話題のジャパニーズブルースシンガー
Title:うどん屋で泣いた
Musician:W.C.カラス
今回紹介するW.C.カラスは一部で大きな話題になった日本のブルースミュージシャン。経歴がなかなかユニークで、デビューしたのが49歳。さらに現在も富山で木こりを生業として生活しているそうです。本作はそんな彼の2枚目となるアルバム。私は本作ではじめて彼の曲を聴いたのですが、まずタイトルがインパクト。「うどん屋で泣いた」。なんかこのタイトルだけで物語りが浮かんできそうなのですが、さらにとてもイケてるとは思えないこのジャケ写。もう、これだけでブルースを感じてしまいます。
そんなアルバムの1曲目を飾るのがタイトル曲。とにかく渋~いブルースが流れ出すだろう、という期待の元に聴き始めたのですが・・・ちょっとビックリしたのがこの1曲目。いきなり流れ始めたのは軽快なホーン。楽曲自体も軽快なソウル風のポップチューン。あまりブルースっぽくない楽曲にちょっとビックリ。続く2曲「Just Like a Boy」もワルツのリズムで奏でる、むしろフォークの色合いの濃い曲調で、当初のイメージから大きく異なる曲からはじまる意外な展開に驚かされました。
ただ、ここからグイグイとブルースな曲が展開されていきます。続く「有頂天BLUES」は、エレキギターでへヴィーなリフを聴かせるブルースナンバー。出だしの歌詞でいきなり「女房は逃げて~」と歌い始めるあたり、まさにブルース、といったイメージピッタリの曲になっています。
中盤にはBlind Lemon Jeffersonの「See That My Grave is Kept Clean」をカバー。前半は英語詞でカバーし、後半は日本語の訳詞。この彼独自の訳詞もまた、ブルース感たっぷりに聴かせますし、タイトル通り、心配ごとを羅列する「心配だ」も、まさに憂鬱な気持ちを歌っている点が実にブルースらしいナンバーといった感じです。
また、主夫希望の男性を歌った「飯炊き男のBLUES」やタイトル通りの「労働は苦しい」は、仕事の辛さを歌ったナンバー。ここらへんのナンバーもブルースらしいテーマ性ですし、また、サラリーマンにとっても共感できる部分が大きいのではないでしょうか。
そんなまさにブルースな歌詞にユーモアさをちょっと加えて歌い上げる曲が実に魅力的。また、サウンドの方は基本的にはアコースティックギターに時としてピアノが加わるシンプルなスタイル。カントリーブルースの王道を行くようなアレンジになっており、ここらへんもブルース好きにはたまらない音を聴かせてくれます。
ただ一方ではブルース一辺倒ではなく、前述の通り、フォーキーな雰囲気の曲があったり、突然ワルツのリズムを聴かせはじめたりと意外と幅広い音楽性を感じさせたりする部分もおもしろいところ。「労働は苦しい」ではおもいっきりこぶしをきかせたボーカルスタイルはブルースというよりも日本の民謡を感じさせます。ここらへん、単に昔ながらもブルースを継承するだけではなく、そこに一工夫加えている彼ならではのスタイルを感じさせました。
基本線は王道スタイルのブルース。ただ日本語詞の歌詞を聴かせるだけにその魅力はより味わいやすく、また、ブルースに留まらないスタイルの曲もあるだけに、「渋い」イメージとは裏腹に、比較的広い層にもアピールできる部分も感じます。ブルース好きはもちろん要チェックでしょうが、普段、ブルースを聴かないような方でも聴いて損のない1枚です。
評価:★★★★★
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