メジャーデビュー5年目のベスト盤
Title:高橋優 BEST 2009-2015 『笑う約束』
Musician:高橋優
今年、メジャーデビュー5年目を迎える男性シンガーソングライターによる初のベストアルバム。全シングル曲はもちろん、インディーズ時代の曲も含めて、彼自ら選曲した2枚組全30曲の代表曲が収録されています。
彼の楽曲は、基本的にはギター片手に力強いポップソングを歌いあげるタイプ。方向的に近いのは斉藤和義あたりでしょうか?ただ、斉藤和義に感じられるような音楽面でのルーツ・オリエンテッドな部分はあまり見られず、音楽的には比較的シンプルなJ-POP。むしろ彼の売りは1にも2にも歌詞のように思います。
彼の歌詞の特徴としては、現実を描写しながらも、ありのままの自分の受け入れて前に進んでいこうというスタンス。例えばこのベスト盤に収録されている曲としては、「同じ空の下」の
「選ばれたわけじゃない 才能があるって保証もない
ただ僕は僕らしく生きていたいだけさ」
(「同じ空の下」より 作詞 高橋優)
といった歌詞や、ベスト盤の最後を飾る「おかえり」の
「おかえり おかえり ここが君の帰る居場所
おかえり おかえり 今日はどんなことがあったの?
話したくないならそれでもいい
どんな君のことも見守ってる ただ見守ってる」
(「おかえり」より 作詞 高橋優)
といった歌詞が彼の歌詞の大きな特徴のように感じます。
そんな方向性をベースにしつつ、もうひとつ、彼の歌詞を聴いていて気がつくのは、今の風俗をあらわすようなキーワードをよく歌詞に取り入れてくるという点でしょう。端的なのが「BE RIGHT」で、「PM2.5」「ニコ生」なんて単語も飛び出してきますし、「今を駆け抜けて」でも「Shiftキー押したままdeleteキー」なんていうパソコン用語をそのままつかっています。
このあまりにもオンタイムな単語を使うという方法、楽曲にリアリティーを与えるという意味では有効である一方、ちょっと時間が経過すると何のことを歌っているのかよくわからない、というリスクもあります。例えば上にも書いた「PM2.5」なんて単語、そろそろ何のことか忘れかけている人もいますよね?
個人的にはポピュラーミュージックは時代の寄り添ってなんぼという部分が大きいと思っているだけに、彼のような時代に寄り添う単語を曲の中に入れるという手法は大いにありだと思っています。ただ彼の場合、ちょっとその取り込み方が露骨すぎるというか、「こんな流行の単語つかって、おもしろいでしょ、俺」みたいな強い自己主張を感じてしまいます。
実は、ここらへんの自己主張の強さはこのベスト盤を聴いていて一番気になった部分でした。いままでのアルバムでも感じていたのですが、とにかく彼の楽曲は「押し」一辺倒。彼の場合、ただでさえそのしゃがれたあくの強いボーカルが耳をつくのですが、楽曲自体が「押し」ばかりになってしまうと、聴いていて疲れてしまいます。
オリジナルアルバムの単位なら、この「押し」もさほど気になりませんでした。ただ、さすがに2枚組30枚というボリュームですと、いくらベストとはいえ、最後は飽きが来てしまいました。
今回のベスト盤、タイトルは「笑う約束」ですし、彼の代表曲でこのベスト盤でも1曲目を飾る「福笑い」では
「きっとこの世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔だと思う」
(「福笑い」より 作詞 高橋優)
なんていうキラーフレーズを生み出してたしており、彼の目指すべき方向として「笑い」というものが重要であることを感じさせます。ただ残念ながら彼の楽曲は、「笑い」の要素が感じられません。彼の楽曲が「押し」一辺倒ではなく、「笑い」の要素や、そのユーモア路線を起因とした「引き」の要素が加われば、さらなる名盤が生み出されるのではないでしょうか。正直、今の状況では「音楽の幅」という面でも物足りなさを感じてしまいました。
個人的に彼のような歌詞をメインとするシンガーは日本には残念ながら少ないだけにがんばってほしいところなのですが・・・ベスト盤リリース後の彼の動向に注目したいところです。
評価:★★★★
高橋優 過去の作品
リアルタイム・シンガーソングライター
この声
僕らの平成ロックンロール(2)
BREAK MY SILENCE
今、そこにある明滅と群生
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