アルバムレビュー(洋楽)2015年

2016年4月30日 (土)

話題の女性3人組

Title:We Are King
Musician:KING

かなり大胆不敵なミュージシャン名がまずインパクトの女性3人組コーラスグループ(というか、この名前だとネット上、すっごく検索しにくい・・・)。プリンス(R.I.P.......)が前座に抜擢したという話があったり、かのエリカ・バドゥが絶賛したというニュースがあったりと、なにかと話題の3人組です。

そんな彼女たちはロサンジェルスの女性3人組。パリス・ストローザーとアンバー・ストローザーの双子姉妹と、コンプトン出身の女性シンガー、アニータ・バイアスからなる3人組ユニットです。

なによりもまず耳を惹くのは、この3人のボーカル。シルキーという表現がピッタリ来るのでしょうか、非常にやわらかい雰囲気のボーカルが耳を惹きます。曲によっては楽曲の中に溶けてしまいそうな雰囲気すらあるボーカルなのですが、そのやわらかさのあるボーカルが幻想的な空気を作り出しています。なによりも、そのシルキーなボーカルが2重3重に重なるコーラスラインの実に美しいこと・・・。まずなによりもこの3人の美しいコーラスワークに聴きほれるアルバムでした。

そんな彼女たちのボーカルがのるサウンドは、今時のR&Bらしい熱量の低いメロウなサウンド。70年代のフィリーソウル、あるいは80年代的なヒュージョン的な雰囲気も取り入れたサウンドは、新しさと同時にどこか懐かしさも感じさせるほど。このメロウなサウンドはボーカルにも非常にマッチしており、ボーカルとサウンドが楽曲の中で溶け合って混じるあっているようにすら感じてしまいます。このサウンドとボーカルが一体となった幻想的ですらある楽曲が、このアルバムの中の大きな魅力に感じました。

エリカ・バドゥの絶賛が「聞いたことのない音楽」という絶賛の仕方をしているため、いったいどんな音楽が繰り広げられるんだろう・・・と期待して聴き始める方も多いかもしれません。しかしサウンド自体は決して奇抜なものではなく、むしろ70年代80年代から地続きになサウンドに今の新しい空気感を取り入れたといったといった感じもしました。なので聴き方によってはむしろある種の懐かしさすら感じさせるサウンドかもしれません。ただ、この新しさの懐かしさの二面性もまた、彼女たちの音楽の大きな魅力に感じました。

その美しいコーラスラインとサウンドに酔いしれる傑作アルバム。大絶賛のアルバムということで身構えるのではなく、素直にそのサウンドとボーカルの美しさを楽しみたい傑作でした。

評価:★★★★★

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2016年4月26日 (火)

中毒性の強いチープなサウンド

Title:TROTRO
Musician:DJ KATAPILA

アフリカ現地でカセットでしかリリースされないような音源を発掘し、世に紹介し続けているレーベル「Awesome Tapes From Africa」。公式サイトではアフリカでのみ手に入れられるような、濃ゆい音源を無料で聴くことが出来るとあって、アフリカ音楽ファンの間ではよく知られているサイト/レーベルなのですが、今回、そのレーベルから新作がリリースされたということで聴いてみました。

このDJ KATAPILAというミュージシャンは西アフリカはガーナで、DJやプロデューサーとして活躍しているミュージシャン。本作はもともと2009年に地元で自主制作盤としてリリースされていたものの再発盤だそうです。

で、個人的には以前からアフリカ音楽が好きなだけにこのアルバムももちろんチェックしてみたのですが・・・いきなりアルバムは非常にチープなリズムがハイテンポで鳴り響き、そこにガーナ語のチャットが乗るような展開。私自身、「Awesome Tapes From Africa」で紹介されている曲をよく聴いているのですが、そこでよく聴けるような、アフリカ現地の空気感がそのままパッケージされた魅力を感じます。また、ローランドのリズムマシンTR-808をそのまま鳴らしたサウンドには、垢抜けないチープさを感じる一方で、強烈な中毒性も感じさせます。

