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2016年1月29日 (金)

とことん楽しいポップアルバム

Title:YELLOW DANCER
Musician:星野源

おそらく星野源は、今、もっとも勢いのあるミュージシャンの一人ではないでしょうか。昨年末には紅白歌合戦に初出場。お茶の間レベルでも話題になったほか、ドラマにも多く出演し、ミュージシャンとしてばかりではなく俳優としても知名度を一気にあげました。そんな中リリースされたアルバムも、自身初となるアルバムチャート1位を獲得。その人気のほどを見せつける結果となりました。

今回のアルバムは前作「Stranger」から1年7ヶ月ぶりとなるアルバム。くも膜下出血の予後が悪く、「Stranger」発売後に活動休止。その動向が心配されましたが、その後無事復活。そんな完全復帰後初となるのが本作です。

その久々の新作。今回、大きな変化を感じたのがその音楽性でした。いままでのアルバムはアコースティックなサウンド主体の、どちらかというとカントリー風の作品がメインでした。しかし、本作に収録されているのはむしろブラックミュージックからの影響を強く感じる作品がメイン。ファンキーなリズムの「Week End」からはじまり、軽快なシティポップの「SUN」「Soul」はファルセットボイスを多用した彼のボーカルスタイルといい、エレピのサウンドといいタイトル通り、ソウルミュージック直系のポップスになっています。

さらにホーンセッションと軽快なピアノがニューオリンズ的な楽しさを感じる「地獄でなぜ悪い」やアーバンソウル風にしんみり聴かせる「Snow Man」などなど、終始ブラックミュージックの影響をダイレクトに感じる曲が並んでいます。

いままでもシングルのカップリングなどでブラックミュージックからの影響を感じる曲を歌っていたようなのですが、アルバム単位で前面に押し出してくるのはこれがはじめて。それだけに熱心なファンではない方は意外に感じたかもしれません。しかし、今回の作品、そんな意外性がある驚きより先に、とてもポップで楽しい曲の連続にとにかくワクワクさせられたのではないでしょうか。

今回の作品は最初から最後までとことんキュートでポップな作品が並んでいます。例えば「SUN」なんかはストリングスの音色も楽しいポップチューン。途中の「Ah Ah」のメロディーラインなんかは個人的には壺にはまりまくり「キュン」としてしまいます。また、同じく「桜の森」のストリングスを使った間奏なんかも軽快でフックの効いたメロが耳に残ります。

難しいことを考えず、そのポップな楽曲を心の底から楽しめる、まさにそんなポップの理想形のようなアルバムだったと思います。ただ一方で、以前からの彼らしいちょっとシニカルな歌詞も健在。

「無駄だ ここは元から楽しい地獄だ
生まれ落ちた時から 出口はないんだ」

(「地獄でなぜ悪い」より 作詞 星野源)

といった現実社会を「地獄」に例える描写や

「祈り届くなら
安らかな場所にいてよ
僕たちはいつか終わるから
踊る いま」

(「SUN」より 作詞 星野源)

といった「死」をイメージさせる歌詞など、楽曲からはどこかシニカルさを感じさせます。ただ歌詞の面からも以前に比べると明るさを感じさせる曲が多く、アルバム全体としてはポップな内容になっているのは間違いありません。

ちなみに私、このアルバムを聴いていて、小沢健二の名盤「LIFE」を彷彿とさせました。どちらもブラックミュージックの要素を取り入れながらも、とことんウキウキするポップチューンに仕上げているという点でどこか共通項を感じさせます。オザケンも星野源も、のっぺり顔の文系男子という点でも共通するものも感じますし(笑)。本作も「LIFE」と同様、日本のポップスシーンに残る傑作になりそうな予感がします。

年間ベスト発表直前の紹介ですが、間違いなく、2015年の年間ベスト候補の傑作だったと思います。本当に勢いにのっているんだなぁ。2016年も彼が音楽シーンでもドラマの世界でも間違いなく話題の中心となりそうです。

評価:★★★★★

星野源 過去の作品
ばかのうた
エピソード
Stranger

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