まさかの復活!
Title:Hurt
Musician:Syrup16g
Syrup16g、まさかの復活!2000年代初頭、その独特の歌詞の世界で、一部に熱烈な支持を得た3ピースロックバンドSyrup16g。2008年にセルフタイトルのアルバムと、その後の日本武道館ライブを最後に惜しまれつつ解散したものの、昨年、メンバー3人が揃いライブを行い、そして今年に入り、まさかの復活。約6年ぶりとなるニューアルバムリリースとなりました。
私もインディーズ時代から大好きだったバンドなだけにこの復活劇は大喜びだった反面、どこか不安もあったのも事実。ただ、アルバムを聴き「Share the light」の狂おしいようなへヴィーなギターサウンドを聴いただけで、思わず笑みがこぼれました。Syrup16gが帰ってきた、と。
基本的にはへヴィーなバンドサウンドの、比較的シンプルなスタイルのオルタナ系ロックバンド。今回のアルバムではかなり分厚い重厚な音を聴かせてくれるような曲も多く、「あれ、Syrup16gってこんなへヴィーなバンドだったっけ?」とすら思ったほど。バンドとしての実力もしっかり発揮しており、五十嵐隆ワンマンではなく、ちゃんとSyrup16gというバンドなんだ、ということを強調しています。
ただバンドサウンドについてはそれほどバリエーションがあるわけではありません。どちらかというとシンプルでストレートなのが大きな魅力。「メビウスゲート」みたいにちょっとファンキーな作風な曲が入っていたりしておもしろかったりもするのですが、凝ったサウンドをいろいろと展開、というスタイルではありません。
やはりSyrup16gの最大の魅力はその歌詞。その点は復帰後のアルバムも全く変わっていませんでした。「Stop brain」では、充たされない日常の中で「思考停止が唯一の希望」というサビのフレーズはグサリと来るものがありますし、
「まだ見ぬ明日は 遠ざかり
ありきたりな今日は もう終わり」
「いつも痛みは 空っぽで
呆れるくらい 他人事で」
(「(You will)never dance tonight」より 作詞 五十嵐隆)
と歌われる「(You will)never dance tonight」もとても印象的。それで歌われているのはみたされない現実を容赦なく提示して切り裂く歌詞。ここ最近のJ-POPでありがちな安易な前向きの希望はここでは歌われていません。
しかし、そんな彼らの曲でも最後「旅立ちの歌」では
「残念の中で 落胆の雨でも
勇敢な姿を 誰かがずっと見ている
最低な中で 最高は輝く
もうあり得ないほど 嫌になったら
逃げ出してしまえばいい」
(「旅立ちの歌」より 作詞 五十嵐隆)
と厳しい現実の中でのかすかな希望を歌います。そんなSyrup16gの歌は、変に無責任に前向きソングを歌う歌よりも、よっぽど心に響いてくるような「希望」を歌いあげています。
ただ、とはいえ彼らみたいに厳しい現実とその向こうの希望という歌詞を歌うミュージシャン、決して珍しいわけではなく、Syrup16gがシーンの中で孤高の存在、といった感じでもありません。そんな中でSyrup16g五十嵐隆が素晴らしいのは、グサっとくるようなインパクトあるワンフレーズを歌詞の中に織り込んでくる手法。前述の「Stop brain」の「思考停止が唯一の希望」という一節もそうですし、タイトルそのものがインパクトある「生きているよりマシさ」なんて曲も登場したりします。
また歌詞の内容も必要以上の小難しさがなく、比較的テーマの理解は容易。インパクトあるフレーズとあわせて、決して歌詞カードで読み込まなくても、音楽を聴いていてその歌詞のテーマがきちんと頭に入ってくる点もSyrup16gの大きな魅力に感じます。
今回のニューアルバムは、そんなSyrup16gの魅力がきちんと織り込まれた傑作で、待ちに待ったファンには文句なく満足できる「Syrup16gを聴いた!」という満腹感あるアルバムになっていたと思います。これからもコンスタントに作品をリリースしてくれるのでしょうか。Syrup16gはまだまだ傑作を産み続けそうです。
評価:★★★★★
Syrup16g 過去の作品
Syrup16g
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