特に前半は、このチープなトラックが延々と繰り返し続ける展開に。サウンド的にはシカゴ・ハウスの影響を強く受けたサウンドといった感じで、ガーナ語のチャットなどはアフリカ的要素も強く感じさせる一方、アフリカ音楽を聴きなれていない方にもなじみやすさもあったのではないでしょうか。

ただ、序盤のチープな、良くも悪くも似たような雰囲気のサウンドが続いていくのかと思いきや、中盤「Lalokat」ではエレクトロ色の強いビートにハンドクラップのリズムで若干音に厚みが加わった内容に。続く「Ice-Inc」も近未来的な雰囲気のあるメタリックなビートに仕上げており、一本調子ではないサウンドをきちんと聴かせてくれます。

全体的にはやはりアフリカの現地の匂いが強くついた癖の強さは否定できない反面、非常に中毒性の高いサウンドに一度はまればズブズブとはまっていってしまいそうなアルバムだったと思います。アフリカ音楽が好きなら要チェックな1枚。知らず知らずのうちにどんどんとはまってしまいそうです。

評価:★★★★

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2015年12月27日 (日)

また新たな変化

Title:A HEAD FULL OF DREAMS
Musician:COLDPLAY

前作「Ghost Stories」は、前宣伝もあまりなく、突然リリースされた感のあったCOLDPLAY。その前作からわずか1年7ヶ月、今回も比較的、前宣伝の期間は短く、COLDPLAYの新作がリリースされました。ここらへん、宣伝期間が短くてもリリースできるのは、それでも大ヒットが期待できる彼らならではでしょう。ただ残念ながら本作は、Adeleの新作に遮られ、アメリカ、イギリスでのチャート1位獲得はなりませんでしたが・・・。

COLDPLAYといえば、スタジアムバンドとなった彼ららしいスケール感の大きな作風が特徴的でしたが、前作「Ghoset Stories」では一転、シンプルなインディーポップバンドのような作風に変わっていました。そして続く本作。今回の作品はさらに一転、エレクトロサウンドを取り入れた爽やかな作風を前面に押し出しつつ、あくまでもポップさを主軸とした作品に仕上げてきました。

そんな作風が特に反映されたのが序盤。いきなり1曲目に配置されたタイトルチューン「A HEAD FULL OF DREAMS」は爽やかなエレクトロダンスチューンになっていますし、「BIRDS」も同じくアップテンポなエレクトロビートが特徴的なナンバーに仕上がっています。

また今回の作品は豪華なゲストも話題を呼んでおり、切ないメロが特徴的の「HYMN FOR THE WEEKEND」は、どこかこの女性コーラス、聴き覚えがあるな・・・と思いきや、なんとBeyonceがゲストで参加。さらに本編の最後を締めくくる、ゴスペルライクなコーラスを入れてこのアルバム一番のスケール感を誇る「UP&UP」では、同じくギターにどこか聞覚えが・・・と思えば、なんとノエル・ギャラガーがゲストで参加。どちらも正直、ちょっと意外性も感じるゲストでした。

アップテンポなナンバーがメインだった前半と比べて、後半は比較的、ミディアムチューンの聴かせるナンバーが多く収録されています。「FUN」「AMAZING DAY」など、美しいメロディーラインを前に押し出して、しっかりと「歌」を聴かせるCOLDPLAYらしいナンバーになっていました。

ただ今回も、ラストの「UP&UP」をのぞき、以前のアルバムのようなスケール感はなく、一方で、メロに関してはさすがの安定感はあり、「良質なポップアルバム」といった感じになっていたのは前作と似たような路線を感じます。

それだけに全体的にはこじんまりとしてしまった印象。スタジアムバンドらしい圧巻のスケール感もなく、メロディーだけで売りに出来る「美メロ」といった感じでもなく、悪いアルバムではないけどもちょっと物足りなさを感じてしまいました。

