「正しさ」を押しつけ合う世の中で
Title:Bitter,Sweet&Beautiful
Musician:RHYMESTER
ここ最近の安保法案に関する動きで少々影をひそめてしまったのですが、賛否両論を巻き起こした話題として「道徳の教科化」という問題がありました。しかし、今の世の中、ひとつの価値観を「道徳」として教えるというのは非常に難しいのではないでしょうか。例えば「親を大切にしましょう」という価値観。これ自体はもちろん間違ってはいません。ただ、教室の中に親から虐待を受けているような子がいたらどうでしょうか。育ってきた家庭環境から、あるいは生まれた国まで異なるような人たちが増えてきた今、ひとつの価値観を「道徳」として教えるのは非常に困難な状況になっているように思います。
ただそんな中、唯一、「道徳」として教えることが出来る価値観があります。それは「多様な価値観を大切にしましょう」という考え方。「道徳」という授業を困難にしているこの考え方こそ、逆説的に現在において子供たちに教える「道徳」と言えるのかもしれません。
今回のRHYMESTERのニューアルバムは、まさにそんな「多様性」が重視される現代社会に対しての強いメッセージ性を感じるアルバムになっています。本作のアルバムタイトルについてMCの宇多丸はインタビューの中でこのように語っています。
「酸いも甘いも美しい」。杓子定規な「正しさ」では割り切れない何かが僕らの人生には必ず含まれているわけで、そういう幅を含めて、世界は「美しい」んじゃないかと。
(MUSICSHELFインタビューより抜粋)
このひとつの「正しさ」を押しつけようとする風潮は、考え方の右左問わず、最近目立ってきているように感じます。特に簡単に賛成派反対派にわけ、反対の立場を徹底的にののしるようなやり方がいろいろな場面において少なくありません。そんな風潮に関して今回のアルバムでは、最初から最後まで徹底してノーを突きつけています。特にストレートなのが「The X-Day」。
「それは「正しい」人々の「正しい」権利 憎しみのデモンストレーション
それを「正しい」人々が「正そう」と また憎しみのデモンストレーション」
(「The X-Day」より 作詞 Mummy-D,宇多丸)
なんていう歌詞も登場します。RHYMESTERは比較的リベラル寄りなスタンスでの歌詞が多いグループですが、今回の歌詞には明確なリベラル寄りと捉えられるような歌詞はなく、むしろ右にしろ左にしろ安直な「正しさ」の決めつけ、世の中の不寛容に対してアンチの立場を貫くアルバムになっています。
さて、そんな一貫したメッセージ性のあるアルバムなのですが、一方、トラックについては、非常にメロウな、シティポップあるいはブラックミュージック色の強い作品になっていました。今回のアルバム、プロデューサーに最近話題のトラックメイカー、PUNPEEをメインで起用。さらには「ペインキラー」ではプロデューサーにKREVAを起用しており、こちらは音の使い方など、実にKREVAらしい作風に仕上がっていました。
そんな作品だからなのでしょうが、アルバム全体の出来としては正直、最初地味という印象がありました。ライブでアゲアゲで盛り上がりそう、という曲は残念ながら今回はあまり多くありません。そのため、最初聴いた時には、若干取っつきにくい印象を受けてしまいました。
ただ、歌詞の内容も含めて、何度か聴くとジワリジワリと効いてくるのが今回のアルバムの特徴。最初、少々地味に感じたトラックも、メロウなサウンドがカッコよさを感じます。楽曲全体に流れるメロディーも、実力派の彼ららしい、しっかりインパクトの効いたものに。最初は、ここ数作に比べてちょっといまひとつかも、とも思ったのですが、何度か聴くうちに、さすがRHYMESTERと思えるような傑作と感じるアルバムになっていました。
そんな訳で、歌詞、トラック共に、パッと聴いただけではなくじっくり味わいたいような作品。「美しく生きること」が本作のメインテーマだそうですが、徐々にその美しさを感じることが出来るアルバムでした。
評価:★★★★★
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