レイシズムに対する怒り
Title:アンダーグラウンド・レイルロード
Musician:ソウル・フラワー・ユニオン
途中、ミニアルバムのリリースはありましたが、フルアルバムとしては約4年ぶりとなるソウル・フラワー・ユニオンのニューアルバム。今回のアルバムタイトル「アンダーグラウンド・レイルロード」、邦訳すると「地下鉄道」という言葉は、3曲目に収録されている「地下鉄道の少年」のタイトルにもなっていますが、19世紀のアメリカ黒人奴隷を、奴隷制を認めていたアメリカ南部から、奴隷制を廃止していたアメリカ北部あるいはカナダへの逃走を手助けした秘密結社のこと。実際に鉄道を走らせていた訳ではなく、「停車駅」と呼ばれた拠点から拠点へと黒人奴隷の逃走を手助けし、また、隠語として自らを「車掌」等の鉄道組織になぞらえてお互いに呼び合ったことから「地下鉄道」と呼ばれたようです。
今回、彼らがこのアメリカの黒人奴隷制度の象徴ともいえる「地下鉄道」を冠した曲を作り、アルバムタイトルまでにしたのは明確。ここ最近の日本では、残念ながら在日韓国人に対して口汚くののしるヘイトスピーチが一種の社会問題になっていますが、19世紀のアメリカでの黒人差別を、今の日本のヘイトスピーチになぞらえています。他にも「残響の横丁」はヘイトスピーチに対するカウンターデモについて歌ったそうですし、また、「断末魔のレイシストが身悶えている」と歌った「踊れ!踊らさせる前に」が、今回のアルバムに再録されている点からも、このアルバムのテーマ性がはっきりしています。
ソウル・フラワーはこの問題にとどまらず、原発や沖縄の基地問題についても、デモに参加したりTwitterなどで積極的に発言したりしていますが、その中でアンチ・レイシズムをアルバム1枚のテーマにまでするところに、この問題に対して彼らの強い怒りを感じます。そして、個人的にも彼らのこの怒りには強く共感します。
ヘイトスピーチ、つまりレイシズムに関しての問題は、あきらかに他の社会問題とは一線を画します。例えば原発にしろ集団的自衛権の問題にしろ、今の日本で賛否がわかれる大きな問題ではありますが、必ずしもどちらの意見が正しく、どちらが誤っているという問題ではありません。それぞれにメリット、デメリットがあり、その両面のどちらをより強調するかの問題にすぎません。
しかし、特定の出自や民族、性別などに対して侮辱的な発言を行うレイシズムという行為は、現代社会においてはあきらかに誤りであると断言できます。それは本来、右翼左翼の主義主張とは関係ないはずです。韓国の反日政策や在日韓国人の特別永住者制度を持ち出してヘイトスピーチを正当化する発言をする人がいますが、差別を行う人は得てして何らかの理由をつけて差別を正当化します。しかし、どんな理由があっても差別は正当化されることはありません。反日政策うんぬん全く関係なく、レイシズムは許されない行為である、それ以上でもそれ以下でもない。そのことはより強く強調すべきでしょうし、そんな行為が平気で行われるような状況に対して、私も強い怒りを感じます。
ただちょっとおもしろいのは、今回の作品、レイシズムがテーマとはいえ、楽曲の中で声高に大上段に立って反差別を叫んでいるわけではありません。「地下鉄道の少年」にしても、黒人奴隷制をテーマとしながらも、楽曲はブラックミュージックの影響を感じられないフォーキーな作風になっていますし、歌詞も、おそらく「地下鉄道」という知識がなければ、普通の少年の成長談に受け取れるような歌詞になっています。
この、社会的なテーマを持ちながらも、真正面から取り上げず、微妙にずらしてくるスタイルは、例えば「改憲」や「秘密保持法」なんて言葉が飛び出す「これが自由というものか」にも感じられます。榎本健一が歌ったコミックソングをカバーしたこの曲も現在の日本社会を皮肉っている社会派な内容になっているものの、それを冗談めかした内容になっていて、政治的な堅苦しさよりもコミカルなユーモラスさが先に立った曲になっています。ここらへん、社会的な内容をテーマとしながらも、音楽は難しく考えて聴くものではなく、あくまでも楽しむものだ、ということが、彼らなりのスタンスのように感じました。
さて、そんな社会的なテーマ性が強い今回のアルバムですが、楽曲的にはいつものソウル・フラワーらしいロックナンバー。ただ、ライブで無条件で盛り上がりそうな、チンドン的な要素の強いナンバーよりも、「グラウンド・ゼロ」にしろ「風狂番外地」のような、ブラックミュージック的な要素を感じる、グルーヴィーなナンバーが目立ったように思います。他にもファンキーな「バクテリア・ロック」もそうですが、いつもよりもソウル・フラワーの中の「黒さ」が目立ったように思います。
逆に後半は「マレビトこぞりて」や「これが自由というものか」のような日本の民謡、チンドン的な要素の強い、ライブで盛り上がりそうなナンバーが続きます。ミディアムテンポなナンバーが多く、前半はちょっと地味かも?とも感じていたのですが、後半になるとまさにアゲアゲなナンバーが続き、テンションもあがってきました。
そんな訳で、アンチ・レイシズム的な要素が強く、楽曲もソウル・フラワーの「黒い」部分が強調されている部分があるのですが、基本的には本作もちゃんとソウル・フラワー・ユニオンの魅力が存分につまった傑作になっていました。ただ、こういうアンチ・レイシズムという当たり前のことをわざわざアルバムテーマにしなくてはいけない事実には少々悲しくなってしまいます。次回作がリリースされるまでには、ヘイトスピーチなんてものは過去のものとなり、ソウル・フラワーの新作が、レイシズムなんてテーマにする必要性がないようになっていることを強く希望します。
評価:★★★★★
ソウル・フラワー・ユニオン 過去の作品
満月の夕~90's シングルズ
カンテ・ディアスポラ
アーリー・ソウル・フラワー・シングルズ(ニューエスト・モデル&メスカリン・ドライブ)
エグザイル・オン・メイン・ビーチ
キャンプ・バンゲア
キセキの渚
踊れ!踊らされる前に
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