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2015年2月15日 (日)

フランスとアルジェリアの融合

Title:HK presente LES DESERTEURS
Musician:HK

2014年話題のアルバムの聴きなおしシリーズ(?)。今回は、MUSIC MAGAZINE誌ワールド・ミュージック部門で2位となった本作。このHKというミュージシャンはアルジェリア系フランス人。もともとはM.A.P.というHIP HOPユニットで活動した後、サルタンバンクというロックバンドでボーカリストとして活動。このバンドの曲「On Lache Rien」(和訳すると「あきらめない」)がフランスではデモの際に良く歌われる歌として知られるそうです。

今回のアルバムは、そんな彼がフランスシャンソンの名曲を、彼のルーツであるアルジェリアの大衆音楽シャアビ仕様にカバーしたアルバム。もともと、「On Lache Rien」といい、マイノリティーの視点からのメッセージ性強い曲を歌っているシンガーのようで、今回のシャンソンの選曲も、そんなマイノリティー視点からの選曲が多いようです。

このおもしろいのは、フランスの伝統的な音楽シャンソンを、アルジェリアのシャアビ風にカバーしているという点。日本でいえば在日のブラジル人が、日本民謡をブラジル音楽風にカバーするようなイメージでしょうか?そんな例を出してしまうと、妙にチグハグな音楽が出来上がりそうなのですが、これが意外とマッチしているから不思議。1曲目「VESOUL」もシャンソン歌手ジャック・ブレルの68年のナンバーだそうですが、アラブ風のギターの音色が曲にピッタリとマッチして、エスニックムードあふれる曲風に仕上がっています。

もともとシャンソン自体、歌謡曲に通じる哀愁漂うメロディーラインが魅力的。アラブや北アフリカの音楽にも、そんな歌謡曲っぽい哀愁たっぷりのメロディーがよくみられる印象があるのですが、それだけにもともと親和性が強かったのでしょう。さらに名曲のカバーということもあって、そのメロディーラインの良さは当たり前ですが絶品。ちょっと妖艶なギターが印象的な「P'tits papiers」のメロディーは泣きメロといっていいほどの哀愁感が漂っていますし(ちなみにこの曲は、レジーヌという女性歌手の97年のナンバーですが、現在はフランスの移民政策への抗議の歌としてよく歌われているそうです)、エディット・ピアフの「Padam Padam」なんかも歌謡曲テイストを感じます(というよりも、こういうシャンソンの曲が歌謡曲へ影響を与えているのか・・・)。

ただ、メロディーももちろんながらも、アレンジがまた絶品。北アフリカやアラブのテイストが感じられる、ちょっと乾いた雰囲気のサウンドがメロディーの哀しみを増幅させていますし、特に終盤、「Ne quelque part」はピアノとギターとアコーディオンの絡みが絶妙にマッチ。最後を飾る「L'affiche rouge」もピアノやアコギの音色が実に美しく聴かせてくれています。

残念ながら今回、ダウンロードでの購入だったので歌詞は詳しくわかりませんでしたし、選曲の意味するところもおそらく日本人だとピンと来ない部分もあるのかもしれません。ただ、そこらへんを差し引いても、シャンソンとシャアビという2つの異なる文化の融合がとても魅力的に楽しめるアルバムだったと思います。そしてこういう異なる文化が融合することによって、新たな魅力あふれる文化が産みだされるんだよなぁ、ということをこのアルバムを聴いて、強く感じることが出来ました。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

2014 Grammy Nominees

毎年恒例、グラミー賞のノミネート作品を収録したオムニバス盤。洋楽シーンの動向をつかむにはもってこいの1枚なのですが、2014年版は当たりが多かった!LordeやDaftpunk、James BlakeにKendrick Lamarと、個性的かつインパクトのある曲がズラリ。全体的にはメロディアスでポップな曲が多かった印象ですが、2013年版に引き続き、シーンの充実ぶりを感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★★

Grammy Nominees 過去の作品
2011 GRAMMY NOMINEES
2012 GRAMMY NOMINEES
2013 GRAMMY NOMINEES

Loopified/Dirty Loops

You Tubeにアップした動画が話題となりデビューを果たしたスウェーデン出身の3人組バンドのデビュー作。80年代あたりのフュージョンのサウンドを彷彿とさせる爽やかなシンセのサウンドにポップなメロディーが載るスタイル。感覚的にはちょっと懐かしさも感じさせつつ、ある種の「わかりやすさ」があり、垢抜けたサウンドもあり、「洋楽を聴いた」という満足感を覚えそうな作品。そういう意味で、普段洋楽を聴かないような方が最初に聴く作品としてピッタリ来るかも。

評価:★★★★

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