迷いのない1枚
Title:Rise from HELL
Musician:MO'SOME TONEBENDER
モーサムの新作は、今度は2部構成。今回リリースされた本作は通称「地獄盤」だそうで、一方、8月には、「Rise into HEAVEN」と名付けられた通称「天国盤」がリリースされるとか。タイプの異なる2枚のアルバムがリリースされる予定になっているそうです。
今回のアルバムは「地獄盤」と名乗っているだけに、ストレートにへヴィーなガレージロックが展開されています。「トーキョーロスト」ではいきなりへヴィーなギターリフが全面的に展開。これにからむようにならされる高音が、これからの危険を告げるようなサイレンのように鳴り響きます。続く「メタルボーイ」も分厚いギターサウンドにシャウト気味のボーカルが印象的。このようなへヴィーなガレージロックがアルバム全般に展開されています。
ここ最近のモーサムといえば、アルバム毎にそのスタイルを変えていき、新たなタイプの曲に挑戦しているのが特徴的でした。その結果、傑作となったアルバムもある一方、その挑戦が上手くいかず、凡作に終わってしまった作品もありました。ただ、それだけ彼らにとってはやりたいジャンルが多かった、ということでしょう。
その結果として今回のアルバム、やりたいジャンルがまとまり切らず、2枚のアルバムにわけてリリースという形になったのでしょう。ただ、このアルバムを分けるというやり方が実に功を奏したように思います。その2枚のアルバムのうち今回の「地獄盤」、あくまでもガレージロックに的を絞った結果、アルバム全体としてやりたい音楽に全く迷いを感じさせません。とにかく、このアルバムではへヴィーなロックンロールを奏でる、その決意がアルバム全体に感じられます。ここ最近のアルバムの中で「凡作」と感じられたアルバムの多くは、いろいろなジャンルに手をつけた結果、中途半端、あるいは迷走してしまっているという印象を受けてしまっていました。そういう観点はこのアルバムからは無縁。まさにガレージロックという太い柱がしっかり中心に建っている、そんなアルバムになっていたと思います。
また、そんなガレージロックの中で、なにげにユニークなのが歌詞。「平民貧民大貧民」は一見、トランプの話かと思いきや
「たかがゲームとあなどるなかれ
気がつきゃアンタもすぐ
平民貧民大貧民 平民貧民大貧民」
(「平民貧民大貧民」より 作詞 百々和宏)
なんてのは、現実社会に切り込むような意味深な歌詞になっていますし、「バイオレーターデストラクション」でも
「天国地獄紙一重さ 簡単に裏返る
戦争平和 気を抜いたら一瞬で命取り」
(「バイオレーターデストラクション」より 作詞 百々和宏)
なんて歌詞も今の時代に対する警戒のように読み取れます。いずれにしろユーモラスな歌詞の中に、どこか毒の要素の混じったような歌詞が魅力的でした。
そしてそんなアルバムの最後を飾る「イミテイションシティ」はいままでの曲とは雰囲気がガラッと変わり、エレクトロサウンドのナンバー。この曲で、8月にリリースを控えている天国盤「Rise into HEAVEN」につながっている、ということでしょうか。この構成にもユニークなものを感じます。
ある意味、モーサムの本領発揮ともいえるガレージサウンドがとても心地よい傑作。また、8月にリリースされるアルバムも楽しみになってくる作品でした。さて、へヴィーな地獄盤に対して、天国盤はどんなアプローチで聴かせてくれるのでしょうか。
評価:★★★★★
MO'SOME TONEBENDER 過去の作品
C.O.W.
SING!
youth
STRUGGLE
BEST OF WORST
Strange Utopia Crazy Kitchen
Baseball Bat Tenderness
ほかに聴いたアルバム
A.N.D/tricot
変拍子を多用した独特のサウンドが注目を集める女性3人組バンドの2枚目となるフルアルバム。今回、はじめて聴いてみたのですが、確かに独特の展開のサウンドはなかなかユニーク。ただその反面、肝心のメロディーラインがいまひとつ。インパクト不足でいまひとつ印象に残りません。バンドサウンドもエモを志向している割りにはダイナミックさがいまひとつで中途半端。うーん、確かにおもしろさを感じる反面、いろいろな部分で中途半端さが目立った作品でした。
評価:★★★
L.O.K./久保田利伸
久保田利伸約3年半ぶりのニューアルバム。「L.O.K.」は「Lots of Kisses」の略だそうで、たくさんの感謝という意味が込められているそうです。楽曲的には、いつも通りの久保田利伸。相変わらず勢いすら感じられるファンキーなサウンドは安定感がある一方、それなりに今風にアップデートされているため、古臭さを感じません。それでも若干マンネリっぽい部分を感じたのは否定できないのですが、ファンならずとも安心して聴ける作品になっていました。
評価:★★★★
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