いままで以上に強いメッセージ性
Title;にじむ残響、バザールの夢
Musician:中川敬
ソウルフラワーユニオンの中川敬によるソロアルバム第3弾。自称「大物新人フォーク歌手」である彼のソロアルバムは、毎作、アコースティックギターがメインの構成となり、フォーク色が強い作品なのですが、今回の作品はよりフォーク色が強くなったように思います。冒頭の「十字路の詩」など、爽やかなアコギの音色など、もろ四畳半フォークといった雰囲気ですし、「ひとつの小さな名前」なども三線が入っていてソウルフラワーらしい雰囲気がありつつも、フォークギターを前に押し出したアレンジは、そのまんまフォークソングといった雰囲気になっています。
さて、中川敬、あるいはソウルフラワーユニオンといえばご存じの通り、その活動、MCやTwitterでの発言などでリベラル寄りの政治的発言が多くみられます。特に最近は、安保法案や原発問題、ヘイトスピーチや米軍基地の辺野古移設問題などで積極的な発言、あるいは活動を続けています。そんな中、安保にしろ辺野古にしろ政府による強権的な施策が特に目立つようになってきましたし、露骨な差別を繰り広げるいわゆる「ヘイトスピーチ」も残念ながら全くやんでいません。
そんな現状からでしょうか、いままでの彼のソロ作はどちらかというと素朴な感じの曲が多かったのですが、今回のアルバムに関してはまず非常に「重さ」を感じました。重さというのは音楽的な話ではありません。爽やかなアコースティックギターが鳴り響く作風には重さは全くありません。また、今回の作品でも声高に政治的な主張を直接的に叫んでいる部分はあまりありません。
ただ、今回の作品で彼が書いた歌詞からは、明確に昨今の日本に対するメッセージを読み取ることが出来ます。例えば「十字路の詩」で描かれている風景は、デモの現場の状況を描写した内容になっていますし、東京大空襲の後の戦災孤児を描いた「地下道の底で夢を見てる」は戦争反対というメッセージから、昨今話題の安保法制に対するメッセージ性を感じることが出来ます。
一方今回のアルバム、後半はカバーソングが並んでいます。前半の重いメッセージ性を込めた曲に比べると、こちらは比較的優しい歌が並んでいます。シーナ&ロケットや忌野清志郎、あるいはルー・リードなどのカバーが並び中、その筆頭に来ているのが朝鮮民謡の「アリラン」というのもまた、中川敬からのメッセージ性は感じる並びになっています。
そんな訳でオリジナルからは強いメッセージ性と、カバー曲からは優しさを感じさせるアルバム。アルバム全体としてはやはり「重さ」を感じさせる部分が多く、個人的には気軽に聴けるこれまでのアルバムに比べると、少々頭でっかちさを感じてしまいました。また、ちょっと気になったのは、この現状を打破するためのおそらくメッセージとして最後に収録されたイギリスのミュージシャン、ビリー・ブラッグのカバー「団結は力なり」。「聞け 万国の労働者 団結こそが力なり」と歌われる、それこそここ100年くらいの単位で何ら変わり映えのしないメッセージ性に、ここ最近、リベラル勢力が退潮である理由をイタイほど感じてしまいます。個人主義が広がり、多様性が重視される現在において、こういうメッセージが広く支持されるとは、正直とても思えません。自分たちの主義主張を広めるのならば、正しいことを声高に叫ぶのではなく、自分たちの主張を受け入れてもらうためには伝え方にどのような工夫をすればよいのかというのが重要だと思うのですが・・・昨今のリベラル勢はこの視点がもっとも欠けているように思えてなりません。
そんな気になる部分もありつつ、ただアルバム全体としてはやはり強いメッセージ性含めて中川敬というミュージシャンの魅力と、そして信念が伝わってくる傑作だったと思います。さすがは「大物新人フォーク歌手」です。
評価:★★★★★
中川敬 過去の作品
街道筋の着地しないブルース
銀河のほとり、路上の花
ほかに聴いたアルバム
es or s/凛として時雨
全5曲入りのミニアルバム。急かすようなハイテンポの演奏に男女ボーカルが交互に展開される「SOSOS」を主軸に、ガレージ風のギターリフが展開するロック色強い「Karma Siren」や悲しげなメロディーが印象的な「end roll fiction」などそれなりにバリエーションを展開させつつも、結局はあのハイトーンボイスで聴いた後、似たような後味しか残らない点、ボーカルが彼らの強みでもある一方、弱みでもあるんだよなぁ。
評価:★★★★
凛として時雨 過去の作品
just A moment
still a Sigure virgin?
i'mperfect
Best of Tornado
岡本真夜 20th Anniversary ALL TIME BEST~みんなの頑張るを応援する~/岡本真夜
いや、お前が頑張れ・・・と思わず言いたくなってしまう岡本真夜のベストアルバム。さすがにそろそろこの手の「前向き応援歌」を歌い続けるには年齢的に厳しいのでは・・・なんて思ってしまいます。デビュー当初から「Alone」みたいな大人のポップスも歌ってきた彼女なだけに、無理に「前向き応援歌」スタイルを続ける必要はないと思うんだけど。とはいえ、なんだかんだいってもやはり耳に残るポップソングは書き続けているな、とは思います。それだけに、失礼ながらも年齢なりの曲を・・・とも思ってしまうのですが。
評価:★★★★
岡本真夜 過去の作品
seasons
Crystal Scenery II
My Favorites
Close To You
Tomorrow
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