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2016年1月31日 (日)

悲しい曲ばかり

Title:去年も、今年も、来年も、
Musician:中村中

個人的にはもうちょっと売れてもいいんじゃないのか?と思っているミュージシャンの一人、中村中の2年ぶりとなる新作。今回の作品は「四季折々の景色をモチーフに1年を表現」した、テーマ性ある内容になっています。

もともと、メロディーや歌詞を中心に据え、「歌」をしっかり聴かせるミュージシャンである彼女。今回の作品に関しては、アレンジが比較的シンプルな歌謡曲路線。ピアノやストリングスを用いてジャジーな雰囲気のアレンジが多いのですが、基本的には「歌」をより前面に押し出した、良い意味で癖のないアレンジになっていました。

その結果、今回の作品ではより「歌」が耳に入ってくる作品になっていました。そして、その内容がまた・・・非常に悲しい恋の歌ばかりなのが印象的。それもひとつひとつに物語が感じられる点がまた、強く印象に残りました。

例えば「散らない花物語」では好きな人と友達として仲良くなりすぎて、逆に好きと言えなくなってしまった悲劇を描いていますし、「ここにいるよ」では片思いの相手が、その恋人との写真を撮りながら、私はここにいるよ、と悲しく訴える曲になっています。

基本的にはすべて片思いの歌、もしくは失恋の歌。ただ、1曲ごとにその状況が微妙にかわっているところにおもしろさを感じます。また、唯一、両想いの曲が「逢びきの夜」なのですが、こちらも

「並んでは歩けない わけありの恋だけど
街灯りの中じゃ 名前で呼べない恋だけど」

(「逢びきの夜」より 作詞 中村中)

と禁断の恋・・・おそらく不倫ではないかと思うのですが・・・をテーマに歌っており、悲しい曲に仕上がっています。

しかし、そんな悲しい曲ばかりですが、最後を締めくくる「晦日」では、最後の最後に「来年も、生きていたいな」という歌詞で締めくくられているのもまた印象的。辛いテーマの曲ばかりの中、生きることへの力強さも感じさせてくれました。

一方でちょっと気になったのは、1年をテーマにしながらも四季の風景描写がちょっと弱い点が気になりました。そのため、あまり聴いていても「1年」というテーマ性を強くは感じません。ここらへん、せっかく「歌詞」が売りのミュージシャンなだけに、もうひとひねりあればいいのに・・・まあ、ここ数作、彼女の曲に感じる課題なのですが・・・。

とはいってもシンプルなアレンジで「歌」を重視した曲だからこそ、今回のアルバムは彼女の持ち味である「歌詞」の部分もしっかり心に響いてきたアルバムだったと思います。ある意味、彼女の曲はポップス、歌謡曲として王道ともいえる路線。それだけにもっと売れてもいいと思うのですが・・・。

評価:★★★★★

中村中 過去の作品
私を抱いて下さい
あしたは晴れますように
少年少女
若気の至り
二番煎じ

聞こえる
世界のみかた


ほかに聴いたアルバム

LIBERTY/中田裕二

こちらも歌謡曲風な曲を歌うシンガーソングライターの新譜なのですが、どんどんと明確に70年代、80年代の歌謡曲を意識したようなスタイルになってきています。今回の作品も、基本的には前作「BACK TO MELLOW」と同じスタイル。ただそんな中でも軽快でファンキーなナンバーがちょうどよいインパクトになっていたように感じました。

評価:★★★★

中田裕二 過去の作品
ecole de romantisme
SONG COMPOSITE
BACK TO MELLOW

ただいま/ズクナシ

ライブは一度見たことがあるものの、CD音源としてはこれがはじめて聴く、女性3人組ソウルバンド、ズクナシの新作。ソウルミュージックの要素が強い、ルーツ志向の楽曲を聴かせてくれるバンド。一方では「映画館」のように、ノイジーなギターサウンドを入れてきたロックテイストの強い作品や、ジャムインストの「ウメジャム」のような、バンドとしてのこだわりも感じます。ただ、全体的にルーツ志向という「趣味性」の部分が強く出て、楽曲としてはインパクトが弱く感じられたのが残念。

評価:★★★★

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