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2015年5月 3日 (日)

クラムボンの行き先

Title:triology
Musician:クラムボン

約5年ぶりとなるクラムボンのニューアルバム。クラムボンといえば、最近、ミトのインタビューがちょっとした話題となりました。

クラムボン・ミトが語る、バンド活動への危機意識「楽曲の強度を上げないと戦えない」

内容については賛否あるようなのですが、個人的に一番驚いたのがこのインタビューが衝撃的だった、という形で話題にあがること。そんなに奇抜なこと言っているか?というのが個人的な素直な感想で、逆にこれで衝撃的というのは、いかに音楽シーンの「今」について深く考えられていないか、ということを感じてしまいます。

確かに「ROCKIN'ON JAPAN」のインタビューとか読むと、馴れ合いの自画自賛的なインタビューばかりだもんなぁ(苦笑)。シーンのど真ん中にいながら、こういう「危機意識」を持っているミュージシャンって驚くほど少ないのかもしれません。

ただ、そんなインタビューを前提に5年ぶりとなる新作を聴くと、言うほど楽曲の強度、強くないじゃん、という身も蓋もないことを感じてしまいました(笑)。楽曲の強度という点を意識したからにはヒットチャートの中心で戦えるようなポップな作品が並ぶ・・・かと思いきや、意外と「実験的」な作品も目立っていました。

例えば「アジテーター」はロックサウンドの中に民謡を入れたようなユニークな作風になっていますし、「agua」はファンタジックな作風、「the 大丈夫」ではへヴィーなノイズが楽曲の中に登場してきたりしており、「楽曲の強度」というよりも、メンバーがやりたい楽曲をやった、という印象すら受けます。

一方でそんな作風の曲がありつつ、確かにポップで、いい意味で広い層の支持を狙ったような作品も目立ったように感じます。例えば「Rough&Laugh」は楽曲の中に大サビも登場してくるインパクトの強い作品になっていますし、「バタフライ」にしても哀愁ある歌詞とメロデイーがどこか歌謡曲のテイストを感じさせるインパクトを持っています。

そういう意味では結果として、クラムボンの持つポピュラリティーの要素と、「実験的」な要素がほどよくバランスされたアルバムになっていたように感じます。上のインタビューの中で、「歌詞」の側面で楽曲の強度を意識したようには語っていましたが、メロディーやサウンドの面では、むしろ逆にクラムボンらしいアルバムになっていたように感じました。

ただ若干気になったのは今回のアルバム、サウンドの手数が妙に多いこと。多くの楽曲でリズムやサウンドを詰め込んでいて、賑やかで楽しさを感じる反面、ちょっとやりすぎでは?と思う部分がありました。これも「歌詞」の話になるのですが、上のインタビューでボカロの歌詞の情報量の多さを評価していましたが、ただ個人的にボカロの歌詞って、情報量が詰め込みすぎていて、聴いていてパッと理解できないような曲も多く、歌詞としてはもう一工夫二工夫欲しいと思っちゃうんですよね。この情報量の多さを良し、とするのなら、今後のクラムボンの方向性がちょっと気になってしまいます。

とはいえ今回のアルバムに関しては、この情報量の多さもポピュラリティーにほどよく中和されていましたし、なによりも原田郁子の歌声もまた、情報量の多さをちょうど中和していたように感じます。上のインタビューもそうですが、ミトの頭でっかちな部分がちょっと気になり、その点に不安は感じてしまうのですが・・・このアルバムに関してはとにかく純粋にクラムボンらしさを楽しめた傑作でした。

評価:★★★★★

クラムボン 過去の作品
Re-clammbon2
JAPANESE MANNER ep
2010

ワーナーベスト
columbia best

3peace2
LOVER ALBUM 2

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コメント

久し振りにコメント失礼します.
いつも楽しく拝読させて頂いてます.

個人的に、クラムボン的なクラムボン(?)に飽和していた頃、
ミトが自分の趣味を押し出し始めたので、
今はどんどん変わってくれてもいいなと思っています.
そして椎名林檎にせよキリンジにせよくるりにせよ、自分がずっと聴き続けてる人たちって
何がしか変化しているもんだよなと気づかされました.
熱心な音楽ファンではないからか、
昔から好きなアーティストで、今も実際聴けば良いんだろうなとは思いつつ
いつのまにか聞かなくなってしまった人があまりに多くて.
聴こうと思わない限り自然と出くわす機会もないほど、
そうした人たちの音が世に浸透してない現状への苛立ちは、
内部にいるミトなら尚の事ではないかなと.

この記事の横に見出しで並んでるライムスのインタビューと合わせて読むと
よりミトの言わんとしてることが伝わってくる気がしました.

投稿: 和宮 | 2015年5月 4日 (月) 09時46分

>和宮さん
今の時代、なかなか音楽が世に浸透していくのが難しくなっています。というよりもCDチャートが時代を反映しなくなって、どんな音楽が浸透しているのかが全く見えてこない、ということが正確なのかもしれません。ミトはそういう意味での苛立ちもあるのかもしれません。ライムスのインタビューも興味深いですね。ただライムスに限らず、ヒップホップシーンにいるミュージシャンって、すごく現状のシーンについて考えている方が多いように思います。ヒップホップが音楽シーンの中で、どちらかというと誤解されることが多いジャンルだからかもしれませんが。

投稿: ゆういち | 2015年5月 6日 (水) 00時33分

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