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2016年1月24日 (日)

パラレルワールドを通じて現在社会を皮肉る

Title:昭和九十年
Musician:アーバンギャルド

前作「鬱くしい国」では社会派なテーマに挑み、意外と骨太な側面を見せたアーバンギャルド。その次はどんな作品を聴かせてくれるのか、楽しみにしていたのですが、これが予想以上におもしろい作品をリリースしてきました。

今回のアルバムはコンセプトアルバム。「昭和九十年」というタイトルが印象的ですが、テーマとなっているのはパラレルワールドの現代社会。そのパラレルワールドでは、昭和時代が今もなお続き、かつ、世の中は戦争状態という世界を舞台となっています。そして、このパラレルワールドを通じて、現在社会を痛烈に皮肉った作品となっています。

いうまでもなく昭和がそのまま続いていたらと仮定すると昭和90年というのは、ちょうど平成27年、要するに本作が発売された年ということ。また、パラレルワールドが戦争状態であるというのも、戦後70年で、かつ、一部では「戦争法案」と皮肉られた新安保法案が話題となり、平和というものをあらためて考えさせられた今の時代に重ね合わせられる内容になっています。

ただ、明確に現在社会を、特に政治にまで踏み込んで皮肉った前作と異なり、本作の舞台はあくまでもパラレルワールド。そのためストレートなメッセージはあまりありません。もっともぼやかした内容なだけに、逆にその中に潜むメッセージ性はより強烈なものに感じられる部分もありました。

例えば1曲目を飾る「くちびるデモクラシー」。戦争の中でのラブソングを描いたようにも感じられるこの曲ですが、

「殺すな殺すな言葉を殺すな
殺すな殺すな声を殺すな」

(「くちびるデモクラシー」より 作詞 松永天馬)

という歌詞には言論の自由に対しての強いメッセージ性を感じることが出来ます。

また、ネット社会に対する痛烈な皮肉を感じさせる曲も多く

「指先でタップして
調べたらもう終わりの毎日
戦争も不景気も君も」

(「コインロッカーベイビーズ」より 作詞 松永天馬)

なんて歌詞が登場したり、楽曲全体が「Line」をテーマとした「あいこん哀歌」なんて曲もあったり、さきほど紹介した「くちびるデモクラシー」にも

「液晶を覗いてばかりいる国民たちには知らされていない、
既に戦争が始まっていること。」

(「くちびるデモクラシー」より 作詞 松永天馬)

なんていう、近未来の出来事を予感させるような歌詞が登場したりします。

さらに終盤、「平成死亡遊戯」では吉田豪によるアイドルへのインタビュー音源がサンプリングされているのですが、これが非常に病んだ内容になっており、現代社会の「闇」を映し出しているよう(これに関してはちょっと「狙いすぎ」な印象も受けたのですが)。そしてラストは「オールダウトニッポン」という、タイトルからして今の日本を強烈に皮肉った曲で締めくくられています。

そんな訳で、コンセプトが非常におもしろかった今回のアルバム。また今回のアルバム、コンセプトもおもしろかったのですが、アルバム全体の出来としても非常に良く出来た内容になっていました。というのもいままでのアーバンギャルドで感じていた問題点が、この作品では見事クリアになっていたように感じたからです。

その問題点、まず1点目は理屈っぽいこと。今回のアルバムも確かに理屈っぽい部分も残っていました。ただそれでも全体として作品の舞台をパラレルワールドとして戯曲化、あるいは抽象化することにより、アルバムのテーマを純粋に楽しむことが出来、理屈っぽさが気にならない程度まで抑えられていたように感じました。

またもう1点としてチープな音で飽きが来るのが早い、という点。こちらに関しては今回のアルバムも正直、チープなエレクトロサウンドです(笑)。ただ今回の作品に関してはむしろ開き直ったかのようにチープさをさらに推し進め、さらには「昭和」をテーマに、いままでの彼らの作品でも感じられた「昭和歌謡」的な部分をさらに前に出したことによって、チープさを逆に「味」として引き立てることに成功したように感じました。

いままでずっとアーバンギャルドはアルバムを聴いていたものの、絶賛するにはひっかかりのあるバンドでした。しかし前作「鬱くしい国」に引き続き本作で、彼らに対する認識はガラリと変わりました。本作は文句なしの傑作。もちろん、アーバンギャルドにとっても最高傑作だと思います。前作でも感じたのですが、これだけしっかり現在社会と向き合って、そしてそこから逃げることなく作品を作り上げる姿勢は非常に絶賛すべきものを感じます。これからの彼らの活動がますます楽しみになる傑作でした。

評価:★★★★★

アーバンギャルド 過去の作品
少女の証明
メンタルヘルズ
ガイガーカウンターカルチャー
恋と革命とアーバンギャルド
鬱くしい国


ほかに聴いたアルバム

Tommy's Halloween Fairy tale/Tommy february6/Tommy heavenly6

the brilliant greenの川瀬智子によるソロプロジェクトによる2年ぶりのアルバム。ハロウィンをテーマとした6曲入りのミニアルバムで、Tommy february6とTommy heavenly6の連名でのリリースとなっています。正直、特に目新しさもないし、このキャラ設定にも完全に飽きてきているので、まだ続けるんだ・・・というのが感想。いろいろな意味でこのキャラクターを続けるのも厳しいような気もするのですが・・・。

評価:★★★

Tommy february6/Tommy Heavenly6 過去の作品
I KILL MY HEART(Tommy Heavenly6)
Strawberry Cream Soda Pop “Daydream”(Tommy February6)
Gothic Melting Ice Cream’s Darkness “Nightmare”(Tommy heavenly6)
FEBRUARY&HEAVENLY(Tommy february6/Tommy heavenly6)
HALLOWEEN ADDICTION-ハロウィン中毒-(Tommy february6/Tommy heavenly6)
TOMMY CANDY SHOP SUGAR ME
(Tommy February6)
TOMMY ICE CREAM HEAVEN FOREVER(Tommy heavenly6)

VENA/coldrain

名古屋出身の5人組ハードコアバンドの新作。彼らの作品を聴くのはこれが3枚目なのですが、デス声も用いたハードコアなサウンドと、その合間にさっと音が引くようなポップなメロの部分のバランスが良く、また、メロディーラインにはどこか哀愁も感じられインパクトもあります。カッコいいバンドなのは間違いないのですが、3枚聴いて感じるのはもうちょっとバリエーションが欲しいかな、とも感じる部分もあるのですが。

評価:★★★★

coldrain 過去の作品
THE REVELATION
Until The End

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