エロ・グロ・ナンセンスの時代
Title:ねえ興奮しちゃいやよ 昭和エロ歌謡全集 1928~32
先日、スパイ歌謡のコンピ盤を紹介したばかりの、戦前のSP盤をCDで紹介するレーベル、ぐらもくらぶからリリースされた興味深いコンピ盤。昭和初期の一時期に流行した「エロ・グロ・ナンセンス」の流れの中でリリースされた「エロ歌謡」を収録したコンピレーションアルバムです。
「エロ・グロ・ナンセンス」という言葉は聴いたことありますが、それでも戦前の昭和初期という時代に、「エロ」をテーマとした歌謡曲がリリースされていたという事実、ちょっと意外にも感じてしまいます。ただ、聴いてみると確かに今聴いても「こんな歌詞、歌っちゃうの?」的なエロい歌詞もチラホラ。例えば・・・
「あれはパンツか そじゃないか
エロ感娘のスカートよ
何と言はりょと 誹らりょと
肉も露わな あの脚に
よくも耐えます アスファルト」
(「エロ小唄」より 作詞 平井潮湖)
なんて歌詞だったり
「処女ですわ
わたし本当に 処女ですわ」
(「アラ!失礼」より 作詞 峯岸義一)
なんて身もふたもない歌詞も登場したり。ま、もっとも大半は、さすがにさらっとした軽くエロい程度の歌詞なのですが、それでも昭和初期という時代にこれだけ開放的な文化があったんだなぁ、ということを意外に感じました。
ただ逆に、これだけ自由で開放的な文化が花開きながらも、一方では徐々に戦争の泥沼に足を踏み入れつつあるという事実はある種の怖さを感じます。要するに、戦争が起きるのは、いかにも抑圧された暗い時代に起きる訳ではなく、こんな明るさを感じる時代でも、あと10年も経てば、暗い戦争に足を踏み入れてしまっているという事実。それは今の時代を鑑みれば、自由さを満喫している今の時代でも、いつ何時戦争に足を踏み入れてしまう可能性がある、ということを示唆しているようにも感じました。
ちなみにこのアルバム、「ブルースの女王」として戦後も高い人気を誇った淡谷のり子も何曲が歌っています。特に「エロ行進曲」なる曲では「とてもなやましエロおどり/サヽ エロおどり」なんて歌詞を歌っていたりします。私くらいの世代だと淡谷のり子といえば、フジテレビのものまね番組で審査員として出ていたおばあちゃんというイメージが強いだけに、この歌のイメージと全くマッチせず、聴いていて困ってしまいました(笑)。
またこのコンピ盤でもうひとつおもしろかったのは、その時代の風俗、流行を曲に強く反映しているという点でした。広く歌い継がれたスタンダードナンバーではなく、「エロ」という即物的なものをテーマとした時代の徒花的な曲だからこそ、その時代時代の流行をダイレクトに反映しており、逆に、その歌が誕生したころの風景を想像できるような歌詞が多かったように思います。
例えば流行という意味では今回のコンピ盤に「とこイットだね」「イットだね」なんて、2曲も「イット」なる言葉がタイトルに登場しています。この「イット」という言葉、当時流行した映画のタイトルで、性的魅力のことを「イット」と表現したそうです。そういう今となっては解説なしでは意味不明な、時代に即した流行が歌に織り込まれているのもまた大きな魅力に感じました。
そんなエロソングが収録された非常にユニークなコンピ盤。戦前歌謡に興味がなくても、この内容なら十分楽しめるかも?純粋にユーモラスな曲を楽しむのもよし、これを聴いて、昭和初期の時代に思いをはせるのもよし。非常に興味深い企画盤でした。
評価:★★★★★
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