窮鼠の一撃
Title:チェンジ ザ ワールド
Musician:キュウソネコカミ
これがメジャーデビュー作となる、最近注目の5人組新人ロックバンド。「キュウソネコカミ」というバンド名もユニークですが、ガレージロックにシンセを入れたサウンドもポップでどこかユーモラス。バンド名とともに、強いインパクトを感じるバンドです。
ただ、それ以上に彼らの楽曲でインパクトを感じるのはその歌詞でした。その歌詞は、弱者の視点から世間を皮肉った内容・・・というか「弱者」というよりは「一市民」という言い方がいいかもしれません。タイトル通り、ルックスの良さ以外は何もとりえのない女の子を皮肉った「カワイイだけ」や何も予定がない休日を寂しく一人で暮らす状況を描写した「何も無い休日」など、どこかイタタタ感があふれる歌詞は実に身に沁みます。ラストに至っては「KMDT25」という謎なタイトルですが、こちら「生真面目童貞25」の略だそうです(^^;;
彼らのバンド名の元となった「窮鼠猫を噛む」という言葉は、ネズミでも追いつめられれば天敵である猫を噛む、転じて弱者の一撃を意味する言葉ですが、そのバンド名がこれほどピッタリくるバンドもないかもしれません。まさに、追いつめられた弱者が天敵である猫を噛むように、彼らの楽曲は、そんな弱者の一撃のようなインパクトを感じます。
またその一撃も決して生真面目に大上段にかまえて主張するのではなく、どこか斜めからの視点で皮肉めいて描写するあたりはいまどきのバンドといった感じでしょうか。いまどきといえば、「スベテヨシゼンカナヤバジュモン」では「サンダーボルトでドーン ファイアーボールでバーン」とゲームで出てきそうな魔法が登場したり、「何も無い休日」では「リア充」「ようつべ」なる言葉も飛び出したり、ここらへんも今時のバンドといった感じ。そもそもバンド名も、ことわざからダイレクトに引用したわけではなく、ファイナルファンタジーに登場する装備アイテムから来ているのだとか。
このバンド、もうひとつおもしろいのは、このユニークな歌詞とメロディーがちゃんとマッチしている点でしょう。上にも書いた「サンダーボルトで~」というフレーズもインパクトあるメロディーと重なって妙に耳に残りますし、「生真面目童貞25」というフレーズもちゃんとここだけメロディー構成として強調されており、耳に残ります。インパクトあるフレーズをちゃんとインパクトあるメロとサウンドで強調するというのは売れるバンドの重要な要素であり、彼らに関してはそこはキチンとクリアしていました。
そんな今時なバンドの彼らですが、その一方では「ビビった」では昨今の音楽業界を強烈に皮肉っており、ひとつ骨のある部分も感じられます。ここらへん、今後もどんな楽曲を書いてくるのか楽しみに感じます。
注目度の高いバンドということは知っていましたが、予想以上におもしろく、楽しめたアルバムでした。今後も楽しみ!これからの活躍からも目が離せなさそうです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
SONG COMPOSITE/中田裕二
元椿屋四重奏のボーカリスト中田裕二による初のカバーアルバム。カバーしている曲は「シルエット・ロマンス」のようなバリバリの歌謡曲から「Missing」のようなJ-POP路線、ちょっと変わったところではUAの「情熱」などもカバーしています。ただおもしろいのはどの曲もネチっとした歌謡曲風のカバーに仕上げている点。もともと椿屋四重奏自体、歌謡曲のテイストが強いバンドでしたが、それから考えるとこのカバーの路線は納得感があります。また、彼のちょっと色っぽいボーカルもまた、この歌謡曲風のカバーに実にマッチしていました。
うれしかったのは彼自身影響を受けたシンガーにあげるCHAGE&ASKAの「恋人はワイン色」のカバーが収録されている点。例の事件が起きた今だからこそ逆にこれを取り上げる意義がありそうですし、なにより変な自粛をせずにちゃんと収録してくれた本人やレコード会社にも拍手。てか、彼のアルバムには関係ない話かもしれませんが、いったい日本のレコード会社は、いつまで「ミュージシャンが逮捕されたら、その曲も発売停止」というくだらない自主規制を続けるんでしょうか・・・。
評価:★★★★★
中田裕二 過去の作品
ecole de romantisme
10years/木村カエラ
デビュー10周年となる木村カエラのベスト盤。ちょうど5年前に「5years」というベスト盤をリリースしており、これが2作目のベスト盤。ただこの5年の間に結婚・出産があり、オリジナルアルバムのリリースは2枚のみという状況で、もう1枚ベスト盤というのはちょっと辛くないかい、と思うのですが。
ただ、内容自体はやはり純粋に楽しさを感じます。なによりもいい意味で何も考えずに楽しめるギターロックといった感じ。純粋なエンタテイメント性を楽しめる楽曲はどれもとてもポップで楽しく、文句なしに楽しめます。
デビュー10年というのは早いなぁ、という印象と「まだ10年か」という印象が両方あります。彼女は、アイドル・・・ではないのですが、「若くて元気なかわいい女の子」というイメージがひとつの売りになっているだけに、失礼ながらもそれが徐々に売りにできなくなってくる次の10年にボーカリストとしてどんな成長を遂げるのか、楽しみでもあり不安でもあったりします。そういう意味では10年という区切りをこのベスト盤でつけて、次の一歩を踏み出すアルバム、と言えるかもしれません。木村カエラの次の一歩はどの方向に??
評価:★★★★★
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