける良質なポップスアルバムになっています。
評価:★★★★
大橋トリオ 過去の作品
A BIRD
I Got Rhythm?
NEWOLD
FACEBOOKII
L
R
FAKE BOOK III
White
plugged
MAGIC
大橋トリオ
PARODY
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コメント
確かにバンドとしてのキャラクター性を活かした傑作ですね、氣志團の「不良品」は。
この感じならまだまだ氣志團は傑作を生みだせそうでワクワクします。
投稿: ひかりびっと | 2016年7月12日 (火) 16時39分
>ひかりびっとさん
はい、まさかこの段階に来て、ここまでの傑作が聴けるとは思いませんでした。そろそろ「ネタ切れ気味」と思っていただけにびっくり。本当に、これならこれからの氣志團の活動にも期待できそうですね!
投稿: ゆういち | 2016年7月22日 (金) 01時02分