さらなる成長を感じる傑作
Title:グッバイ東京
Musician:井乃頭蓄音団
私がもっとも注目しているバンドの一組として、ここでも何度か紹介している井乃頭蓄音団。昨年はなんとフジロックへの出演を果たすなど、一部では徐々に注目を集めているみたいなのですが・・・もっともっと注目されてもいいバンドだと思うんだけどな。そんな彼らの約1年半ぶりのニューアルバムです。
さて、井乃頭蓄音団といえばダメな人間を描く変態性のある歌詞が特徴的なバンド、でした。しかし、前作「おかえりロンサムジョージ」ではその変態性は薄れ、さらに今回のアルバムでは全編至って真面目な歌詞となっています。
今回のアルバムは「グッバイ東京」というタイトルの通り、東京、具体的には上京をテーマとしたようなアルバム。もちろん彼らの書く歌詞のこと、単純にハッピーな話ではなく、そこに描かれているのは、上京してきたもののうまくいかない現実の中で生きていく人たちの姿でした。
「かなわない夢ひとつ 心に秘めて」と歌う「夢ひとつ」は「東横線が春をのせてやってきたら」という情景がおもいうかぶような出だしも美しいフォークソング。続く「さよならだけでも構わない」でも、すぐに帰りつもりがそのままふるさとに戻れなくなってしまったという話からはじまりますし、さらに「言ってはいけない言葉」で歌われているのはふるさとの母親からの電話に心がゆらぐ自分。これもまた、上京を経験したことある人にとっては、非常に心に響く歌詞ではないでしょうか。
そんな上京の現実をテーマとしているだけに、今回は「ダメな人間」というテーマ性も薄くなっています。ただ、この点についても、基本的にここに登場する人たちは、社会の中で決してうまくいっていない人たち。「ダメな人間」というのを前面には押し出してはいませんが、ここに登場する人たちは誰もが容易に共感できる人たちばかりでしょう。
ただ今回の作品、「変態性」という部分がほとんどなくなってしまった点、初期からのファンにとっては賛否がわかれるかもしれません。またユーモラスという意味合いでもいままでの作品より薄くなりました(「透明人間フェスティバル」や「タスマニアエンジェル」のようなユニークな作品はきちんと収録はされていますが・・・)。
しかし個人的には、今回のアルバム、そのテーマ性にしろ心象描写や情景描写にしろ、非常に力をつけてきていると感じます。「変態性」がなくなったからといって井乃頭蓄音団の魅力が減った、とは感じません。むしろ、バンドとしての実力が増してきたからこそ、「変態性」という飛び道具をあえて手放したのではないでしょうか。
バンドとしての力という意味ではサウンドの面にも感じます。基本的にシンプルなフォークロックがメインという点ではいままでと同様。ただブルースの要素やらスカの要素やらハードロックの要素やら、なにげに深い音楽的素養を感じます。これはいままでの作品からも感じていたのですが、今回のアルバムではさらに安定感が増したようにも感じました。
バンドとしての成長を強く感じる傑作。それだけにもっともっと注目度が増してもいいバンドだとは思うんですけどね。文句なしにお勧めのバンドです。
評価:★★★★★
井乃頭蓄音団 過去の作品
親が泣くLIVE at 下北沢GARDEN 29 Feb.2012
おかえりロンサムジョージ
ほかに聴いたアルバム
グッドモーニングアメリカ/グッドモーニングアメリカ
メジャー3枚目となるグドモの新作。典型的なポップスロックバンドという印象もあり、さほど期待していなかったのですが・・・思ったよりいいじゃん。全編、アップテンポで軽快なポップスロック。セルフタイトルにするだけあって脂がのっているんでしょうね。全体的に勢いを感じさせます。ポップなメロディーにはインパクトもあって、歌詞もユーモラスがあって楽しく聴かせます。ただ、正直、すべて同じようなアップテンポのナンバーで、バリエーションが乏しいのがマイナスポイント。もうちょっと曲のパターンがほしいなぁ。
評価:★★★★
グッドモーニングアメリカ 過去の作品
inトーキョーシティ
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