そういう意味では楽曲の方向性こそ異なるものの、前作と似たような作風になってしまったアルバム。彼らもアルバム毎に変わっていく、ということもあるのでしょうが、ちょっと保守的な変わり方じゃないかなぁ、とも感じてしまいました。「良質なポップスアルバム」であることは間違いないと思うんですけどね。惜しい1枚でした。

評価:★★★★

COLDPLAY過去の作品
Viva La Vida or Death And All His Friends(美しき生命)
Prospekt's March
LeftRightLeftRightLeft
MYLO XYLOTO
Ghost Stories


ほかに聴いたアルバム

Storytone/Neil Young

Neil Youngの新作は2枚組のアルバム。うちDISC1は、「Solo」と名付けられ、ピアノやアコギなどの1人だけのシンプルな演奏で聴かせ、DISC2では同じ曲をバンド編成やオーケストラ編成で聴かせる内容。基本的にどちらもシンプルなアレンジの曲が多く、なによりも「歌」を聴かせることに主軸を置いた内容に。同じ曲でDISC1と2を聴きくらべるのも楽しいのですが、なによりも「歌」自体を楽しむアルバムでした。

評価:★★★★

Niel Young 過去の作品
Fork In The Road
Psychedelic Pill(Neil Young&Crazy Horse)

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2015年12月25日 (金)

これぞArcaサウンド

Title:Mutant
Musician:Arca


若干25歳、ベネズエラ出身の新進気鋭のトラックメイカーArca。BjorkやKanye Westへの作品の参加が大きな話題となり一躍注目を集めた彼。昨年リリースしたアルバム「Xen」も大きな話題となりました。さらにその後、今年に入り、フリーダウンロードでアルバム「Sheep」もリリースしたばかりの彼ですが、早くもニューアルバムがリリースされました。

今回のアルバムも、60分程度の長さながらも、全20曲入りという構成。タイトルチューンである「Mutant」こそ7分を超える大作なのですが、基本的には2~4分程度。ポップソングの長さの曲が並んでいます。

作品の方向性的には前作「Xen」から大きな違いはありません。「Alive」では細かいビートでせき立てられるようなメタリックなサウンドが展開し、続く「Mutant」もメタリックな破壊音が繰り広げられつつ、後半はスケール感あるサウンド構成に。どこか幻想的な雰囲気を感じられるもの特徴的です。

また、そんな「実験的」ともいえそうな作風の中、基本的にはあくまでもポピュラーミュージックという方向性を強く感じるのも特徴的。「Vanity」や後半の「Front Load」など、楽曲の中ではっきりと哀愁たっぷりのメロディーラインを聴かせてくるような曲もあったり、どの曲も、メタリックなノイズの向こうに、メロディーがしっかり流れており、ちゃんとポピュラーミュージックとして機能しているのが大きなインパクトとなっていました。

アルバムがスタートした時点で、「あ、これぞArcaのサウンドだ!」とはっきりわかるサウンドを展開しているのも大きな特徴。このArcaとしての方向性は、前作「Xen」以上にはっきりしたように感じます。まさに彼しかつくりえないArcaワールドを作り上げた新作になっていました。

そんな訳で、またArcaとしての実力を感じることができた作品なのですが・・・・・・正直言うと、全20曲、最後の方はちょっとダレてきました。もちろん最後の最後までArcaの個性がさく裂した曲が並んでいます。ただ、全体的に強烈なメタリックのノイズがグイグイ耳の中に押し入ってくるサウンドで、最後の方はちょっと疲れてしまいました。

はっきりいって、10曲までだったら今年の最高傑作レベルだったと思います。15曲目くらいだったら十分傑作だったと思います。最後の方の曲が悪かった、ということではないのですが、もうちょっと曲を絞ってほしかったかも、とも思ってしまいました。なんかとても惜しいなぁ・・・と感じてしまう新作でした。

評価:★★★★

Arca 過去の作品
Xen
Sheep(Hood By Air FW15)

