バンドとしての成長を感じる
Title:LIFE
Musician:フジファブリック
ボーカルでメインソングライターだった志村正彦逝去後、現メンバーでは事実上3作目となるニューアルバム。今のフジファブリックの活動が厳しい点、それは間違いなく、「天才」ともうたわれた志村正彦在籍時代の楽曲と常に比較され続けざるを得ない点でしょう。ただ、それは志村逝去後も、例えばジョン・ディビジョンとニューオーダーの場合とは異なり、フジファブリックとして活動を続けた彼らが、あえて選んだ選択肢と言えるかもしれません。
現メンバーの楽曲がメインになってからの2作品、「VOYAGER」と「STAR」はあきらかに志村正彦時代の楽曲を引き継いだような雰囲気のアルバムになっていました。あらたにボーカルにつき、かつメインのソングライターとなった山内総一郎のがんばりは感じられたものの、どこか志村在籍時代の幻想を追い求めているようにも感じてしまいました。
そんな2作に比べると本作は、フジファブリックとしての新たな可能性を感じるアルバムのように感じました。まず一番顕著なのは、山内総一郎のソングライターとしての成長。前作「VOYAGER」でもその実力を感じさせてくれましたが、本作でも、そのメロディーメイカーとしての実力がキラリと光るような作品がチラホラ。「Gum」はノイジーなギターサウンドにちょっと切ないメロディーが心地よいですし、「カタチ」もバンドとしてのスケールの広さを感じさせる作品になっています。
さらに本作では、ここ数作と異なり、志村正彦の後追いのような曲がほとんどなかった点もバンドとしての新たな可能性を感じました。そういう意味では名実ともに、新生フジファブリックのスタート、ともいえる作品なのかもしれません。
ただし、これで志村正彦在籍時に勝るとも劣らない傑作が登場したか、と言われると少々微妙な部分は否めません。確かにこの楽曲に収録されている曲も名曲だとは思うのですが、志村正彦作曲による、強いインパクトはないはずなのに、なぜか癖のあるメロディーが心に残るような傑作群と比べると、まだまだ「普通のポップス」の枠組みは出ていません。
そしてなにより、「これが新生フジファブリックだ」と感じさせるような特徴はちょっと薄かったかな、とも感じます。これが今のフジファブリックらしさだ、と感じるような特徴あるメロディーもなく、(これは仕方ないかもしれませんが)山内総一郎のボーカルも、それだけで特徴になるような癖が薄いのが玉に瑕となってしまっています。
とはいえ、これからの可能性も大きく感じられた、バンドとしての成長を感じる作品なのは間違いないでしょう。これから数作のうちに、バンドを代表する傑作をリリースする可能性も感じられる作品だとも思います。これからのフジファブリックに注目したいところです。
評価:★★★★
フジファブリック 過去の作品
TEENAGER
CHRONICLE
MUSIC
SINGLES 2004-2009
STAR
VOYAGER
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コメント
もうすぐ武道館LIVEを行うタイミングで書き込みます
正直今回の作品は最高傑作とまではいきませんが、主観的最高傑作「TEENAGER」に匹敵します
その要因はまさしく山内さんの覚醒でしょう
これまでは、メンバーそれぞれの楽曲があった前作までと比べ、今回はもう8割近く山内さんの作詞作曲です
変態要素が詰まった「シャリー」に、至高の名バラード「ブルー」、タイトルからは想像できないほど重苦しい「祭りのまえ」と名曲だらけであることは明らか
何より今回のポイントは「生音」です
「VOYAGER」はどちかというとシンセリフが目立っていたので、今回はその反動が来たという感じです
「生音」になった結果、音が非常にクリアになり、聞きやすくなりました
事実、「LIFE」はピアノが最近では見られないほど弾んでますし、「ブルー」ではこのピアノがあるから成り立つというぐらい重要な役割を果たしてます
ゆういちさんの仰る通り、まだまだ最高傑作には届きません
が、再始動してからわずか3年でこの傑作を生み出してしまったということはそろそろとんでもない名盤を作ってもおかしくないです
ほぼ毎回ツアーに参加しているので次作も楽しみにしています
なんか、アルバムレビューみたいになってしまってすみません
こんな感じでいいんでしょうか?
投稿: softman | 2014年11月18日 (火) 22時38分
>softmanさん
そう、山内さんの覚醒を私も感じます。正直、今回のアルバムを聴いて、「え?こんなにいいメロディーメイカーだったっけ?」と思ってしまいました。また、「生音」というポイントも確かにそうかもしれません。これだけメロディーで優れたものを書けるからこそ、また「生音」というポイントが光るのかもしれませんね。
志村さん亡き後、どうなるのか心配だったフジファブリックですが、そろそろ新たな名盤登場の予感がしますね。楽しみです!
投稿: ゆういち | 2014年11月28日 (金) 23時54分