生活者に寄り添って
Title:イキテル・ソング~オールタイム・ベスト~
Musician:高田渡
70年代フォークを代表するフォークシンガー、高田渡。2005年に56歳という若さでこの世を去りましたが、その没後10年を機に、息子でありマルチ弦楽器プレイヤー、高田漣による選曲・監修によるベストアルバムがリリースされました。
高田渡といえば「自衛隊に入ろう」のイメージがつよく、個人的にはユーモラスに権力を皮肉る社会派のシンガーというイメージを勝手に持っていました。ただ今回、彼の代表曲をまとめて聴くと、彼の曲って大上段に社会を皮肉った、というよりも日々を懸命に生きる市井の人々に寄り添った歌がほとんどであることに気が付きました。そんな曲を彼独特の素朴で暖かみのある歌声で歌われると、聴いていてどこかほっとさせられます。
また、楽曲的にもフォークソングという枠組みにとらわれません。日本でも二村定一のカバーで有名なアメリカンポップス「私の青空」のカバーやニューオリンズ風の「ヴァーボン・ストリート・ブルース」、「フィッシング・オン・サンデー」はスティール・パンの音色がラテン風ですし、「ホントはみんな」はとても暖かさのあるポップソングは、どこか矢野顕子っぽさも?(笑)フォークシンガーの重鎮というイメージがあっただけに、この楽曲のバラエティーの多さはちょっと意外にも感じました。
日本の詩人の曲に歌をつけて歌った曲が多いだけに、1曲1曲歌詞がしっかりと歌われており、心に突き刺さってきます。楽曲全体に感じられるユーモアセンスもとても楽しく、高田渡の魅力がしっかりと伝わってくるベストアルバムになっていました。
評価:★★★★★
で、高田渡のベストアルバムリリースと同時に、息子、高田漣が父、高田渡の楽曲をカバーしたアルバムがリリースされました。
Title:コーヒーブルース~高田渡を歌う~
Musician:高田漣
マルチ弦楽器プレイヤーとして数多くのミュージシャンとのセッションで活躍している彼。幼い彼に父親がギターを教えているジャケット写真だけで胸があつくなります。正直、最初は高田渡のベストアルバムを聴くついでにこのアルバムを聴いたのですが・・・これが予想以上の傑作に仕上がっていました。
基本的に原曲のイメージを大きく変えないシンプルなアレンジに終始しているのですが、そんな中でも高田漣の弾くギターがしっかりと自己主張をしており、聴き終わるとしっかりと耳に残るのも印象的。また、素朴で暖かさを感じる彼のボーカルにも、どこか父親譲りのものを感じます。
カバーの中で印象的だったのが「系図」で、子供が産まれた時の父親の様子を描写しているだけにその歌声にもどこか父親を思う気持ちが入っているようで心に響きます。また「ブラザー軒」も、アコギの単音弾きで奏でられるシンプルな演奏と優しく歌う高田漣の歌声に胸があつくなってきます。
ご存じの通り、高田漣はプレイヤーとして活躍することが多いのですが、ボーカリストとしても魅力的なんだなぁ、ということを感じるカバーアルバム。また、彼の父親に対する敬愛の念も強く感じられました。高田渡の原曲に全く負けていない素晴らしいカバーアルバム。高田渡のベスト盤だけではなく、こちらも要チェックです。
評価:★★★★★
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