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2015年12月19日 (土)

メロディーラインがより前面に

Title:Fading Frontier
Musician:Deerhunter

ここ最近、毎作非常に高い評価を受けるアメリカのインディーロックバンドDeerhunterの2年ぶりとなる新作。今回のアルバムも、名盤として評判の高い「Microcastle」ほどではないものの、とても評判の良いアルバムとなっているようです。

さて、シューゲイザー色が強かった前々作「HALCYON DIGEST」、ガレージ色あるいはオールドファッションなサイケ色が強かった前作「MONOMANIA」とアルバムによって少しずつそのイメージを変えている彼ら。ただ一方、前々作、前作とイメージが変わらない部分もあって、それはメロディーラインが美メロともいえるポップなものという点。そこがまた彼らの大きな魅力でもありました。

今回のアルバムに関しては、そのポップなメロディーが前面に押し出された作品になっていました。もちろん、いままでの作品同様、フックが効いてインパクトがある、といった感じではありません。そのためちょっと地味に感じるかもしれません。ただ、それでもいままでの作品の中では、いい意味でパッと聴いた印象として「聴きやすさ」を感じることが出来るのではないでしょうか。

ポップで聴きやすいという意味では柔らかい雰囲気のサウンドとメロディーが特徴的な「Breaker」や、キラキラ感のあるシンセポップが耳を惹く「Duplex Planet」あたりでしょうか。また、軽快なギターロックに仕上げている「Snakeskin」も、まずは聴いていて楽しくなってくるようなポップなナンバーになっています。

ただそんな中で、少しずつゆがんだ音が入ってきたり、サイケでドリーミーな音が入って来たりして一筋縄ではいかない感じがとてもおもしろいのが本作の特徴。例えば前述の「Duplex Planet」にしても、爽やかなシンセポップと思いきや、微妙にひねくれたシンセの音が耳に残りますし、「Snakeskin」にしても後半に行くにつれてサイケな音が繰り広げられてきます。

また、今回のアルバムは、サウンドにスカスカさを感じた前作とは異なり、比較的ドリーミーな音に埋められた印象を受けます。そこらへん、いかにもインディーバンド然としていた前作にはちょっと違う印象を受ける部分もあるかもしれません。

ただ、最初に書いた通り、メロディーが美しいという彼らの特徴は本作も健在。最初聴いてピンと来なくても、2度3度聴くうちにはまっていってしまう「スルメ」なアルバムというのもいままでの作品と共通する大きな魅力でした。今回もまた、何度か聴くうちにもっとはまっていってしまいそう・・・。

評価:★★★★★

DEERHUNTER 過去の作品
HALCYON DIGEST
MONOMANIA

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2015年12月18日 (金)

40年目のライブ

Title:4 Nights of 40 Years Live
Musician:The Robert Cray Band

アメリカのブルースギタリストRobert Crayのライブ盤。1974年に21歳でThe Robert Cray Bandを結成してちょうど40年目にあたる昨年12月に、ロサンジェルス近郊で四夜にわたって行われたライブの模様を収録したCDに、DVDがセットとなった内容。また、ボーナスディスクでは1982年と1987年のライブ音源を収録されており、彼の40年の活動を総括したような内容となっています。

彼の楽曲はコンテンポラリー色が強い作品から、ソウル色の強い作品、さらにはブルージーなギターをたっぷりと聴かせる作品など、バラエティーのある作風。特に哀愁たっぷりに歌い上げるメロを聴かせる作品が多く、そのギターもさることながら、その歌声に思わず聴き入ってしまう曲も少なくありません。

ライブアルバムとしては若干、音の荒さを感じるのですが、逆にそれはライブの雰囲気をよく伝えるために思います。実際、客の歓声も収録されているほか、ちょっと一歩下がった位置から録音されたように聴こえるため、聴いている側もライブ会場にいるような錯覚におちいるライブアルバムになっていました。

