話題のドラゲナイも収録
Title:Tree
Musician:SEKAI NO OWARI
昨年は紅白に初めての出場を果たし、その特徴的なパフォーマンスが話題に。その時に歌っていた「Dragon Night」が、リエゾンされた形で「ドラゲナイ」という空耳が意味不明ながらもネット上、よく使用されるスラングとなりました。
そんなことも話題になりつつ、おそらく現在、若い世代の間で最も人気のあるバンドだと思うSEKAI NO OWARI。今、間違いなくもっとも勢いのある彼らの最新作は、その勢いを反映された作品になっています。シングル曲とそのカップリングがアルバムの中の高い割合を占めているものの、アルバム全体としてインパクトある曲が多く、ミュージシャンが最も勢いのある時に作ったような、非常に脂ののった状況を覚えます。
ただ一方、ご存じのように若い世代に絶大な支持を受ける反面、「中二病バンド」として揶揄されてアンチも多い彼ら。確かにファンタジックな歌詞の世界観は受け入れられない人には受け入れられないかも。ただ、このファンタジックな世界観はアルバムを経ることによりその傾向が強くなり、「ドラゲナイ」は典型的なのですが、今回のアルバムは、ファンタジーの世界を全面的に押し出したアルバムになっています。そういう意味ではこの方向性が苦手、という方にはかなり厳しいアルバムかもしれません。
そんな彼らですが、アルバムを聴いて強く感じたのはFukaseの書くメロディーラインの魅力でした。ファンタジックな世界観にあったドリーミーな雰囲気のポップソングがメインなのですが、勢いではなくちゃんとメロディーラインで聴かせるポップソングは、歌詞の好き嫌いは別にしてやはり聴いていて純粋に楽しくなってくるワクワク感がつまっています。なにげに「美メロ」といっていいほどのメロディーのセンスの良さはもっと評価されてもいいのでは?今回のアルバムを聴いて、そう強く感じました。
しかし一方で疑問に感じたのは歌詞の方でした。いや、ファンタジックな世界観はいいんです。好き嫌いはわかれると思いますが、これは彼らの特徴なんだから。もっとも、人魚やら竜やら、いかにもな様式化されたファンタジーの世界はちょっと薄っぺらさも感じるのですが、そのわかりやすさもひとつの魅力なのだから仕方ない部分を感じます。
それよりも気になったのは、彼の書く歌詞が悪い意味で「わかりやすすぎる」部分を感じる点でした。例えば「マーメイドラプソディー」という曲、水族館で見世物になっている人魚を使いつつ、「人の幸せを勝手に決めつけるな」という点をテーマとした曲。そのテーマ自体は問題ないと思うのですが、そのテーマを歌詞の中で明確に歌ってしまっています。
その傾向は他の曲でも顕著で、「RPG」では
「『方法』という悪魔にとり憑かれないで
『目的』という大事なものを思い出して」
(「RPG」より 作詞 Fukase)
なんて楽曲のテーマをストレートに歌ってしまっていますし、話題の「Dragon Night」でも
「人はそれぞれ『正義』があって、争い合うのは仕方ないのかも知れない
だけど僕の嫌いな『彼』も彼なりの理由があるとおもうんだ」
(「Dragon Night」より 作詞 Fukase)
とあまりに身も蓋もなく、そのまんまのテーマを歌ってしまっています。
要するに彼の書く歌詞は、テーマをそのまま歌詞に織り込んでしまい、リスナーに解釈の余地を与えない傾向にあります。ただ、はっきりいって、テーマをそのまま載ってた歌詞は全くおもしろくありません。確かにわかりやすさはありますが、ある一定のライン以上をぼやかしてリスナーに解釈の余地を与えた方が歌詞として深みが出てきますし、おもしろさも感じます。
よく「中二病」と言われる彼らですが、こういう楽曲のテーマをあまりにもわかりやすく提示するスタイルが、悪い意味で「子供向け」といった印象を受けてしまいます。そうじゃなくて、例えば「マーメイドラプソディー」とかにしても、歌詞の中で使われている「自由」だの「不自由」だのといった言葉を使わなくても、「実は自由な海原よりも、みんなが会いに来てくれる水族館の方が好きだ」という物語を通じて、テーマは十分伝わると思いますし、テーマをあえてあいまいにした方が、曲の世界観がより広く広がると思います。
もうちょっとはっきり言ってしまえば、正直Fukaseは歌詞に関しては下手だと思っています。多分、このテーマをストレートにリスナーに提示する歌詞の構成に「子供っぽさ」を感じてしまいますし、実は彼らが「中二病」と言われる要素って、歌詞の内容以上に、そういう部分が多いに影響しているんじゃないか、とすら感じてしまいました。
今回のアルバム、全体として勢いがあり、かつメロディーが非常に魅力的だったが故に、歌詞のまずさがより目立ったように感じます。正直、ファンタジックな世界観やそのテーマではなく、歌詞の構成自体をもうひとひねりしてほしいなぁ。
評価:★★★★
SEKAI NO OWARI 過去の作品
EARTH
ENTERTAINMENT
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コメント
何度もコメントしてしつこいかもしれませんが(汗)
マーメイドラプソディーを作詞したのはSaoriさんで、RPGもFukaseさん単独ではなくSaoriさんとの共作です。
>『方法』という悪魔に~の部分もFukaseさんというよりSaoriさんの作風に感じますし(実際はどちらの作詞なのかはわかりません)ストレートな作風なのはSaoriさんの方ではないかなと思ったりしました。
