踊る動員
Title:みんな輪になれ~軍国音頭の世界~
戦前のSP盤復刻を手掛けるレーベル、ぐらもくらぶの新作。今年は戦後70周年ということで軍事歌謡の復刻が相次いでいるようですが、本作は「軍国音頭」がテーマ。「軍国音頭」とは、解説によれば「満州事変から太平洋戦争の間にリリースされた時局的な音頭」ということ。戦時色の強いプロパガンダの傾向が強い「音頭」が数多く収録されています。
本作に収録されている軍国主義的な音頭のことを監修を手掛けた辻田氏は解説で「踊る動員」と称しています。以前、その彼が著者である新書本「日本の軍歌」の感想で、「音楽というのは(略)ポジティブな世界に導くだけではなく、一歩間違えると破滅へ導く可能性もある」ということを書いたのですが、本作に収録されている曲は国民を破壊へと導かせる音楽の具体例と言えるでしょう。プロデューサーの保利氏は解説で「『絆』と言う名のもと身体的動員が知らず知らずのうちになされてないか、音楽によって同調圧力の醸成がなされていないか、このCDを聴いて過去・現在・未来を考えていただく材料にしていただければと思う」とまとめていましたが、いろいろときな臭い話が飛び交うようになった今現在において、実に興味深いコンピレーションアルバムだと思います。
収録曲は1934年録音の楽曲から1945年1月の終戦間近に録音されて楽曲まで順番に並んでいるのですが、後になればなるほど、要するに戦争が激化し、日本が不利になればなるほど表現が過激に、かつプロパガンダ色が強くなってきます。
「物がないなど 贅沢言うちゃ
ほんに済まない 済みません」
(「銃後めをと囃子」より 作詞 松坂直美)
なんて歌詞だったり、
「不平不満はお国をつぶす」
(「常会をどり」より 作詞 藤田まさと)
なんて歌詞が、踊りの中にひょっこりと顔を出すあたり、今の感覚で言うと相当怖さも感じさせますが、日本も今後、おかしな方向にむかってしまったら、ヒット曲の中に、サラッとこんな歌詞がまぎれこんできそうで、ちょっと怖さも感じてしまいます。
また、ちょっとしつこいぐらいの「ハァ日独伊」というフレーズが耳に残る「三国音頭」は1940年に締結された日独伊三国同盟を祝ってつくられた曲だそうですが、解説曰く「ドイツやイタリアには同種のレコードは見られなかった」そうです。ここらへん、海外(特に欧米)と肩を並べると必要以上に浮かれてしまうという、今にも続く日本の欧米コンプレックスを感じます。正直、ここらへん、今の時代も他人事ではない感じがします・・・。
そんな戦時中の雰囲気を知りつつ、今の時代と重ね合わせるには、資料的価値も高い、非常に興味深いコンピレーションアルバム。ただ、今回のコンピ盤に関しては、そんな企画的おもしろさもさることながら、純粋に音楽としても興味深い曲が並んでいました。
というのは、音頭がゆえリズム主体となる今回の楽曲は、今の耳で聴いても興味深い「グルーヴ」を感じさせる曲が少なくありませんでした。例えば「満州音頭」では太鼓のリズムが非常に力強さを楽曲に与えていますし、「銃後めをと囃子」のお囃子のリズムも実に軽快。ジャズ風のアレンジにかなり物騒な歌詞ながらも「どどんと一発 轟沈だ」というフレーズが耳に残る「どんと一発」などなど、純粋に音楽として、非常におもしろさを感じさせる曲が並んでいます。いわば、戦前日本のレアグルーヴといった印象すら受けました。
そんな訳で歴史を通じて今の時代を考えさせる材料としても、資料的な価値という側面でも、非常に興味深いコンピ盤でしたし、また、音楽的にもとてもおもしろさを感じさせる1枚でした。こんなプロパガンダ色の強いダンスミュージックで、私たちが踊らさせるような日が来ないことを切に祈ってしまう作品。今後万が一、プロパガンダ色の強いダンスミュージックがリリースされちゃったとしたら、作詞は間違いなく秋元康なんだろうなぁ(苦笑)。
評価:★★★★★
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