Disc2の80年代のライブ音源との聴き比べもユニーク。やはり音的にも若々しさを感じますし、なにより80年代的な空気を演奏から感じます。また、その当時から渋みのある歌声を聴かせてくれていましたが、今の彼の歌声に比べると、やはり若さを感じます。

そんな訳で、ライブの雰囲気満載で大満足だったCDでしたが、一方、ライブDVDについては正直、ちょっと期待していたほどじゃありませんでした。

ライブは一部ドキュメンタリー形式で、若き日のクレイのライブの模様が収録されていたり、エリッククラプトンやバディ・ガイといった大物へのインタビュー、また曲に対するクレイの思いを語ったシーンが挿入されてきます。

今回、輸入盤を購入したため、残念ながらここらへんのインタビューに関してはほとんど聞き取れませんでした。まあ、それは仕方ないことなのですが、ライブ映像がメンバーのクローズアップが多く、正直、CDと比べるとライブ会場の雰囲気がいまひとつ伝わりづらく感じました。途中にインタビューが挿入されるのもライブの流れを切ってしまうみたいでちょっと残念。もちろん、演奏自体は申し分ないのですが、期待していたほどじゃなかったな、というのが正直な感想です。

そんな訳で、CDは5、DVDは4といった感じ。もっとも、クレイの魅力は十分伝わってくる内容だったとは思うのですが・・・。

評価:★★★★

Robert Cray 過去の作品
NOTHIN BUT LOVE
In My Soul

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2015年12月15日 (火)

前作に続いてベスト10ヒットも

Title:Depression Cherry
Musician:Beach House

前作「Bloom」が高い評価を受け、大きな評判となったアメリカの男女ポップ2人組ユニットの約3年ぶりとなる新作。その前作「Bloom」はアメリカビルボードチャートで最高位7位を記録するなど、売上面でもヒットを記録。続く本作も、前作の余波を受けるような形で、最高位8位のヒットを記録しています。

評価の高かった前作からの次の一歩としての本作。どのような作品をリリースしてくるのか、期待がかかった作品ですが、良きにつれ悪しきにつれ、基本的には前作と同じ方向性のように感じました。女性ボーカルヴィクトリア・ルグランのクリアな歌声に、ドリームポップと称される、シンセをつかったホワイトノイズのサウンドが繰り広げられるスタイル。心地よいサウンドでつつまれたポップな作品が続きます。

ホワイトノイズが繰り広げられるといっても、圧巻のノイズで包んで・・・というスタイルではありません。楽曲の中であくまでもメインとなるのはヴィクトリア・ルグランの歌う唄。前作の感想でも書いたのですが、この手のバンドにありがちな、「歌は楽器の一部」というスタイルではなく、楽曲の真ん中に歌がデンと鎮座ましましているような感じになっています。

そんなBeach Houseらしさを感じるのが「Beyond Love」でしょうか。ノイジーなサウンドからスタートするイントロは、いかにもドリームポップらしいサイケっぽい雰囲気になっているものの、歌がはじまると一変、しっかりとポップなメロディーラインを聴かせるような構成になっています。「Sparks」あたりも美メロともいえるメロディーが耳に残りながらも、アレンジが微妙にゆがんだ感じなのがおもしろい印象を受けました。

ただ、今回の作品、前作に比べるとメロディーラインがちょっと後ろに下がってしまい、逆にサウンドが前に出てきてしまったような印象を受けます。まあ、基本的には本作もメロディー主体なのは変わらず、若干といった程度の印象なのですが・・・。しかしその結果、サウンドが正直ちょっとチープに聴こえてしまったような感を受けます。

彼らの用いるサウンドは、80年代的というか、おそらく狙っているのでしょうが、チープさを感じるサウンド。それはそれでおもしろいといえばおもしろいのですが、今回のアルバムに関しては、メロディーに比べてサウンドが前に来た点、また前作に比べるとサウンドが少々シンプルになったことから、悪い意味でチープな印象が前に出てきてしまったように思います。

