アフリカ音楽への招待
ここ最近、アフリカ音楽に関するガイドブックが2冊ほぼ同時期に発売され、一部で話題となっています。
まず1冊がシンコーミュージックから発刊された「アフロ・ポップ・ディスク・ガイド」。ロック系がメインの出版社からこういうワールドミュージックのディスクガイドが出されたのはちょっと驚きました。
もう1冊が「ポップ・アフリカ800」。こちらは5年前に出版された「ポップ・アフリカ700」の改訂版。「ポップ・アフリカ700」もその当時、本格的なアフリカ音楽のディスクガイドということで大きな話題となりましたが、それから紹介するアルバムをさらに100増やし、バージョンアップし、リニューアルとなりました。
このサイトでもよく取り上げているように、私はアフリカの音楽を比較的好んで聴いています。アフリカ音楽と一言で言ってもいろいろなタイプがあり一概には言えないのですが、その大きな魅力は、粗野ではありものの、人間の奥深くに眠るなにかに直接訴えかけるようなサウンドを奏でること、のように思います。例えばアフロビートなどの独特のビートは無条件で身体を踊らせるようなパワーがありますし、アフリカの代表的な楽器、親指ピアノの音色は、私たちにとってもとても心やすらぐもののように感じます。
そんなアフリカ音楽への入門書としてもピッタリ、と言えるこの2冊なのですが、おもしろいことに同じアフリカ音楽のディスクガイドながらその方向性は大きく異なります。「アフロ・ポップ・ディスク・ガイド」はあくまでも欧米のロック、ポップスを基軸として、アフロポップに影響を受けたアルバム、ミュージシャンを紹介した上で、その影響の源としてのアフリカ音楽のディスクを紹介しています。一方「ポップ・アフリカ800」はまさにアフリカ音楽の教科書といっていい内容。アフリカの音楽が国ごとにまとめられ、コラムでは代表的な国についての音楽文化が紹介され、かつ、代表的なミュージシャンはひとつのコーナーが設けられて大きく紹介されています。
「アフロ・ポップ~」がロック、ポップスリスナー相手に、アフリカ音楽へ興味を持ってもらうためのきっかけづくりに焦点を置いているのに対して、「ポップ・アフリカ~」は、そもそもアフリカ音楽に興味を持っている人が、その世界に入るための道しるべのために書かれたガイドブックと言えるでしょう。
その方向性はアフリカ音楽のアルバムの選び方にも影響しています。「アフロ・ポップ~」は今のリスナーにまず聴いてもらうことが焦点であるため、選ばれているアルバムは、ほとんどがここ最近の作品がメイン。70年代や60年代あたりの作品はほとんどありません。一方「ポップ・アフリカ~」はアフリカ音楽を概括的に紹介しているため、昔のアルバムから今のアルバムまで網羅的に収録されています。「ポップ・アフリカ~」を読むと、アフロ・ポップが花開いていたのは、むしろ60年代や70年代あたりということに気が付かされます。
また「アフロ・ポップ~」ではアフリカ音楽とともに、アフリカ音楽から強い影響を受けたロックのアルバムも数多く収録されており、アフリカ音楽と欧米のロックのつながりを知ることが出来るという点はおもしろいところ。コラムでもアフリカ音楽について音楽的な要素や、最近話題のムーブメントなどを突っ込んだコラムが掲載されていて、とても興味深く読むことが出来ました。ちょっと残念だったのは、せっかくだからJ-POPとの関連性ももっと深く突っ込んでほしかったかも。なぜか「東アフリカ」の欄でチラッとだけ紹介されているのはちょっと残念でした。
「ポップ・アフリカ~」についてはそういう「今の流れ」を知れるニュース的な要素や欧米ポップとの関連付けについては追及されていませんでしたが、それだけ「アフリカ音楽の教科書」として普遍的な内容を心がけたのでしょうか。一方では紹介したアルバムの中で、「特に聴くべき」とした50枚のアルバムを選出しており、この点はアフリカ音楽の初心者にとってはとてもありがたい構成となっていました。
そんな訳で、どちらが優れている、とかではなく、同じアフリカ音楽を取り扱っていながらも、その方向性の違いがおもしろい、どちらも非常に魅力的なガイドブックでした。「アフリカ音楽はさほど興味ないけど、Vampire Weekendとか好きかも・・・」みたいな方は「アフロ・ポップ~」をまず読んでみてください。おそらく、アフリカ音楽の魅力に触れることが出来るかも。アフリカ音楽に興味がある方は文句なく両方とも要チェック。どちらもかなりお勧めな内容。私も、この2冊で、もっともっといろいろなアフリカ音楽の世界に踏み入っていきたいと思います。
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