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2015年11月 9日 (月)

不思議な感触のアルバム

Title:セロファンの空
Musician:湯川潮音

湯川潮音の1年半ぶりとなるニューアルバム。微妙なダサジャケとなった本作ですが(笑)、聴いてみて、なんともいえない不思議な感触を覚えたアルバムになってみました。

聴き始めて序盤に関しては、幻想的な世界観は感じるものの、インパクトも薄く平凡なアルバム、という印象をまず抱きました。アコースティックサウンドがベースの「birch」にしても「未来のルーシー」にしても、輪郭のはっきりしたポップなメロディーラインが流れているがゆえに、「普通のJ-POP」的な捉え方をしてしまい、「普通のJ-POP」としてはインパクトが薄いな、という印象をまず受けました。

ただ、この「わかりやすいメロディーライン」の曲が単なるつかみだった、と気づくのはその後。続く「役者」は複雑なドラムスとリズムとアコギのからみが非常にユニーク。そこに流れるフルートとストリングスの音色が奏でるファンタジックな雰囲気にまずは「おや?」といった印象を受けます。

さらに強く印象に残ったのが続く「i l l i...」。タイトルからして奇妙なこの曲は細かいリズムトラックにシンセやホーンの音色が複雑にからみあい、さらにそこに重なるハイトーンボイスで、ファンタジックながらも奇妙な世界を作り出しています。

もともと湯川潮音の曲といえば、アコースティックなサウンドで幻想的な世界観を作り出していました。ただここ最近の彼女のアルバムはその雰囲気は魅力的だったのですが、サウンドも含めていまひとつインパクトが薄い、という印象をうけていました。

しかし今回のアルバムは、その幻想的な世界観という方向性はそのままに、アコースティックメインだったここ最近の作品から一転、ギターサウンドやドラムス、ホーンセッションやシンセのサウンドなどを積極的に取り込み、その音の世界を一気に広げています。

その後に続く「ハイエナのイエナ」ではアカペラからスタートし、美しい世界観を広げつつ、中盤から登場するバンドサウンドでアカペラで築き上げた幻想的な世界が崩されるスタイルがユニーク。さらに「ジョーカー」でもノイジーなギターサウンドとへヴィーなドラムスが繰り広げるダイナミックな音が魅力的。ここ最近の彼女の曲にはないサウンド構成でありながら、ちゃんと湯川潮音の世界を作り上げていました。

もともとその世界観には独特の魅力があっただけに、サウンドできちんとインパクトを出してきたら、そりゃあ傑作が産まれるでしょう。そしてそんな傑作がまさに本作。様々に繰り広げられる音の世界に、聴き終わった後、実に不思議な感触を覚える作品になっていました。彼女の魅力を存分に感じることが出来る傑作でした。

評価:★★★★★

湯川潮音 過去の作品
灰色とわたし
Sweet Children O'Mine
クレシェンド
濡れない音符


ほかに聴いたアルバム

DOGMA/the GazettE

約2年ぶりとなる新作。前作「BEAUTIFUL DEFORMITY」はバンドのへヴィネスさを前に押し出した作品になっていましたが、本作も特に前半、ハードコア路線を前面に押し出した作品になっていました。後半は耽美的なボーカルのいかにもビジュアル系といった雰囲気の曲が多かったものの、全体的にはビジュアル系が苦手な層にもアピールできそうな内容になっていました。ただ、ハードコア路線が全体的に「どこかで聴いたような」感があり、個性が若干薄いのが残念なのですが。

評価:★★★★

the GazettE 過去の作品
TRACES BEST OF 2005-2009
DIM
TOXIC
DIVISION
BEAUTIFUL DEFORMITY

夢のおかわり/フラワーカンパニーズ

今年12月、初の武道館ライブを予定しているフラワーカンパニーズのミニアルバム。派手な活躍がなくても一生懸命がんばっている人たちへの応援歌「消えぞこない」や、大人になっても子供の時のような夢を見続ける人たちを歌った「三十三年寝太郎BOP」など彼ららしい歌詞を骨太なロックにのせて歌い上げます。ある意味、非常にフラカンらしい楽曲が並んでいて、武道館を前にフラカンとはどんなバンドか知るためにはうってつけの1枚。ただ、短い内容なだけに一度聴いたら忘れられないような核になるような曲がないのがちょっと残念なのですが。

評価:★★★★

フラワーカンパニーズ 過去の作品
フラカン入門
ハッピーエンド
新・フラカン入門
Stayin' Alive

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