へヴィーメタルにこだわらず
Title:XXX-THE ULTIMATE WORST-
Musician:聖飢魔II
1980年代から90年代にかけて活躍し、1989年にはメタル系バンドとしてはじめての紅白歌合戦出場を果たしたへヴィーメタルバンド、聖飢魔II。既に解散から15年以上の月日が経過していますが、その後もたびたび再結成し、ライブを実施していますし、特にボーカルのデーモン小暮は現在もタレントとして活躍。好角家しても知られ、リアルタイムで聖飢魔IIとしての活動を知らない人でもおそらくこのバンドのことを名前くらいは聞いたことある、という方も多いのではないでしょうか。
今年は地球デビュー30周年ということで期間限定で再結成。ライブも行ったりしたそうですが、その機にリリースされたのが本作。彼らの活動を網羅したオールタイムベスト。3枚組全50曲にも及ぶフルボリュームの内容で、彼らの活動をあらためて知ることが出来るベスト盤(悪魔である彼らに言わせるとワースト盤)になっています。
このサイトを見てくださっていればわかると思うのですが、私自身、へヴィーメタルはほとんど聴きません。正直、技巧を重視したり様式美を求めたりするへヴィメタは個人的にあまり良いとは思えず、積極的に聴くことはありません。ただ、彼らについてはリアルタイムに聴いていた懐かしさもあり今回、フルボリュームとなるベスト盤を聴いてみました。
ただ、改めて彼らの代表曲を聴いて感じるのは、へヴィーメタルバンドとしてのイメージから大きくはずれて、彼らの音楽は良い意味でポップで聴きやすいという点でした。例えば彼らの代表曲のひとつである「蝋人形の館」は歌詞こそ「悪魔」という彼らのコンセプトにピッタリの不気味な内容ではあるのですが、メロディーラインは非常にポップでインパクト十分。だからこそ、へヴィーメタルをお茶の間レベルに浸透させることが出来たのでしょう。
また今回のアルバムで彼らの特徴として強く感じたのは、へヴィーメタルにとらわれない音楽性の幅広さ。へヴィーメタルな曲はもちろん、もっとハードロック寄りの曲も多く、「ANGEL SMILE」などはしんみり聴かせるともすればAOR風のナンバーですし、「WINNER!」は仰々しいスペーシーなサウンドは、もろ産業ロック。「PANDEMIC CARRIERS」のギターサウンドにはむしろオルタナ寄りのにおいも感じますし、「BABIES IN THEIR DREAMS」では歌謡曲の雰囲気も感じます。
そんな中で一番驚いたのが「20世紀狂詩曲」。ラップが入った完全なミクスチャーロック。これ、1999年の作品なのですが、RAGE AGAINST THE MACHINEやKORNなどが日本でも人気を集め、ちょうどDragon Ashがブレイクした年。このタイプのラップメタルが日本でも聴かれるようになった中での楽曲なのですが、彼らのようなその時期には既にベテランバンドの域に達していたバンドが、その当時の先端の音楽を積極的に取り入れたというのは驚きであり、かつ彼らの音楽に対する柔軟な姿勢を感じることが出来ます。
正直言って、彼らの音楽は決して「非常に目新しい」訳ではありません。上に書いた「20世紀狂詩曲」にしても1999年の段階でメジャーになったジャンルの音楽。そういった意味では決して時代の先端を行く斬新なバンドでもありませんし、ほかにはない個性を持った音楽を奏でる、というタイプのバンドでもありません。
ただ、へヴィーメタルというジャンルを主軸に、柔軟に様々な音楽性を取り込み、かつリスナー層を限定しないポピュラリティーあふれる曲に仕上げてくる、という点では実に包容力があり、かつ魅力的なバンドに感じます。「悪魔」というコンセプトを終始一貫して楽曲はもちろん、彼らの活動スタイルに取り込んだ方針もまた、彼らの活動のエンタテイメント性を高める大きな要素となっています。
ともすれば様式美に終始し、「わかる人だけわかればよい」というマニア向けにこだわりがちなへヴィーメタルというジャンルの中で、彼らのようなスタンスは異質でもあるのですが、だからこそ逆に私のようにへヴィーメタルを聴かない層でも楽しめたのだと思います。
DISC2に収録されている産業ロック路線など、今聴くと少々時代を感じてしまう曲もあるものの、へヴィーメタル好きではなくても楽しめる「ポップス」の要素の強いベスト盤でした。リアルタイムで彼らを知らなくとも、これを機に是非。広い層が楽しめる楽曲が並んでいます。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
ETERNAL ADOLESCENCE/SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
長い名前が印象的なこのバンドは、日暮愛葉により1992年に結成され、1996年にトラットリアからデビューしたギターロックバンド。2002年に活動を休止したものの、昨年再結成。新メンバーには元NUMBER GIRLの中尾憲太郎も参加し、話題を呼びました。
本作はそんな彼女たちの、14年ぶりとなるニューアルバム。久々となるニューアルバムなのですが、基本的には14年前とほとんど変わっていません。ガレージっぽい荒々しいギターサウンドにパンキッシュなバンドサウンド。比較的シンプルでスカスカなサウンドに、日暮愛葉のボーカルゆえに意外とポップに感じるメロディーライン。良くも悪くも昔から変わらないスタイルを感じるアルバムでした。
今度もコンスタントに活動を続けていくのでしょうか?昔、結構好きなバンドだっただけに、次の新作にも期待したいところなのですが。
評価:★★★★
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