アンチEDM?
Title:Born In The Echoes
Musician:The Chemical Brothers
最近、ともすれば「お茶の間レベル」にまでブームになりつつあるEDM。日本だけではなく全世界的にもひとつのブームになっています。The Chemical Brothersといえば、ある意味、その「先駆的」ともとらえられそうなグループ。今年のサマソニへの出演も決定しており今なお絶大な人気を得ている彼ら。この5年ぶりとなるニューアルバムも、本作も本国イギリスのアルバムチャートでは見事1位を獲得しています。
さてそんなケミブラの新作。前作「Further」では幻想的なサウンドをつくりあげており、「ケミブラらしい」といった雰囲気のアルバムではありませんでしたが、今回の作品は一転、ケミブラらしさが出ているアルバムになっていました。
例えば「I'll See You There」で聴かせるドラムスのダイナミックなリズムでロッキンに仕上げている作風はいかにも彼ららしいと感じますし、「Reflection」のように、四つ打ちのリズムに高音のシンセがメロディアスに重なるスタイルもケミブラらしい感じ。先行シングル「Go」もQ-Tipの軽快なラップを重ねつつ、80年代風を思わせるちょっとベタで、メロディアスなメロを流してくるあたりも彼ららしいと言えるのではないでしょうか。
ただ、そんなケミブラらしいアルバムに仕上がった本作なのですが、聴いていてちょっとひっかかった部分があります。それは聴いていてケミブラらしいアルバムなのに、ライブで踊りまくれそう、というイメージが浮かんでこなかった点でした。一言で言えば、今回のアルバム、高揚感が抑えられているように感じました。
特に前半に関しては、比較的淡々としたテンポですすむ曲が目立ちます。冒頭を飾る「Sometimes I Feel So Deserted」も淡々とした雰囲気で、1曲目としては地味に感じる曲調でしたし、「EML Ritual」もそんなイメージでしょうか。
後半は、もうちょっとサイケなサウンドなどが目立ち派手さも加わりましたが、上でケミブラらしいと取り上げた「Reflection」とかについても高揚感は抑えめ。そういうこともあり、アルバム全体としては最初聴いた時、地味にも感じました。
ただ、本作でなぜこういう内容にしたのかなぁ、と考えたとき、ふと、今流行のEDMに対するアンチテーゼなんじゃないか、ということを感じました。上にも書いた通り、ある種EDMの先駆け的存在にも感じられる彼らですが、最近のインタビューではEDMについて「どれも同じ曲にしか聴こえない」という発言をしており、否定的な見解を感じます。
確かに今回のアルバムでは、四つ打ちのダンスチューン一本調子のEDMと違って楽曲のバリエーションも豊富。ロッキンな曲や80年代的な曲、他にもセクシーな女性ボーカルを聴かせる「Under Neon Lights」はそのメロウな雰囲気に90年代的なにおいを感じますし、本編ラストを飾る「Wide Open」も軽快でポップな歌モノ。インタビューでEDMを「どれも同じ曲」と批判するだけあって、自らのアルバムではきちんと音楽性の広さをみせつけています。
そう考えると今回のアルバム、高揚感を抑えたのも、とにかくアゲアゲ一本調子のEDMに対するアンチテーゼとも感じられました。安直に高揚感に頼らなくても、ちゃんとダンスミュージックでリスナーを楽しませることが出来る、そんな彼らからのメッセージだったのかもしれません。
そんな訳で、ちょっと地味目にも感じられるものの、しかしちゃんとThe Chemical Brothersとしての魅力がつまった傑作アルバムに仕上がっていたと思います。今年はデビューアルバムリリースから20年目だそうですが、まだまだ圧倒的な実力を感じさせてくれます。私はいけませんが、今年のサマソニは盛り上がりそうだなぁ。
評価:★★★★★
The Chemical Brothers 過去の作品
Brotherhood
Further(邦題:時空の彼方へ)
HANNA
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