ポップなメロディーは前作同様、気持ちよいですし、前作が気に入ればおそらく聴いて損のない内容だとは思うのですが・・・。良質なポップアルバムだった前作に比べると、ちょっと物足りなさも感じてしまったアルバムでした。

評価:★★★★

Beach House 過去の作品
Bloom

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2015年12月14日 (月)

全世界で大ヒット中

Title:25
Musician:Adele

前作「21」が全世界で3,000万枚以上を売り上げるという驚異的なセールスを記録したイギリスのシンガーソングライターAdele。当然、このアルバムも注目をあつめ、アメリカではニールセン調査で1週間で338万セットを売り上げ、1991年の調査開始以来、1週間でもっとも売れたアルバムになったそうです。

Adeleを評する場合、一番ピッタリ来る言葉は「とても良質な大人のポップス」という言い方でしょうか。若干陳腐な表現かもしれませんが、大人のポップスという言い方は彼女の音楽に対して一番しっくり来ます。基本的にR&Bやソウルの要素を取り入れたポップスなのですが、そのサウンドには決して今風ではありません。ピアノの音を取り入れつつ、歌とメロディーをしっかりと聴かせるスタイル。目新しさこそありませんが、ポピュラーミュージックとしての王道を愚直に進んでいる、といった印象を受けます。

歌詞にしてもストレートなラブソングがメイン。優等生的・・・とまで言えるかどうかはともかくとして、比較的広い層のリスナーが安心して聴けるような内容になっています。この愚直なまでの大人のポップスという路線と、広いリスナー層にアピールできるラブソングというスタイルが、彼女のアルバムが記録的ヒットを獲得した大きな理由でしょう。

今回のアルバムに関しては、いままでのソウル路線がちょっと薄くなり、代わりにポップス路線が強くなったように思います。例えば「SEND MY LOVE(TO YOUR NEW LOVER)」「WATER UNDER THE BRIDGE」などといった曲はいままでの彼女の曲に比べて、爽やかなポップス色が強くなっています。

また、彼女のボーカルもまたすごみを増しています。もともとデビューアルバム「19」の頃から、その年齢からすると信じられないほどの老成されたようなボーカルが魅力的でしたが、年齢を経るに従い、表現力がより加わり、ボーカルの声量もより強くなったように感じます。以前リリースしたライブ盤「LIVE AT THE ROYAL ALBERT HALL」ではCDより、よりパワフルなボーカルが魅力的でしたが今回のアルバムでは比較的その水準に近い力強いボーカルをCD音源でも楽しむことが出来ました。

今回、特に惹かれたのは「MILLION YEARS AGO」。アコギのアルペジオのサウンドに、泣きのメロディーを聴かせるムーディーな雰囲気の曲。しんみり歌い上げる彼女のボーカルと相成り、心に染み入ってくる名曲に仕上がっています。さらにそれに続く「ALL I ASK」も絶品。この曲、かのBruno Marsとのコラボ曲で、そのため彼女の曲としてはポップステイストの強い曲になっています。それだけにインパクトあるメロディーに仕上がっており、彼女の新たな可能性を感じるナンバーになっていました。

そんな訳でポップス路線によりシフトしたことにより、より多くのリスナー層へのアピールが出来るようになったと感じた新作。もちろん、いままでのソウル路線もちゃんと残していますので、そういう意味でいままでのファンにも納得の作品だったのではないでしょうか。前述の通り、決して目新しさはないものの、まさにこれぞ良質なポップソングといった名曲が並んでいます。でもなぜか、日本では海外ほど売れないんだよなぁ・・・。確かに、ちょっと地味といえば地味なのかもしれませんが・・・是非、幅広いリスナー層にチェックしてほしい傑作です。

評価:★★★★★

Adele 過去の作品
19
21
LIVE AT THE ROYAL ALBERT HALL

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2015年12月13日 (日)

