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2015年3月 2日 (月)

ゲームの世界を意識?

Title:謎のオープンワールド
Musician:the band apart

the band apartの新作は、アルバム全体がテレビゲームの世界をイメージするような内容となっています。インターリュードにはそのまま「(save point A)」「(save point B)」なんていうタイトルになっていますし、イントロとアウトロの「(opening)」「(ending)」もゲーム音楽、それもファミコンの時代を彷彿とさせるチップチューン風なサウンドを聴かせてくれます。

他にも歌詞カードの文字は昔のファミコンを彷彿とさせるようなフォントを使用していますし、メンバーを模したドット絵も登場しています。そもそも「謎のオープンワールド」というタイトル自体、どこかファミコンのRPGを彷彿とさせるようなタイトルとなっています。

ただ、楽曲自体は特にテレビゲームを意識したような内容にはいません。逆に目立ったのは、現在のネット社会に対する強烈な皮肉。今回のアルバムは前作に引き続き、日本語詞に挑戦した作品になっていたのですが、例えば「笑うDJ」では

「通電中 世界中にアクセス
10秒後に忘れるくせに
目の前の誰かより
指先の文字に夢中」

(「笑うDJ」より 作詞 the band apart)

なんて歌詞があったり、さらにストレートで強烈なのが「殺し屋がいっぱい」

「戦え みんなで この街 守るため
はみ出しものには 正義の一撃を
でしゃばり 売名 なんだか気に食わない
自由に生きてる?ふざけてる ふざけてる」

(「殺し屋がいっぱい」 作詞 the band apart)

という、ここ最近、ちょっとした失言や目立つ言動で揚げ足を取り、必要以上のバッシングを繰り広げるネット社会(いや「ネット」に限られたことじゃないかもしれません)を強烈に皮肉っています。

そしてユニークなのがこれら強烈な皮肉を込めた歌が、さらりと爽やかなメロディーやサウンドに載せて歌われている点。ひょっとしてBGM感覚で軽く聴いていると、これらの皮肉に気が付かないかもしれません。こういう「毒」をさらりと楽曲の中に織り込んでいる点、日本語詞への挑戦が2作目ということが信じられないくらい、作詞の面での高い完成度を実感できます。

ただ、アルバム全体の出来としてはどうだったのか、と言われると今回の作品、the band apartとしては素直に絶賛できない部分が少なくありませんでした。確かにいつもの彼らのような、軽快なサウンドにファンキーなリズム、アシッドジャズの影響を感じるクールな作品というのも少なくありません。しかし全体的に目立ったのはシンプルな「普通の」ギターロック。もちろんそれらの作品も、the band apartらしい凝ったサウンドや軽快なリズムを随所に聴かせてくれており、出来としては悪くありません。むしろ新人がいきなりこんなアルバムをリリースしてきたら、もろ手をあげて絶賛していたかもしれません。

でも、デビュー時の頃の作品のインパクトと比べると、その衝撃度はかなり薄い、と言わざるを得ません。それなりにthe band apartとしての個性は出ていたものの、全体的におとなしめ。言っちゃ悪いけど、良くありがちなギターロックバンドの枠組みに入りかけてしまっています。

このアルバム、決して悪い作品ではありません。むしろ普通のミュージシャンがリリースしたら十分すぎるほど「傑作」になりそうな作品。ただ、the band apartはこのレベルじゃないと思うんだよなぁ。ここ最近、ちょっと物足りない作品が続いているのが気にかかります。次回作に期待したいのですが・・・。

評価:★★★★

the band apart 過去の作品
Adze of penguin
shit
the Surface ep
SCENT OF AUGUST
街の14景

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