偉大なるセシル三部作
Title:セシルの季節 La saison de Cecile 1995-1999
Musician:小島麻由美
今年がデビュー20周年となる女性シンガーソングライター、小島麻由美。デビュー当初から独特な個性を持つレトロなポップソングが大きな注目を集め、高い評価を得ました。特にデビュー作の3作「セシルのブルース」「二十歳の恋」「さよならセシル」は「セシル三部作」と呼ばれて、今なお名盤として高い評価を誇っています。
彼女の音楽は、昭和歌謡風、レトロポップなどと称されていますが、具体的にはジャズの前身であるラグタイムや、ジンタと呼ばれる戦前の音楽隊、あるいは歌謡シャンソンなどの雰囲気を強く感じます。この彼女の方向性は、セシル三部作でほぼ確立。その後ももちろん数多くの傑作を生み出している彼女ですが、基本的にはその後の作品は、セシル三部作の延長、あるいは再解釈といった感じとなっています。
今回紹介するのは、そのセシル三部作がリマスタリングされて再リリースされたボックス盤。そこにデモ音源やインスト版、未発表曲などもボーナストラックとして収録。さらに当時未発表に終わった、幻の4thアルバム「愛のミラージュ」を4枚目のCDに収録されています。
今回、このボックス盤であらためてセシル三部作を聴くと、この3枚のアルバムで小島麻由美が様々な方向性を模索していたということをあらためて強く感じます。デビューアルバム「セシルのブルース」はある意味、無邪気さも感じる軽快なポップがメイン。歌詞も軽くどこかコミカル。よくよく聴くと、エロチックな内容じゃないか?と思うような歌詞も、サラッとポップに歌いあげているのがおもしろさを感じます。
それが「二十歳の恋」になると一転ダークな方向性になるのがおもしろい感じ。メロディーも悲しげなものが多く、「セシルのブルース」とは明らかに別の方向を模索しているように感じます。さらに「さよならセシル」になると、その2つの作品の融合的な作風に。ただこの3枚目、スキャットやインストの曲も多く、名盤には間違いないものの、前2枚のアルバムにくらべるとその位置づけに苦しんでいるようにも感じました。
その流れからすると、続くアルバム「愛のミラージュ」が幻に終わったというのも納得がいきます。実際、この曲に収録されている曲の中には、シングルとして発表済で聴いたことある曲も多く、それらも間違いなく「名曲」であるのですが、アルバムとして通して聴くと、正直セシル三部作にくらべるとちょっとアルバムとしてのインパクトは薄いかな、と感じてしまいます。実際、セシル三部作を発表した後、音楽活動はほとんど音沙汰がなくなってしまい、当時は「引退か?」とまでさわがれていたのですが、いまさらながら「さよならセシル」からその次のアルバム「MY NAME IS BLUE」までに3年以上の月日を要した理由がよくわかるような気がします。
今回のボックス盤ではそんなセシル三部作の素晴らしさをあらためて感じることが出来たのに加えて、非常に良かったのがボーナストラックに収録されているインスト版。いずれも原曲からボーカルを抜いただけの曲なのですが、これだけでしっかりひとつの曲として成り立っている点に驚かされました。いずれもインストとしての演奏だけで十分惹きつけられるだけのメロディーが奏でられていたり、迫力があったり。楽曲の完成度の高さを再認識させられました。
そんなわけで彼女のデビュー以来の3作の素晴らしさにあらためて感激したボックス盤。3枚とも持っている方ももちろん要チェックな作品。「愛のミラージュ」以上にインスト版は聴く価値ありの名曲でした。
評価:★★★★★
小島麻由美 過去の作品
a musical biography KOJIMA MAYUMI 2001-2007
ブルーロンド
渚にて
路上
With Boom Pam
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