1枚目と同様

Title:Every Open Eye
Musician:
Chvrches

スコットランドのグラスゴー出身の3人組バンドCHVRCHES(チャーチズ)。イギリスBBCによる有望な新人に与えられる「The Sound Of 2013」で5位になるなど話題となり、デビュー作である前作「The Bones Of What You Believe」もイギリスのアルバムチャートで9位にランクインするなど、大きな話題となりました。

ただ、この手のバンドは1枚目調子よくても、2枚目は失速、というのはよくあるパターンです。しかし彼女たちに関しては、2作目となる本作、イギリスのチャートでは4位にアップ。さらにはアメリカのビルボードチャートでも最高位8位を記録した上、日本のオリコンチャートでも39位まであがってくるなど、好調な結果となりました。

もっとも、このアルバムが好調だった理由もわかるような気がします。彼女たちの奏でるサウンドは、ちょっとチープさも感じるエレクトロサウンドにポップなメロディーライン。エレクトロサウンドも耳馴染みやすいのですが、メロディーラインにはしっかりと耳に残るインパクトがあります。さらにボーカル、ローレン・メイベリーのキュートなボーカルも魅力的。ポップでキュートなガールズポップは、良くも悪くも幅広く受け入れられそうなポップソングで、だからこそ、2作目となった本作は、デビューアルバム以上のヒットとなったと思います。

また、彼女たちの書くメロディーは展開がわかりやすく、サビの部分もはっきりした楽曲も多いため、ある意味、J-POP的。ちょっと80年代なサウンドも入ったりして、懐かしさを感じつつ、素直なポップソングにワクワクする、という点は前作と同様でした。

典型的なのは「Make Them Gold」。イントロのリズムの入り方なんか、もろ80年代(笑)。こちらは日本盤のボーナストラック曲なのですが、「Bow Down」なども軽いバスドラでテンポをとりつつ、手拍子らしき音でリズムを取るというスタイルにももろ80年代を感じます。

一方では「Down Side Of Me」ではミニマルで細かいビートのサウンドに、ちょっと今風の匂いを感じたり、本編ラストの「Afterglow」ではドリーミーなサウンドに仕上げてきたりと、ここらへんのバリエーションは前作同様。今回も男性ボーカル曲も2曲入っています。

そんな訳で、基本的にはデビュー作を踏襲した2作目になっています。ともすればデビュー作とは異なることをやりがちな2枚目で目新しいことをせずに前作と同様の作品をつくってくるというあたり、彼女たちがあくまでもポップであることを真摯に追及しているようにも感じました。そしてそんな彼女たちのアルバムは前作同様、聴いていてワクワクするポップソングらしい楽しさがつまった作品になっていたと思います。

前作同様の傑作だったのは間違いないと思うのですが、ただし、勢いという点ではやはり前作の方に分が上がるかも・・・。はじめて彼女たちを聴く方は、まずはデビューアルバムから入るのがお勧め。その後このアルバムを聴けば、間違いなく満足すると思うのですが。

評価:★★★★★

Chvrches 過去の作品
The Bones Of What You Believe


ほかに聴いたアルバム

今回はプリンスが2枚同時にリリースしたアルバムの紹介。

ART OFFICIAL AGE/PRINCE

こちらはプリンス単独名義となるアルバム。

PLECTRUMELECTRUM/Prince & 3rdeyegirl

こちらはプリンスと、バックバンド3rdeyegirlとの合同名義となるアルバムです。

「ART OFFICIAL AGE」は実にプリンスらしい作品といった感じでしょうか。基本的にファンキーなサウンドを聴かせてくれるのですが、エレクトロビートが主体。それが今風だったり80年代の雰囲気を感じたりして、懐かしさと新しさが同居したようなアルバム。まさに2010年代のプリンスといった感じの作品でした。

一方、「PLECTRUMELECTRUM」はバンドサウンドメインのロックアルバム。ギタリストとしてのプリンスの才も感じられたりするあたりがユニーク。ファンキーなサウンドをロックに奏でてくれるあたり、純粋にロックリスナーとしては楽しめる作品。ただ、ちょっとロックサウンドが一昔前っぽいというか、良くも悪くもベタなのが気になりましたが。

