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2015年3月14日 (土)

京都の山村より

Title:かがやき
Musician:高木正勝

今やトヨタ自動車やJAL、docomoなどといった日本の名だたる企業のCMソングを手掛けたり、「おおかみこどもの雨と雪」など数多くの映画音楽を手掛けるなど、その活躍が目立つ、ミュージシャンで映像作家でもある高木正勝。そんな彼は2013年の夏より、生まれ育った京都府亀岡市より、京都と兵庫の県境の山村に移り住んだそうです。そんな里山から、数多くの大企業のCMソングが産みだされてきたことが産みだされてきたことが驚き。そしてそんな京都の山村から待望のニューアルバムがリリースされました。

今回のアルバムも2枚組。さらにDISC1は70分超え、DISC2も60分を超えるフルボリュームの内容となっています。そして今回のアルバムでユニークなのはDISC1の方。こちらはいわば純然たるオリジナルアルバムとなるのですが、この山奥の山村で録音された様々な音が収録されているほか、「うたがき」と題された3部作は、この京都から遠く離れたエチオピアで録音された音がおさめられています。

さながらフィールド録音のような雰囲気のDISC1では、森の音、水の音、鳥の声、虫の声といったいかにも森の中といった雰囲気の音のみならず、子供たちの遊び声や、さらには曲によっては、おそらくその山村で知り合った方なんでしょうね、老婆の歌や語りなんかも収録されています。

この老婆の歌や語り、おそらく地元の素人を起用しているものと思うのですが、これがまた実に味のある歌を歌っています。もちろん、歌にあったようなアレンジや曲のつくり方をしていると思うのですが、下手な若手歌手には到底出せないような、微妙な感情が歌の向うから感じられます。なんでも97歳のおばあちゃん(!)のようですが、その長い人生からくる深みを感じるボーカルです。

ただそんな山村でのフィールド録音なのですが、「日本の山村の雰囲気をそのままおさめた」という感じではありませんでした。むしろ高木正勝の創りたい音楽のイメージが先にあって、そこに山村で収めた音を割り振っている、そんな印象を受けます。そして彼の基本的な音楽の方向性は以前から変わりません。ピアノやストリングスを用いた、メロディアスで優しい雰囲気、でもちょっとだけゆがんだ部分を感じられ、それが癖となるそんな音楽の世界。そんな音楽の中、京都の山村の雰囲気が上手く溶け込んでいました。

まただからこそ、そんな日本の山村から大きく離れたエチオピアで録音された音が、違和感なくひとつのアルバムの中におさまっているのでしょう。そんな「うたがき」で収録された音は、やはりエチオピアで録音された音ということで、京都の山村とはちょっと異なる雰囲気。でもそれがいい感じでアルバムの中でインパクトとなっていました。

一方DISC2の方は1曲目から9曲目までがNHK福井放送局制作の開局80 周年記念ドラマ「恐竜せんせい」オリジナル・サウンドトラック、その後は映画「夢と狂気の王国」のサントラとなっています。

こちらはサントラ盤ということもあって、ピアノがメインとなるシンプルでメロディアスな曲が並んでいます。こちらも1時間以上のフルボリューム。正直サントラということもあってDISC1と比べると実験的要素が少ない無難な曲が並んでいるのですが、全33曲、1曲あたり平均2分弱という短い曲ばかりなので、次々と新しい曲が展開していき、さほど飽きることなく聴くことが出来ました。

DISC1とDISC2で独立したアルバム。評価としては高木正勝の曲のイメージに、京都の山村の音が見事溶け込んだDISC1は文句なしの傑作。一方、DISC2は4つといった感じでしょうか。ただどちらもしっかり高木正勝の魅力が詰め込まれた作品だと思います。数多くのCMや映画にひっぱりだこの彼ですが、その評価も納得のアルバムです。

評価:★★★★★

高木正勝 過去の作品
Tai Rei Tei Rio
TO NA RI(原田郁子+高木正勝)
おむすひ


幻のSP盤復刻!~ニッポン・モダンタイムス・シリーズ~スウィング・パラダイス

既に3月中旬ですがまだ続いていた2014年話題のアルバムの後追い企画。本作は、レコードコレクターズの2014年リイシューベストの歌謡曲/芸能部門の1位。戦前のSP盤のうち、洋楽テイストの曲をCDで復刻したニッポン・モダンタイムスシリーズ。基本的に以前からこのシリーズは好んで聴いていただけに、今回は「後追い」というよりも、レココレのベストで聴き逃していたことに気が付いたアルバムでした・・・。

「スウィング・パラダイス」とついていますが、スウィングジャズという括りよりも、もっと広く洋楽テイストの曲が並んでいる内容。もちろんそれなりの時代は感じさせるものの、今の耳でも十分楽しめるような曲も多く、なにより音楽全体に明るさが感じられます。「安来ルンバ」のような、安来節とルンバを融合させたような実験テイストあふれる曲もユニーク。戦前という時代をイキイキと感じることが出来る名企画です。

評価:★★★★

ニッポン・モダンタイムス 過去の作品
ニッポン・スウィングタイム
Swing Time 1928-1941
SWING GIRLS 1935-1940
Sweet Voices~ニッポンのスウィング・エラ~KING&TAIHEI collection 1934-1942

私の青空~二村定一ジャズ・ソングス(二村定一)
Empire of Jazz(ディック・ミネ)
ジャズを歌う(藤山一郎)
La Tanguista(松島詩子)
唄の世の中~岸井明ジャズ・ソングス(岸井明)
ベル・エポック~日本のシャンソン黄金時代
日本シャンソンの歴史 Histoire de la chanson au Japon

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