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2015年12月11日 (金)

戦前歌謡の奥深さと魅力

戦前のSP盤の復刻レーベルとして、様々な話題のアルバムをリリースしているぐらもくらぶ。個人的にはまってしまい、こちらでも何作か紹介してきましたが、今回は2作同時にリリースされた2枚のアルバムです。

Title:The LOST WORLD of JAZZ 戦前ジャズ歌謡全集・タイヘイ篇

まずは戦前のジャズをおさめたオムニバス。こちらは関西の代表的なレコード会社、タイヘイレコード。そこに残された戦前ジャズを収録したアルバムです。

Title:日本の軍歌・軍国歌謡全集 Vol.1 1932-1943

こちらはタイトル通り、日本の軍歌・軍国歌謡を収録したオムニバス。「Vol.1」というタイトルから今後はシリーズ化を予定しているようで、第1弾は日本ポリドール蓄音機商会からリリースされた曲を取り上げたそうです。

ここ最近、ぐらもくらぶからはやけに軍国歌謡を取り上げた曲が多かったり、あるいは企画色の強いアルバムが続いていましたが、本作はギミックなしに、戦前歌謡をレーベル別に収録したオムニバス盤。資料的価値も高い企画といった感じでしょうか。

一方はジャズ、もう一方は軍歌・軍国歌謡。イメージとしては庶民の「本音」としてのジャズ、「建て前」としての軍歌・軍国歌謡といった感じでしょうか。戦前SP盤を、レーベル別に網羅的に紹介する、という似た方向性の企画ながらも、対照的な音楽のジャンルのオムニバスを同時にリリースするというのがユニークなところです。

もっとも、じゃあ両者が全くかけ離れたものだったか、と言われるとそうではなく、「戦前ジャズ歌謡全集」の中でも「月はよいもの」では、「せめて戦地を 言付けを」という歌詞が登場してきますし、逆に「軍歌・軍国歌謡全集」でも「ボルネオ第一信」はジャズ風のアレンジとなっており、両者が決してかけ離れたものではないことを感じさせます。

さて、そんな2枚のアルバム。まず「戦前ジャズ歌謡全集」ですが、ジャズというカテゴライズをしていますが、戦前は「ジャズ」という言葉を今のジャズという意味合いより広く、「洋楽風」に近い意味で使われていたようで、「ジャズ」にとらわれないジャンルを楽しむことが出来ます。

例えば「南京豆売り」はラテン風ですし、「ハロー青春ウエルカム」「夢見るワイキキ」はハワイアン。「プレガリア」はタンゴ風ですし、最後を締めくくる「雨の夜港」は、今の感覚で言えばおもいっきりムード歌謡曲な曲になっています。

ただそれだけ当時、幅広いジャンルの音楽が日本に入ってきていた、という証拠であり、戦前歌謡の奥深さを感じさせてくれる選曲になっていたと思います。楽曲の雰囲気としても二村定一が歌ってコミカルさのある「エアーガール」からスタートし、エキゾチックな「土人のお祭り」、軽快で楽しいダンスチューン「艦隊を追って」など様々。戦前歌謡の魅力にたっぷり触れられるオムニバスです。

もう一方の「軍歌・軍国全集」。こちらは「初復刻となる貴重な音源を中心に構成する」という記載があるようにマニアにとってもうれしい内容(と思われる)反面、「敵は幾万」「愛国行進曲」などともすれば軍歌を全く聴かない人でも「どこかで聴いたことあるような・・・」と思う有名曲もしっかりと収録されており「全集」らしい選曲になっています。

正直言ってしまえば、この2枚のうち、どちらがより楽しめたかと言われると「軍歌・軍国全集」。こちらの方が圧倒的にメロディーがわかりやすくインパクトがあり、また「愛馬進軍歌」のような物語性があり、歌い手の心境も織り込んだ、より心に響く曲もあったりします。それはおそらく、「軍歌・軍国歌謡」が聴き手を鼓舞する、という目的のはっきりした音楽だからでしょう。

ただこちらは純粋にお勧めできるか、と言われると、これは以前にも書いたのですが、明らかに今となっては受け入れられないような帝国主義的な価値観の下に書かれた歌詞は、変にはまってしまうと思想が「偏ってしまう」危険性は間違いなくあると思います。そういう意味では聴き手を選ぶオムニバスかもしれません。下の1つマイナスはそういう理由。ただ、「これはこういうもの」という割り切りの上で聴く分には非常に楽しめる1枚だと思います。

どちらも戦前歌謡、SP盤の魅力がしっかりと伝わってくるオムニバス。どちらも続編がリリースされそうな雰囲気なだけに、次の作品も楽しみです。

評価:
戦前ジャズ歌謡全集 ★★★★★
軍歌・軍国全集 ★★★★


ほかに聴いたアルバム

空からの力 20周年記念デラックス・エディション/キングギドラ

ZEEBRA、K DUB SHINE、DJ OASISの3人が所属しているHIP HOPユニットキングギドラ。日本のHIP HOP黎明期に活躍していた「伝説」とも言えるユニット(現在はKGDRの名前で再結成中)なのですが、そんな彼らが、1995年にリリースしたアルバムが本作。日本のHIP HOP史に残る名盤としても知られる本作ですが、リリース20年を記念してリマスター。さらにボーナストラックとして1996年にリリースされたリミックスアルバム「影」と、DVDとして1998年にリリースされた「影 The Video」が付属された豪華な仕様となっています。

本編はなによりもジャジーな雰囲気のダークなトラックがカッコいい。今聴いても十分カッコよさを感じるトラックに、これが名盤と言われても納得のクオリティーを感じます。リリックは社会派なリリックで若干中2的なリリックもあるのですが、「誰かの夢が又、行方不明」といったインパクトあるパンチラインを書いてくるのはさすがです。

付属のDVDはわざとピントをはずしたエフェクトはいかにも80年代的で時代を感じさせます。そのため、今見ると、ちょっと古さも感じてしまうのは残念。こちらは貴重な映像資料といった感じでしょうか。

とはいえ、アルバムの内容としてはさすが「名盤」の誉れ高い作品だけある内容。最近、HIP HOPを聴きだしたような方は間違いなく聴くべき1枚だと思います。

評価:★★★★★

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