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2015年9月 4日 (金)

平成生まれの昭和アイドル

Title:ア、町あかり
Musician:町あかり

30年くらい時代をタイムスリップしたかのようなジャケット写真が印象的な本作は、これがメジャーデビュー作となるシンガーソングライター町あかりのニューアルバム。作詞作曲から演奏、衣装まで自らプロデュースsる自作自演歌手の彼女ですが、昭和のアイドルを意識した井出達と、まるっきり昭和歌謡な楽曲が特徴的。氣志團の綾小路翔やヒャダインから大絶賛を受けたほか、電気グルーヴのライブでもオープニングアクトを担当するなど、徐々に知名度が広がりつつあります。

「昭和歌謡」といえば、クレイジーケンバンドが有名になったころ、ちょっとしたブームになりました。ただ、その「昭和歌謡」ブームが昭和30年代あたりの楽曲をイメージした感じだとしたら、彼女の楽曲はむしろ昭和40年代や50年代あたりのアイドルポップをイメージしたような作品が並んでいます。

アレンジはちょっとチープな打ち込みサウンドがメインなのですが、そのサウンドが醸し出すB級感が味になっている感じ。その一方で「No Problem(お安い御用)」はジャジーな雰囲気で洋風なテイストになっていますし、「夢という小鳥」はフォーク歌謡風にまとめていますし、昭和アイドルポップを軸足に、意外と幅広い音楽性に、彼女のシンガーソングライターとしての実力も感じます。

ただ一番おもしろさを感じたのが楽曲の中に入れてくる妙なインパクトのある歌詞や中毒性のあるメロディーライン。もっとも典型的なのが先行シングルにもなっている「もぐらたたきのような人」。この歌詞からして「どんな人だ?」と思ってしまうインパクトがあるのですが、タイトルの言葉が繰り返されるサビはメロディー含めてインパクトありまくりで、知らないうちについつい口ずさんでしまったりしています。

また、「それ分かる!」なんかも、タイトルを繰り返すサビのメロディーラインが、いかにも20代の女の子が言っていそうなフレーズになっており、ここらへん、本人も24歳という彼女らしい、リアリティーある楽曲表現のように感じました。

そんな訳で、平成の世にあらわれた昭和のアイドルということで非常にユニークさを感じる彼女なのですが、その反面、非常に気にかかった部分がありました。それは彼女の書く歌詞。上にも書いた通り、確かにインパクトあるフレーズを書くのはとても上手いという印象があります。実際、J-POPシーンの中で比較すれば、文句なしに「上手い」と言える歌詞の部類かもしれません。

ただ、彼女が目指している昭和歌謡曲といえば、歌詞を書いているのはプロ中のプロ。そんな人たちの書く歌詞と比べてしまうと、彼女の歌詞はかなり物足りなさを感じてしまいました。例えば「さっきも聞いたわその話」は内容的にはタイトルですべて。同じ歌詞内容の繰り返しで、「その話」の話し手と聞き手の関係性も不明瞭。いまひとつ歌詞に深みがありません。

また、「お悩み相談室」も彼女がお悩み相談室の相談員となっている設定なのですが、肝心の「お悩み」が楽曲中に全く出てきません。全体的に確かにインパクトのある言葉を使ってくるのですが、そのインパクトある言葉を最初から最後まで引っ張ってしまい、風景描写や心象描写に乏しく、歌詞として深さに欠けるように感じてしまいます。

そうなってしまうと、プロ中のプロが作詞した昭和歌謡曲の「本物」と比べると、どうしても見劣りしてしまうのは事実。歌詞だけでも他のプロにまかせて・・・ってのもありだと思うんですが、彼女の場合、トータルイメージまでプロデュースしているだけに、そうなると彼女の「売り」が減ってしまう要素になってしまうんでしょうね・・・。

そこらへん、気になるマイナスポイントはありつつも、とてもユニークなミュージシャンだと思います。自称「アイドル」ですが、なにげに下手なアイドルよりよっぽど可愛らしいですし(笑)、これからの活躍に期待です。

評価:★★★★

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