戦後70年目の今年に
Title:平和元年
Musician:元ちとせ
終戦から70年となる今年、良くも悪くも「平和」が話題となることが多くなりました。安倍首相のいわゆる「安倍談話」もそうですし、なんといっても今、大きなニュースとなっている安保法案によっても、あらためて日本における平和主義の今後を考える機会が増えたのではないでしょうか。
そんな中、興味深いカバーアルバムがリリースされました。「ワダツミの木」のヒットでおなじみの、奄美民謡にルーツを持つシンガー、元ちとせが、平和への想いをのせたカバーアルバムをリリースしました。反戦歌を中心に、戦争と平和をテーマとして選曲された12曲。また2005年にTBS系ニュース番組「筑紫哲也のNEWS23」で、広島原爆ドームの前で歌い、毎年夏、配信限定でリリースを行っている、坂本龍一プロデュースによる「死んだ女の子」も収録されています。
そんなテーマ性の強い本作。平和を祈る反戦歌、というイメージからは、最初は非常にプロパガンダ色の強い作風を想像しました。それこそ、声高に反戦を叫ぶそうな、そんな楽曲が並んでいることを最初は予想していました。が、実際に聴いていると結果はむしろ逆。確かに「戦争は知らない」や、前述の「死んだ女の子」など、非常にストレートに響いてくるようないかにもな反戦歌もあるのですが、アルバム全体としては、戦争反対を声高に叫ぶような、そんな内容とは異なる内容となっていました。
それこそ「スラバヤ通りの妹へ」や「美しき五月のパリ」などといった曲は、知らない人がいきなり聴いてもパッと反戦歌とは思い浮かばないような内容。歌詞としては日常生活や恋愛を歌う中で、戦争の影を感じさせるようなものが多かったように思います。
ただ、声高に戦争反対を叫ぶよりも、日常を描いた中に戦争の影を忍ばせるような楽曲の方が、むしろ戦争について深く考えるように思います。ともすれば、いかにもなプロパガンダ的な曲では、戦争反対という点においては異論がなくても、聴いていてどうしても身構えてしまう可能性があります。ただ、日常や恋愛を歌ったような曲を歌えば、誰もが自然に楽曲を受け入れるのではないでしょうか。
その中で「あれっ?」と思うフレーズにひっかかりを覚えて、曲の意味をよくよく考えたり、その曲の背景を調べることにより戦争というものを深く考えていくようになる・・・今回の彼女のアルバムは、そんな「あれっ?」からはじまり、戦争や平和というものを深く考えるきっかけとなるような曲が多くカバーされていたように思います。
カバーの出来としては彼女のこぶしの効いたボーカルがそれなりに生かされつつ、力強いカバーになっていたと思います。ただその反面、どの曲に関しても似たような歌い方をしてしまっている部分があり、良くも悪くも歌い方のテクニックでこなしているように感じる部分も少なくありませんでした。そういう意味ではカバーアルバムとしてはもろ手をあげて絶賛、というほどの出来ではなかったように思います。
とはいえ、戦後70年という今年、このようなアルバムをリリースするのはとても意義深く、こういうカバーアルバムをリリースした彼女のスタンスは非常に素晴らしいことに感じました。そういう意味で、純粋にカバーアルバムとしては★4つ。このカバーアルバムの意義に★プラス1ということで。
評価:★★★★★
元ちとせ 過去の作品
カッシーニ
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