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2015年8月 7日 (金)

戦争とジャズ

Title:Militarythm ミリタリズム~軍国ジャズの世界~ 1929-1942

ここのサイトで、ここ最近、何度か取り上げている戦前のSP盤をCDに復刻しているレーベル、ぐらもくらぶ。今年は戦後70年という記念の年ということもあり、戦時歌謡のオムニバス盤が続いているのですが、今回は「軍国ジャズ」と名付けられた、戦時色の強い戦前のジャズソングを収録したアルバムになっています。

最近は、戦前のジャズをテーマとした企画も増え、ここでも以前紹介したこのアルバムの監修者である毛利眞人氏の「ニッポン・スウィング・タイム」など戦前ジャズに関しての書籍も増え、一時期ほど、「ジャズは戦後、進駐軍によってはじめてもたらされた」的なイメージは薄くはなってきているように感じます。それでもやはり「軍国主義」と「ジャズ」という組み合わせは一見ミスマッチのようにも感じられます。

ただ、それだけ時局に沿った作品がリリースされるというのは、戦前においてジャズがアンダーグラウンドにとどまっていたわけではなく、むしろ一般的に広く聴かれていた証拠。実際、よくよく考えれば、勇ましいマーチ形式の軍歌はリズム的にも音階的にも洋楽からの影響が強く、それだけジャズにもマッチしやすかったはず。本作でも解説に「実は、軍歌とジャズは対立項ではない」という記載がありますし、「スウィングする軍歌」と名付けられ、本作のトリを飾る「進め大東亜」では「敵は幾万」「太平洋行進曲」といった軍歌のジャズアレンジも聴くことが出来ます。

正直今回のアルバムに関しては、ぐらもくらぶでこれまでに発売された戦時歌謡モノに比べると、少々焦点がぼやけていたようにも感じました。というのもジャズとひとくくりにするにはサウンド的にバリエーションが多く感じられたからです。例えば日本ビクター・サロン・オーケストラが演奏した「一億の合唱」「海の勇者」は一般的にジャズといわれてイメージさせるようなスウィングの曲になっていましたが、「お洒落禁物」などは今のイメージで言えばムード歌謡という範疇に入りそうですし、「興亜ざくら」などは民謡風なメロで、確かに演奏こそ洋楽風なのかもしれませんが、今の感覚で言うと「ジャズ」というイメージから離れてしまう感じもします。全体的に聴くと、スウィングなどに限らず、「洋楽風」の曲を「ジャズ」と呼んでいた感じ。今で言えばバンドサウンドで奏でられれば、とりあえず「ロック」と括られるようなものでしょうか?それだけジャズという音楽の広がりを感じることが出来ました。

特にユニークだったのが「舶来ジャズソングも軍国仕様に」と題されて集められた、海外のジャズソングを時局に沿った歌詞をつけてカバーした曲たち。その中で1曲、「春来矣」はなんとディズニー映画「白雪姫」でおなじみの「ハイ・ホー」をカバーしたもの。以前、藤山一郎の戦前ジャズモノを紹介した時に、ミッキーマウスに関する曲があって驚いたのですが、「ハイ・ホー」がこれだけ早い時期に日本に入ってきていた、というのも驚くべき事実です。

そんな訳で、「軍事歌謡」というものをひとつのテーマに据えることにより、戦前のジャズの広がりを浮かび上がってきたオムニバス盤。またもや非常に興味深いコンピレーションアルバムでした。最近、この戦前SP盤の世界にはまってきてしまっているのですが・・・これからも、またこのような興味深いコンピ盤を楽しみにしています!

評価:★★★★★

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