評価:
ART OFFICIAL AGE ★★★★★
PLECTRUMELECTRUM ★★★★

PRINCE 過去の作品
PLANET EARTH

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2015年12月 7日 (月)

今年もまた恒例の・・・

Title:2016-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar

Bluescalender2016

毎年恒例、今年もブルースカレンダーの季節がやってきました。アメリカのブルース・イメージ社という会社が毎年リリースしているカレンダーで、CDの付録がついてきています。当時のブルースレコードの広告が載っているカレンダーも貴重なのですが、それ以上に貴重なのが付録のCD。カレンダー記載の広告に沿った戦前ブルースが12曲に、今回はボーナストラックとして8曲が追加。20曲入り60分にも及ぶ内容で、むしろこちらが本編では?というよりも、カレンダーももちろんですが、毎年、こちらのCDを目当てで勝っているわけで(笑)。

また、毎回、マニア垂涎の貴重な音源が収録されていることでも話題となる本作。今年は、長年、現存が確認されていなかったHattie Hydeという女性ブルースミュージシャンの「Special Question Blues」「T&N O Blues」という2曲と、戦前から戦後にもかけて活躍したJaydee Shortの「Tar Road Blues」「Flaggin' It To Georgia」の2曲が収録されています。

Hattie Hydeはしんみりと歌い上げるボーカルが実に味わい深く、力強さと、女性らしいやさしさが包含されたようなボーカルが印象的。他にもHattie Hartという名義でレコーディングを行っているものの、録音が残されているのは20曲程度だそうで、これだけの歌を聴かせながらも「知る人ぞ知る」的な存在なのは実に残念に思いました。一方Jaydee Shortはノイズ混じりで聴くのがかなり辛い録音状況。残念ながらちょっとマニア向けの音源かも。

他にも相変わらず魅力的な音源が揃っているアルバム。軽快なブギウギの、Papa Charlie McCoyのタイトルそのまま「Boogie Woogie」や、ブルースハープで汽車の音を表現しているようなジャグバンドの音が楽しいJed Davenport And His Beale Street Jug Band「Beale Street Breakdown」など楽しいナンバーや、タイトル通り、歩く速度でゆっくりと、味のあるボーカルが魅力的なCharlie Kyle「Walking Blues」のような聴かせるナンバー。また、牧師の説教をおさめたBlack Billy Sundayの「The High Cost Of Sin」「Will You Spend eternity In Hell」などはやはり日本では紹介されにくいだけになかなか貴重で、かつ、当時のアメリカ黒人文化を垣間見れることが出来ます。

名前のインパクトはおそらくブルース界No.1のBarbecue Bobの「Atlanta Moan」が収録されていたり(名前は以前から知っていたのですが、今回、彼の曲をはじめて聴きました・・・)、Blind Lemon JeffersonやBlind Blakeという有名所も。特にBlind Lemon Jeffersonはギターのフレーズが実にユニークで個性的。彼が戦前、絶大な人気を博していた理由も納得。ちなみに今回、彼の代表曲「See That My Grave Is Kept Clean」がボーナストラックとして収録されていました。この曲、今年亡くなったB.B.KINGが最後のオリジナルアルバム「One Kind Favor」の中でカバーしていたのですが、ひょっとして今回、この曲を取り上げたのは、B.B.への追悼の意味もあったのか???

そんな訳で、戦前ブルースで音が若干悪く、万人向けではないのかもしれませんが、文句なしに楽しめたブルースカレンダーでした。また、私の部屋の壁には2015年版が飾ってあるのですが、もちろん年明けと共にこのカレンダーがまた1年、私の部屋の壁に飾られる予定。また1年間、魅力的なブルースのレコード広告のアートワークを楽しめそうです。

評価:★★★★

2013-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2014-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2015-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar

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