若干わかりにくい部分もあるのですが
Title:To Pimp A Butterfly
Musician:Kendrick Lamar
前作「Good Kid M.a.a.D City」が近年まれにみるような高い評価を得て、一気に注目を集めたアメリカのHIP HOPミュージシャン、Kendrick Lamarの新作。本作は、それに続く彼の新作。今年の3月にリリースされるや否や、前作に負けずとも劣らない高い評価を得て一気に話題となりましたが、国内盤はなかなかリリースされず。なによりそのリリックが話題のミュージシャンなだけに、対訳のついている国内盤のリリースを待ち、遅ればせながら聴いてみました。
本作のリリックについても非常に高い評価を得ており、国内でも多くの方が絶賛されているようです。ただ、正直言ってしまえばその内容は日本人である私たちにとっては決してわかりやすいものではありません。黒人社会にベッタリとフィットした内容であり、かつ、キリスト教的な知識やアメリカの大衆文化を理解している必要があるため、対訳でも数多くの注釈がついていますが、それを踏まえても、対訳を1度2度読み込んでもなかなかわかりません。また、HIP HOPの世界ではありがちなのですが、アメリカの芸能界のゴシップネタ的な部分もリンクされているため、ケンドリックの動向を日々追っているようなファンではないと、日本ではなかなか理解しがたい内容になっています。前作もなかなか国内盤がリリースされず、今回も発売から国内盤リリースまで時間がかかったのも、そういう「日本人にとってのわかりにくさ」が大きな要素のように感じます。
特に後半、ラップが終わった後、延々とトークが続いたり、(話題になっていはいるのですが)最後は2PACとの疑似インタビューを入れたりと、ラップではおさまりきらないようなケンドリックの主張が繰り広げられていますが、英語がわからない身としてはこの部分は聴いていて若干「苦痛」にすら感じてしまいます。
ただ、そんなリリックを読み込みつつぼんやりと見えてくるのは、アメリカの黒人に対する、いまだに強く残る差別に対する強烈な批判。しかし、ただ単純な白人対黒人的な枠組みで終わる訳ではなく、その上で黒人社会の中で生じている矛盾点をつき、さらには自分たちも変わっていこうと歌っているような姿勢を感じます。
今回のアルバム、上にも書いた2PACとの疑似インタビューの最後にケンドリックが一編の詩を読むのですが、これが1曲目の「Wesley's Theory」にリンクしており、アルバム全体がひとつの輪のようにつながっている構成が実にユニーク。そしてこのアルバムの最初と最後を繋ぐメッセージが、「青虫(おそらくゲットーに住む黒人を差していると思われます)は蝶になることをおそれず、繭の中に閉じこもらないで、繭をやぶって外に飛び出せ」というもの。ここらへんのメッセージは黒人社会という枠組みに限らず、私たちにとっても突き刺さるものがあるメッセージ性を感じました。
また、そんな日本人にとってはわかりにくい部分もあるアルバムですが、リリックがわからなくても魅力的だったのがトラック。ちょっとジャジーな「How Much A Dollar Cost」やメロウでソウルなトラックが心地よい「Complexion」など、ブラックミュージックの要素を色濃くいれつつ、グルーヴィーに聴かせるトラックに心地よさを感じます。実験的とかそういう部分は感じないものの、音数を絞り重低音を聴かせるトラックは今風。このトラックの部分だけでも十分すぎるほど楽しめるアルバムだと思います。
そんな訳で、聴いていてわかりにくい部分が多いのも事実ですが、それを差し引いても十分に魅力が伝わるアルバムだと思います。とはいえ、やはりリリックが大きな魅力なだけに対訳がついている国内盤が圧倒的にお勧め。間違いなく今年を代表する1枚となりそうなアルバムです。
評価:★★★★★
Kendrick Lamar 過去の作品
Good Kid M.a.a.D City
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