牙の折れたバビルサと重ね合わせて
Title:バビルサの牙
Musician:柴田淳
なんといってもタイトルが特徴的なシバジュンのニューアルバム。「バビルサ」というのはインドネシアで生息するブタに似た動物。太い牙が頭にむかって湾曲しているのが特徴的で、そのまま伸びると頭に突き刺さりそうな感じになっているため、「最後は牙が頭に突き刺さって死ぬ」という噂が流れているほど。そのため、「死を見つめる動物」と呼ばれているそうです。
そんな意味を持つ動物だけに、かなり深読みできそうなタイトルですが・・・バビルサの牙は大きければ大きいほどモテるそうで、牙が折れてしまったバビルサはモテなくなるとか。そんな中、先日、彼女は転んで前歯を折ってしまった出来事があったそうで、彼女曰く「いい年して独身」の前歯の折れた彼女に、牙が折れたバビルサを重ね合わせたそうで、今回のタイトルとなったようです。
ただ、そんな感じで自らを牙が折れたバビルサに重ね合わせたのは、ただ単に前歯が折れたから、なんでしょうか?今回のアルバムはいつも以上に失恋の曲が目立ったように感じます。「白い鎖」や「ピュア」など、まさに悲しい失恋を歌ったバラードナンバー。そんな失恋を特に歌いたくなるような心境があったんでしょうか、と推測したくなってしまいます(笑)。
もっともその一方で一言「失恋」といってもそんな中にバリエーションを持たせているのも目立ったのが今回のアルバム。例えば「車窓」は失恋の中にも
「今さら 元に戻らない二人を 悲しむのはやめて
今さら 元に戻れない二人を 責めることはやめて
昨日も 明日も 僕はただ歌っていこう」
(「車窓」より 作詞 柴田淳)
と、失恋を乗り越えて前向きな姿勢が感じられますし、「横顔」ではむしろ女性の側から別れを告げたような歌詞が描かれています。
そういう意味では今回のアルバム、失恋のナンバーが多くても、前々作「僕たちの未来」のような痛さはあまり感じません。逆にどこか「失恋」という題材を客観視しているようにも感じられました。
また、失恋をテーマとした曲にありがちなバラードナンバーが並んでいる訳ではなく、バリエーションある曲の構成になっていたのも、あくまでリスナーを飽きさせないことを考慮した点、「失恋」に深くのめりこむわけではなく、どこか客観視しているように感じる大きな要因かもしれません。
例えば「王妃の微笑み」はダークファンタジーのゴシック調の曲になっており、いきなり異色な雰囲気の曲からスタートして驚かされますし、続く「反面教師」もいきなりEDM調のイントロからスタートしてビックリさせられます。また、その後もソウル風のポップチューン、「ピュア」などバラエティーある内容。前作「あなたと見た夢 君のいない朝」はムーディーな歌謡曲風の曲が多く、ちょっと単調さを感じてしまったのですが、今回は最後まで飽きさせない曲の構成になっていました。
なにより楽曲の良さは安定感を覚える内容で、なにげにそろそろベテランの領域に入ってきた彼女らしい、安心して聴けるアルバムになっていました。もっともこの安定感、そろそろ「マンネリ」にちょっとだけ足を踏み入れている部分も否めないだけにちょっと気になる点ではあるのですが、今回のアルバムに関しては十分に楽しめる傑作に仕上がっていたように感じます。前作はちょっといまひとつな出来で心配していたのですが、今回あらためてシバジュンの魅力を存分に感じることが出来たアルバムでした。
評価:★★★★★
柴田淳 過去の作品
親愛なる君へ
ゴーストライター
僕たちの未来
COVER 70's
あなたと見た夢 君のいない朝
Billborda Live 2013
The Early Days Selection
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2015年」カテゴリの記事
- 再メジャーデビュー作!(2016.05.19)
- もう10年か・・・(2015.12.28)
- なにげにはじめての9枚目(2015.12.29)
- ベスト盤+裏ベスト+ライブ盤(2015.12.26)
- 過去を振り返る(2015.12.21)
コメント