BBへ捧ぐ2冊
今年5月、御年89歳で惜しまれつつこの世を去ったB・B・KING。日本でも高い人気を誇る彼らしく、彼を追悼する2冊のムック本が発売されました。
まずはシンコーミュージックのムック本、THE DIG Special Editionという形式での追悼本「B・B・KING」。昨年、同じTHE DIGシリーズでブルースに関するムック本「ブルースの百年」が発売されましたが、その延長線上という形で、「ブルースの百年」を手掛けた音楽評論家の藤田正氏と中村政利氏による編集となっています。
一方、日本で唯一のブルース雑誌「ブルース&ソウル・レコーズ」の増刊号としてもB・B・KINGの追悼本が出されました。
「B・B・キング完全読本」と名付けられた本作は、通常の「ブルース&ソウル・レコーズ」誌のちょうど2倍の大きさの雑誌となっています。
さて、そんな私はB・B・KINGに詳しいのか、と問われれば、「LIVE AT THE REGAL」や「LIVE&WELL」といった定番中の定番を聴いたことがある程度。まあ、はっきりいってしまえば初級者といった感じなのですが、それなので良い言い方をしてしまえば、新鮮な気分で読むことが出来ました。
で、2冊を読み比べた結果、あくまでも初級者という視点なのですが、THE DIGの「B・B・KING」の方がおもしろかったです。冒頭に貴重な音楽が並んでいるのが目を惹くのですが、一番素晴らしかったのが序盤の宇崎竜童と近藤房之助へのインタビュー記事。宇崎竜童のインタビューは、わずか4ページという長さながらもB・B・KINGへの愛情あふれるメッセージで、ともすればブルースらしくないということで一部で批判を集めていたB・B・KINGへの評価に対する痛烈な反論と、それに伴うB・B・KINGというブルースシンガーに対する本質を突いた評価が非常に印象的で興味深いインタビュー記事となっています。
近藤房之助へのインタビューに関しても、B・B・クィーンズについて、ご本家から使用の許可をもらっていたというのが印象的(笑)。こちらも日本のブルースマンからのB・B・KINGへの愛情あふれるインタビューがとても心に残りました。
B・B・KINGの生い立ちを紹介した記事についても物語性ある記述がされており読ませます。特に最初の奥さん、マーサ・リーへのプロポーズのシーンなどはなかなか素敵。貧乏だった彼らはライブ会場に入れず、ライブ会場に開いた壁の穴からルイ・ジョーダンのライブを見た後、その帰り道の馬車でプロポーズというエピソードはその時のB・Bの気持ちも想像でき、読んでいてドキドキしてしまうものもありました。
一方、「B・B・キング完全読本」の方は、少々理屈っぽさが先走っているといった感じ。細に入ったような記述が多く、もうちょっと上級者向けといった印象も。また執筆者がいつもの「ブルース&ソウル・レコーズ」の執筆陣で、それはそれでもちろん悪くはないのですが、ちょっと物足りないような感じもしてしまいました。
両者の違いが最も顕著だったのがディスク・ガイドで、執筆陣を絞ったために、アルバム毎のつながりがあって、ディスク評を読めばB・B・KINGの音楽的遍歴がよくわかるような構成になっていたTHE DIGに比べて、「完全読本」の方は、収録曲1曲1曲の記述が詳しかった反面、B・B・KINGの全体像がディスク評からは読み取りずらかったように感じます。
その違いでおもしろかったのがアルバム「The Jungle」のディスク評。B・Bの代表作のひとつとされるこのアルバムを、「完全読本」では「BBのベスト作となる傑作アルバム」と最大限の評価をしているのに対してTHE DIGでは「代表作とするのはBBへの侮辱でしかない。」とこき下ろしています。このアルバム、実は私自身は未聴のため、どちらの評価が正しいとは言えないのですが・・・真向から異なる見解は読み比べてとても興味深いものがありました。
「完全読本」も決して悪くはなく楽しめたのですが、どちらか1冊、と言われるとTHE DIGの方に軍配があがるなぁ。特に私のような初級者は、THE DIGを手にとってB・B・KINGというのはどんなミュージシャンか知ることがお勧めです。ただこの両者、共通するのは読んでいて垣間見ることが出来るBBの人柄。非常な女好きだけど、包容力があって暖かい人柄に描かれています。どちらもそんな多くの人たちに愛されたBBの魅力をきちんとつかむことが出来た追悼本でした。
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