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2015年11月17日 (火)

独自のロック史もまた楽しい

今回は最近読んだ音楽系書籍の紹介。今回は、ロック好き、いや日本のポップスが好きならとりあえず読んでおきたいと思わせる本です。音楽評論家で90年代には雑誌「米国音楽」を創刊させた川﨑大助氏によるロック評。日本のロック名盤を100枚選んで紹介した、日本のロック入門書的な一冊です。

実は、この本、一応は日本のロックの名盤をランク付けし、リストアップすることが主題の本なのですが、むしろ核になっているのは、ベスト100に続く第二部にあるように思われます。第二部のタイトルは「米英のロックと比較し検証した日本のロック全歴史」。タイトル通り、日本のロック通史になっているのですが、これが実に興味深い内容になっています。

このロック通史、正直言えばかなり癖があります。「川﨑史観」とでも言ってもいいような内容になっており、ともすれば最近では珍しくなってしまった「ロック至上主義」的な観点からの日本のポピュラーミュージック史にもなっています。

彼がこの通史の中で徹底的に「歌謡曲」「ニューミュージック」「Jポップ」といったものを否定しています。彼はこれらの名称を「人工的」なものとし、このような人工的な名称を生み出すのは、「『目の前にすでにあるものすべて』を、ひと束ねにして『取り込もう』とする」日本人の心情ゆえと分析しています。そして日本人はこのような現状をひとつの言葉で束ねることにより肯定し、「安定した平穏が訪れるように感じられるのだろう」と分析しています。

一方でロックンロール(=ロック)という言葉は「『まだここにない』理想を掲げた言葉」であり、あるべき「理想」を掲げて前進しているからこそロックおよびポップ音楽の文化も発展してきた、と分析しており、結果として日本の「歌謡曲」や「Jポップ」とくくられる音楽文化を痛烈に批判しています。ロック=理想というあたり、若干「ロック至上主義」的な部分を感じてはしまうのですが、確かに日本人の風潮として「現状肯定」という部分は感じます。それはもちろんプラスに働く部分もあるので、必ずしも「欠点」とは思わないのですが、一方で音楽文化についてはマイナスに作用しているという指摘については納得感があります。

またこの通史の中の分析で私がもっとも首肯したひとつが昨今のアイドル文化に対する痛烈な批判。アイドル文化を「性的願望を主軸とした男性の古典的な欲求を、無制限に肯定し続けることで対価を得ようとするビジネス」と評しており、北朝鮮の「喜び組」と等しいとしています。そして「ポルノまがいの『欲望の無制限な肯定』のシステムに負けた」今のロックに対して大いに嘆いていました。

昨今は、ロック系のメディアにおいても女性アイドルを無条件で受け入れる風潮があり、個人的には非常に違和感がありました。別にアイドル文化を全否定するわけではありません。ただ、個人的には川﨑氏がアイドルに対して評しているような、男性の、ある意味男尊女卑的な女性観を押し付けているような風潮は確実に感じられ、そういうシステムを例えば「音楽的に優れている」という理由だけで無条件で肯定するような一部メディアや評論家の論調には疑問を抱いていました。それだけに、彼のアイドル文化に対する指摘については、個人的には非常に溜飲が下がる感すらありました。

もっとも、これだけ独特の主張なだけあるので、よくよく考えると若干疑問に思うような記述もあります。例えばアイドル文化批判についても、じゃあ女性アイドルと同等に人気を博している男性アイドルはどうなんだ?という反論はありそうですし、個人的に一番疑問に感じたのは、60年代のフォークミュージックに対する過小評価。本書の中で日本のフォークに「ルーツ音楽の探求という側面は、ほとんどまったく、なかったように思える」と記しているのですが、え?もっとも著名なフォークシンガーの高田渡とか、日本にしろアメリカにしろ様々なルーツ音楽を楽曲に取り入れているんですが・・・。私自身、それほどフォークに詳しくないのですが、それでも彼のフォークに対する評価に関しては正直疑問に感じました。

それだけに、本書の一番の「売り」である日本のロック名盤ベスト100についても基本的に、この「川﨑史観」を前提としたものとなっています。彼自身は「僕の『パーソナル・ベスト』を記したものではない」と書いており、確かにそれは事実なのでしょうが、例えばフォークに対する評価の低さから、通常この手の名盤リストに登場しそうな岡林信康の「わたしを断罪せよ」や井上陽水の「氷の世界」は入っていません。逆に「米国音楽」を創刊した彼の好みからなのでしょう、いわゆる「渋谷系」のミュージシャンは多数ランクインしており、例えばカジヒデキとかかせきさいだぁとか、確かにいい名盤には変わりないのでしょうが、正直、上位100位に入るレベルか?とは思ってしまいます。

また、X JAPANやBOW WOW、ラウドネスといったロック系メディアでは過小評価されているメタル系は比較的高い評価を与えていますし、また海外での評価をやたら強調しています。この海外での評価という点はかなり疑問。「日本の音楽が海外で受けた」というニュースって、バイアスがかかりまくっていて、正直、かなり眉唾ものの情報が多いんですよね・・・。

ほかにもナンバガやくるりが氣志團より下ってことはないんじゃない?とか、ユニコーンとかSUGAR BABEはなんで入ってないの?とか思う部分はいろいろあるのですが、ただここで選ばれた100枚は間違いなく日本ロックの名盤リストのひとつのたたき台として非常に意義深いリストであることは間違いないと思います。また、ともすればJ-POP的とみなされがちなミスチルやBOOWYがランクインしていたり、ミューマガ近辺では完無視のマキシマム ザ ホルモンがランクインしていたり、アイドルは×だけどPerfumeはありなのね?(同意するけど)なんて面もあったりと、全体的にはそれなりにバランスが取れた「名盤」がきちんと並んでいます。あのミュージシャンがいないよな、とか、あのミュージシャンで選ぶならあのアルバムだよな、なんてことをニタニタしながら考えるのも楽しいかと。

そんなわけで癖がある部分もあるのも否定できないものの、日本のロックに興味がある方ならば必読の一冊だと思います。これをベースにベスト100と呼ばれるアルバムを聴いて、その上で彼の掲げる「川﨑史観」についてあれこれ考えるもの楽しい作業だと思います。自分ももちろん、ベスト100にあげられたアルバムをすべて聴いているわけではないので、これを機に、上位から順番に聴いてみようかな。

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