ローリング・ストーンズのビジネス書?
今回紹介するのは、最近発売されたローリング・ストーンズに関する書籍。「ローリング・ストーンズを経営する」という本。著者は、60年代末から2007年にかけて40年にわたりローリング・ストーンズのマネージャーを務めたプリンス・ルパート・ローウェンスタイン氏。音楽系の本としては珍しく日経の書評でも紹介され、ビジネス書的な感覚も兼ねて、手にとってみました。
まず読んでみて気が付いたのはこの本、タイトルや本の表紙にこそローリング・ストーンズを前面に出していますが、本来的にはローリング・ストーンズの本ではありません。あくまでもローウェンスタイン氏の自伝。そのため、ローリング・ストーンズの話が本格的にはじまるのは第4章から。全体の4分の1程度は、まず彼の生い立ちに関する記述が綴られています。
また、あくまでも自伝であることが主眼であるため、ストーンズの本としても音楽ビジネスの本としてもちょっと中途半端な部分も否めません。ストーンズの本としては、ローウェンスタイン氏がストーンズのマネージャーを離れた理由など、興味深い記述もある一方で、全体的には目新しい記述は少な目。音楽ビジネスの本としても裏話をそう深く突っ込んでいたり、具体的な描写があるわけではないため、少々物足りなさも感じます。
一方で興味深かったのは、当時のイギリスの上流階級がストーンズをどう見ていたか。また、彼自身、ストーンズの音楽に最後まで興味を抱けなかったそうですが、そんな彼がストーンズというバンドをどう見ていたかという描写。ここらへんに関してはローリング・ストーンズというバンドの当時の立ち位置。また、バンドが持っている魅力が描かれており、興味深く読むことが出来ました。
正直な感想を言ってしまうと、若干期待はずれだった、ということは否めません。特に音楽ビジネスに関する描写については、もうちょっと奥深くまで具体的に突っ込んでほしかったような・・・でも、利害関係者がいる限り難しいか。ただ、つまらなかったかといわれると、イギリスの上流階級の現在の社交風景なども覗くことが出来、それなりに楽しむことが出来た1冊だったと思います。
ただし、ひとつ大きく気になった点があります。それは和訳。今回、翻訳を担当した湯浅恵子氏は他にも音楽関係の翻訳を多く手掛けているようで、ストーンズ関連に関しては問題はなかったかと思うのですが、ビジネスがらみで疑問に思うような和訳が散見されました。
例えば文中、「会計決算書」(p87)なる言葉が登場しますが、このような言い方は一般的ではありません。おそらく、「financial statements」を、「financial」と「statements」をバラバラに訳したことから生じた訳だと思われますが、「financial statements」は「財務諸表」と訳することが一般的。「会計決算書」なる言葉は用いられません(そもそも「決算書」といえば会計のことに決まっていますし)。
また「会計監査士」(p128)なんて表現も出てきますが、こんな職業は世界的にありません。こちらは原文を類推できないのですが、「auditor」あたりを訳したのでしょうか?普通は「監査人」と言葉を用います。
会計用語などは典型的なのですが、この手の用語は一般的に決まり文句とそれに対応する和訳がある程度決まっているため、そのお約束を知らないとかなりチンプンカンプンな訳になってしまいます。残念ながら、和訳に関してこのあたりの知識が微妙に思われました。まあ、音楽にもビジネスにも精通する翻訳家というのはほとんどいないのかもしれませんが・・・ビジネス面ではだれか第三者の監修訳をつけた方がよかったようにも思われます。
加えて、音楽面でもビジネス面でも説明がいるような話も多かったのに、注釈が全くなかったのも残念。そのため、ちょっと読みずらい部分もありました。日経の書評では「ストーンズに興味がない方も」みたいな書かれ方をしていましたが、正直、ストーンズに興味がない方が読んだら、かなり厳しい面も多いようにも思われます。
そんな訳でローリング・ストーンズのファンなら読んで損のない1冊だと思います。ただ一方で、いろいろな意味で過度な期待は禁物かも。興味深い記述はチラホラと出会えるとは思いますが。
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