興味深い曲も数多く
今日紹介するアルバムは、戦後70周年の節目となる今年にリリースされた、日本の軍歌をアーカイブスとしてまとめた5枚同時リリースのCD。以前、このサイトでも紹介した話題の新書「日本の軍歌」の著者、辻田真佐憲氏が監修しています。その新書本及び彼が同じく監修したムック本「日本の軍歌」で、もともと戦前の歌謡曲には興味があったのですが、その延長として軍歌、戦時歌謡にも興味を抱き、今回、この5枚組となるアルバムを聴いてみました。
Title:日本の軍歌アーカイブス Vol.1 陸の歌「戦友」1932-1944
Title:日本の軍歌アーカイブス Vol.2 海の歌「海ゆかば」1932-1944
まずジャケットも印象的。漫画家の今日マチ子氏によるものだそうですが、「軍歌」のCDのイメージからかけ離れたようなジャケットをあえて起用するところにおもしろさを感じます。
このうちVol.1、2は一番スタンダードな軍歌集。「日の丸行進曲」「軍艦行進曲」「海ゆかば」といったいわゆる有名処が収録されています。ただ「軍歌」といっても一般的にイメージされるようないかにも勇ましい感じの楽曲だけではなく、「空の神兵」「勇む銀輪」などは勇ましさは薄く、ポップスの色合いが濃い楽曲になっており、全体的にバラエティーも豊富。「軍歌」というよりももっと幅の広い「戦時歌謡」を集めたアルバムになっています。
評価:
Vol.1 ★★★★
Vol.2 ★★★★
Title:日本の軍歌アーカイブス Vol.3 空の歌「同期の桜」1969-1985
このVol.3の大きな特徴は、全曲戦後に録音した曲ということ。辻田氏は著書の中で、戦前の軍歌が必ずしも上から押しつけられたものではなく、庶民からの支持を得て流行した今で言うJ-POPのようなもの、ということを記述していますが、軍歌の戦後録音というのは、まさに庶民からの支持を受けていたからこそ戦後も歌いつがれた、という証拠でしょう。
ただ正直言ってしまうと、全5巻の中であまりおもしろくなかったのがこちら。戦後の録音ということで演奏が妙に凝ったため、全体的に「演歌」のように様式化されてしまい、はっきりいってつまらなかったです。そういう演歌的に様式化された部分も含めて戦後録音の面白さと言えるのでしょうし、そんな戦後録音がまとめて聴けるという意味では意義深い1枚とは思うのですが・・・。
評価:★★★
Title:日本の軍歌アーカイブス Vol.4 銃後の歌 戦時下の少女歌謡 1929-1943
逆に5枚のアルバムの中で一番興味深かったのがこのアルバム。タイトル通り、女性、場合によっては子供が歌った戦時歌謡が収録されています。かわいらしい曲も多く、今聴いても違和感のないような曲も多く収録されているのですが、かわいらしい曲だからこそ、逆に歌詞の内容をよくよく聴くと、ゾッとしてしまうような曲も少なくありません。
特に一番ゾゾッと来たのが「守れよ満州」という曲で
「私の兄さん満州で死んだ
僕の父さんも満州で死んだ
忠義な兵士のお墓の満州
守れや守れ我等の権利」
なんて歌詞がかわいい女の子の声に載せて歌われています。さらにこれを作詞したのが、「青い山脈」や「蘇州夜曲」の作詞家として知られる西條八十という驚き・・・。耳なじみやすいかわいい女の子の歌だからこそ、逆に強いプロパガンダ性を感じてしまいます。「いかにも」な勇ましい軍歌よりも、ある意味怖さを感じさせる1枚でした。
評価:★★★★★
Title:日本の軍歌アーカイブス Vol.5 クラシック篇 戦時下の芸術音楽 1943
こちらは戦時下において日本で録音されたクラシック音楽を集めた1枚。「交響譚詩」は後に「ゴジラ」の映画音楽の作曲家としても知られる伊福部昭がはじめてレコードを出した作品。また「歓喜の頌 第九交響曲」は有名なベートーヴェンの「第九」の、日本語による歌唱の最初の録音だそうで、そういう意味で歴史的な価値のある1枚。他のCDの「軍歌」「戦時歌謡」とはちょっと異なる色合いの作品ですが、非常に興味深く楽しむことが出来ました。
評価:★★★★
上の評価はあくまでも「軍歌」や「戦時歌謡」を普段聴かないようなリスナー層にお勧めできるか、という観点での評価で、日本の軍歌、戦時歌謡をまとめておさめたアーカイブスとしては興味深い曲も数多く収録されており、とても意義ある作品集だったと思います。
「軍歌」自体は勇ましく、また口づさみやすいわかりやすさがあるため、聴き終わった後、耳に残る妙なインパクトがありました。曲よっては歌詞についても叙情的でおもしろさを感じる曲がある反面、やはり好戦的、差別的な歌詞も散見され、軍歌、戦時歌謡をこの5枚のアルバムで聴く中で、軍歌は国家からの押し付け音楽でも、ましてや「日本人の心」なんかでもなく、辻田氏が著書の中で記しているような、良くも悪くも戦時下のエンタメであった、ということを強く感じられる内容だったと思います。5枚組というフルボリュームの内容でしたが、予想以上に楽しめた作品集でした。
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