動画サイトで人気
Title:singing Rib
Musician:りぶ
ヒットチャートのコーナーでよく取り上げるのですが、ヒットチャートにランクインしてくるミュージシャンで、最近、人気動画サイト「ニコニコ動画」の中の「歌ってみた」というコーナーで人気を得た「歌い手」というミュージシャンがいます。個人的には「ニコニコ動画」はまったくみないので詳しいことはわからないのですが、端的にいってしまえば、自分が歌うカラオケの動画をアップしている人たち。そんな中で特に人気が出た人たちがミュージシャンとしてデビューしCDをリリース、さらにはランキングの上位に入ってくるという現象がおきています。
同じネット発の音楽の流れとして、初音ミクを使って自作の曲をアップする、ボーカロイド界隈の流れがあります。ボカロ界隈と「歌ってみた」企画は同じネット発ということで親和性が良いみたいで、ボカロの曲を「歌ってみた」コーナーで歌う人も多いみたいです。ボカロ関連の曲については以前から取り上げていましたが、今回はじめて、この「歌ってみた」コーナーから出てきた、いわゆる「歌い手」のアルバムを聴いてみました。
ネットの中の草の根からのムーブメントという意味では以前から気になってはいたのですが、今回、この「りぶ」というミュージシャンの曲を聴いてみたのは、そんな中でヒットを記録した、ということもあるのですが、このアルバム、Sound Scheduleの大石昌良や元Cymbalsの沖井礼二、元DOPING PANDAのフルカワユタカという参加メンバーの豪華さにもひかれたから。内容的にもロック寄りっぽい雰囲気もあったため、はじめてこのアルバムを聴いてみました。
さて、そんな彼が歌う楽曲ですが、簡単に言ってしまうと王道のJ-POPという印象を強く受けました。ポップでインパクトあるキャッチーなフレーズ。ただ一方で「これ」といった方向性のないルーツレスなサウンド。ハードロック風の「ダヴィンチの告白」、ヴィジュアル系っぽい「ノストラの終末論」、シティーポップ風の「朝焼けの狙撃手」、バリバリのアイドルポップ「キミの心拍数」などバラエティー富んだ作風も、ある意味良くも悪くもこだわりのないJ-POP風といった言い方もできるでしょう。ただこのバリエーションの多さは聴いていて飽きが来ないというメリットもある一方、りぶというシンガーがどんな方向性を目指しているのか、どんな歌を歌いたいのか、正直ぼやけてしまっているようにも感じました。
また、「歌い手」というカテゴリーである以上、彼の売りは「歌」だと思うのですが、正直言ってしまえばボーカリストとして魅力的かどうかと問われると、疑問を感じてしまいました。
彼がボーカリストとして上手いか、と言われれば間違いなく上手いと思います。当たり前ですが音程は取れていますし、声量もそこそこあります。またボーカリストとして安定感もあるし、音域も十分。間違いなく安心して聴いていられる歌唱力は持っています。
ただ一方、歌い方は平坦で癖がありません。また淡白な歌い方ゆえに、表現力もあまり感じられません。ある意味技術論的に上手いボーカリストではあると思いますが、ボーカリストとしての味みたいなものはあまりありません。ただ、声色はとても端整でアイドルテイストを感じます。そういう意味でリスナーは彼に「声のアイドル」を求めているのかもしれません。
おそらくSSWやバンドのボーカリストとしてなら文句なしのボーカリストなのでしょうが、ボーカルを売りにする歌手としては物足りなさを強く感じました。ただ、今の日本って、どうもボーカルに対するリスナーの欲求水準がすごい低いんですよね。例えば最近の女性アイドルにしても、曲自体さえよければ、それを歌うアイドル自身のボーカルが、抑揚のなく声量もない平坦なユニゾンでもなぜか音楽評論家は大絶賛。こういう傾向には、ボーカルも曲の一部だと思っているだけに、いつも違和感を覚えています。
もっとも声量、安定感、音程などボーカリストとしての基礎体力はあるだけに、今後、ボーカリストとして成長する余地は大きいのは間違いないでしょう。そういう意味では、(あえて言えば)「狭い」ネット社会に留まるのではなく、ボーカリストとしてもっと広い世界でどんどん活動してほしいなぁ、とも思うのですが。これからの成長に期待したいところです。
評価:★★★
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