投稿: リリ | 2015年3月 8日 (日) 16時34分
ゲーム音楽も好きな自分にとってはサウンド、曲はかなり魅力的です。
個人的に彼らの曲は少年漫画のようなイメージを持ってます。
歌詞も分かりやすければ、それに付随している世界観もなんとなくベタで。ただ、ここまでストレートだとせっかく言いたい事も綺麗事で済まされちゃうような気がします。
まぁ彼らが色々揶揄されるのは、それに加えて演出などがあまりに狙いすぎてる感もあるのではないでしょうか。
バンドとして年季を重ねた時にこの辺りで変化がないとこの先ちょっと厳しいような気もします。
投稿: 亮 | 2015年3月 8日 (日) 17時42分
>りりさん
いえいえ、こちらころ返事が遅くなってすいません。
なるほど、作詞はSaoriさんだったですね。そういう意味ではこの作風はSaoriさんの方かもしれません。
>亮さん
そうなんですよ、彼らの歌詞も世界観もかなりベタ。
まあそれはそれで魅力かもしれませんが、私も年季を重ねた彼らにはもうちょっと変化がほしいかもと思ってしまいます。なによりメンバー全員、失礼ながらもそれほど若いわけじゃないんですよね・・・年齢なりの歌詞や音楽も聴きたい感じもするのですが・・・。
投稿: ゆういち | 2015年3月 8日 (日) 23時05分
SEKAI NO OWARIの音楽へのこだわりについてはかつてのくるりを彷彿とさせるので○
歌詞については中2病と割り切れば気になりません
それよりは楽曲の構成のパターン化が気になります
「スノーマジックファンタジー」の作風を何度見たことか
引出があまりにもなさすぎます
それを改善しないと簡単に飽きられると思います
投稿: softman | 2015年3月 9日 (月) 00時18分
はじめまして、はじめてコメントさせていただきます
セカオワについて、好意的に見るとすれば、まだ世間に迎合して曲を作ってる感じがあるので、本アルバムでいうと、銀河街の悪夢とかの『自分なりのなにかを表現しよう』という曲が増えて行けばいいなあ、と感じます
投稿: yono | 2015年3月 9日 (月) 12時40分
ゆういちさん、こんばんは。
何年か前に書き込ませて頂いたのですが、いつも拝見させて頂いています。
私はセカオワを聞くたびに人気が出るのはわかるけど何か違和感を感じると思ってまして。
テーマをそのまま載せた歌詞は面白くない…
この文を読んで、今までセカオワに感じていた違和感がそれだったことに気づきました…ありがとうございます。
悪いバンドでは無いと思うので…これからに期待したいですね。
投稿: | 2015年3月 9日 (月) 22時13分
ヒットチャートがAKBやらEXILEやら、雨後の筍のようなアーティストばかりな現状だけに、
彼らのようなバンド系が大人気なのは非常に頼もしいのですが、
歌詞の印象は、ゆういちさんを始め、ほぼ皆さんと同様の印象です。
曲によって正義やら戦争やら重いテーマを扱っているものもあるものの、
言いたいことがあまりにもストレートかつありきたり過ぎて、
レビューで書かれていた通り、僕もこの辺が悪い意味で中二病的に感じてしまいます。
ファン層のほとんどが10代以下の若年層に集中しているのも何かとても勿体無く感じます。
せっかくこれだけ人気になっただけに、歌詞がもっと成熟すれば、
もっと上の年齢層にも届き、長く人気のあるバンドに成長して欲しいと思うのですが・・・。
あと、作詞だけじゃなく、作曲もFukase以外のメンバーも積極的に手がけています。(シングル「スノーマジックファンタジー」はNakajinが担当)
Wikipediaにも一覧が載ってますので、参考になれば
http://ja.wikipedia.org/wiki/Tree_%28SEKAI_NO_OWARI%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A0%29#CD
投稿: HK | 2015年3月 9日 (月) 23時00分
>softmanさん
確かに楽曲構成のパターンも似ている曲が多いといえば多いですね。
いまは楽曲自体に勢いがあるので聴いていてもさほど飽きないのですが、
今後、勢いが落ちた場合に一気に飽きられる危険性も・・・。
>yonoさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
そうですね、自分たちなりの表現をしようとする曲がもっと増えてくると面白いかもしれないですね。
まだまだ課題は多いバンドのように思います・・・。
>(名無し)さん
こんにちは。私も今回のアルバムで、セカオワに感じた違和感に気が付きました。
歌詞がわかりやすい、というよりもテーマを表に出しすぎていて、そこに「中2病」っぽさを感じてしまうんですよね。悪いバンドではないと思うのですが・・・。
すいません、あと次からは何でもいいのでハンドルネームをつけていただけるとありがたいです!
>HKさん
Wikipediaの一覧、ありがとうございます。メンバーそれぞれ手掛けているみたいですね。
ただ結果、基本的に「テーマを表に出しすぎる」という傾向があるとすると、いろいろな人が作詞を手掛けているという意味が、上手く機能していないように思います。
メンバー全員仲がいいみたいですが、それが悪い意味での「馴れ合い」になってなければいいのですが・・・。
彼らもなにげにそれなりの年齢なので、そろそろ歌詞がもっと成熟してくれれば、もっといいバンドになると思うんですけどね~。
投稿: ゆういち | 2015年3月15日 (日) 21時28分