エレカシ本領発揮の充実作
Title:RAINBOW
Musician:エレファントカシマシ
2012年、ボーカル宮本浩次の左耳が突然聴こえなくなる病気のため、活動休止を余儀なくされたエレカシ。その後、病気からも無事回復し、音楽活動を再開。そして、その活動休止後初となるオリジナルアルバムがリリースされました。前作「MASTERPIECE」から約3年半ぶりとなる新作となります。
エレカシは、ブレイク後はポップ路線に走ったり、かと思えばハード路線に振れたりと、「名曲」は数多くリリースしてきたものの、アルバム単位ではいまひとつ安定感がない、という印象がありました。しかし、ここ数作はバンドとしての方向性も安定してきており、文句なく傑作といえるアルバムが続いていました。
そんな中での活動中止なだけにその勢いが止まってしまうのではないか、とちょっと懸念していたのですが、ただそんな心配は杞憂でした。今回のニューアルバムも、前作と同様、ここ最近の彼ららしい安定感ある傑作に仕上がっていました。いや、前作同様どころか、ここ数年来のエレカシの中では最高傑作といえる作品だったようにも思います。
まずこのアルバムを聴き始めて耳を惹かれるのはエレカシのハードな側面を前に押し出した序盤の曲。タイトル曲「RAINBOW」は宮本浩次のシャウト気味なボーカルが耳を惹く作品。一方ではピアノとストリングスで構成されるスケール感あるサウンドが、アルバムのこれからの展開に期待を持たせます。そして続く先行シングルでもある「ズレてる方がいい」はへヴィーなギターリフと宮本浩次のボーカルで力強い楽曲になっています。「ズレてる方がいい」という曲名も、まさにエレカシらしさを感じさせる部分でしょう。
そんな力強い楽曲からスタートする今回のアルバムですが、本作が傑作であるのは、このへヴィーな方向性を見せつつも、一方ではエレカシの様々な側面をアルバムの中に織り込ませた作品である、という点が大きな理由でした。
例えば「永遠の旅人」や「Destiny」はメロディアスでポップの色合いが濃く、エレカシのポップス路線を強く反映させたようなナンバー。「Under the sky」はちょっと幻想的な作風にユニークさを感じますし、「あなたへ」は歌謡曲風のナンバー。さらに最後を飾る「雨の日も風の日も」はホーンセッションを取り込んだナンバーで、最後にふさわしいにぎやかなナンバーになっています。
また宮本浩次の書く歌詞にしても彼らしい、力強く、かつ前向きな一歩を感じさせるものが目立ちます。
「どんなときも歩くのさ おお ベイビー 雨の日も風の日も」
(「愛すべき今日」より 作詞 宮本浩次)
「今日も何かを目指してゆく ゆくぜ ゆくぜ ゆくぜ」
(「永遠の旅人」より 作詞 宮本浩次)
といったように、困難な中に前向きに進もうとする姿勢を感じますし、その歌詞のスタイルもリスナーに抽象的なエールをおくるJ-POPらしい応援歌ではなく、宮本浩次自身が前を向いて進もうとする姿を描く歌詞で、それゆえに聴いているこちらも胸をうつものがあります。
また今回のアルバムの中で一番ユニークだったのはタイトルもユニークな「TEKUMAKUMAYAKON」。楽曲もファルセットのボーカルが入るディスコ調のナンバーで、エレカシとしては異質な印象。ただこの曲も宮本の力強いボーカルが入ることにより、しっかりエレカシの曲となっているのがさすがです。
そんな様々なタイプの曲で構成されていながらも、そんな中に一本、宮本浩次のパワフルで感情豊かなボーカルが入ることにより、きちんと統一感ある作品になっているのはさすが。エレカシの実力がこれでもかというほど発揮されていた傑作になっていました。
久々の新作だったのですが、これだけの充実作になっていたのには驚かされました。今年デビューから28年を迎える大ベテランの彼らですが、その勢いは全く止まっていない模様。これからの活躍もますます楽しみになってくる作品でした。
評価:★★★★★
エレファントカシマシ 過去の作品
STARTING OVER
昇れる太陽
エレカシ自選作品集EPIC 創世記
エレカシ自選作品集PONY CANYON 浪漫記
エレカシ自選作品集EMI 胎動記
悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~
MASTERPIECE
THE BEST 2007-2012 俺たちの明日
the fighting men's chronicle special THE ELEPHANT KASHIMASHI LIVE BEST BOUT
ほかに聴いたアルバム
Are You Coming?/WANIMA
PIZZA OF DEATH所属の新人パンクバンド。期待のバンドとして注目を集めており、この1stフルアルバムがいきなりオリコンチャート4位を記録するなど、人気も急上昇中のバンドです。基本的には正統派のメロコア路線なのですが、メロディーラインは至ってポップで、むしろ歌謡曲のテイストを感じるほど。歌詞もどこか青臭さを感じさせる歌詞が魅力的。Aメロはスカ→サビで普通のパンクという展開の曲がちょっと多かったのが気にかかったのですが、デビュー段階で彼らだけの個性も感じられますし、これからの成長が楽しみなバンドです。
評価:★★★★
運命開花/THE BACK HORN
大ブレイクといった感じではないものの、なにげに安定した良作を生み続けているTHE BACK HORNの新作。今回も、途中、悪い意味で「アニソンっぽい?」と感じるようなベタなギターロック路線に中だるみはあったものの、インパクトあるメロディーラインと、奇をてらわずしっかり壺をついたギターロック路線に最後まで惹きこまれて楽しむことが出来た傑作になっていました。ここ数作続いていたアルバムでのベスト10入りが途切れてしまったようですが、これだけの作品をリリースできるのならば、また問題なく人気は回復しそう。
評価:★★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2016年」カテゴリの記事
- ファンによる選曲がユニーク(2016.12.27)
- パンクなジャケット写真だけども(2016.12.24)
- バンドの一体感がさらに深化(2016.12.23)
- 初のフルアルバムがいきなりのヒット(2016.12.20)
- 10年の区切りのセルフカバー(2016.12.17)
コメント