コンプレックスの塊
Title:Tsuyoshi Nagabuchi All Time Best 2014 傷つき打ちのめされても、長渕剛。
Musician:長渕剛
いままで、ここのサイトではほとんど取り上げてこなかったので意外に感じる方もいるかもしれませんが、個人的に長渕剛の書くメロディーは実は好みだったりします。彼の代表曲である「とんぼ」にしろ「乾杯」にしろ、思わず口づさめるようなポップなメロディーの中にどこか切なさと哀愁感がまざっていて、どうしようもなくグッとくる部分を感じます。今の彼のマッチョイムズを前面に押し出したスタイルは全く賛同できないのですが、それでも魅力を感じる彼の曲は少なくありません。
デビューから36年を迎えた彼の、本作は初となるオールタイムベスト。4枚組全58曲というフルボリュームな内容で、その4枚のCDはそれぞれテーマに沿った曲が選曲されています。いささかボリュームが多く初心者には手をつけずらいようなベスト盤ですが、長渕剛というミュージシャンを知るにはうってつけのベスト盤でしょう。
さて長渕剛といえば最近ではすっかりマッチョなイメージが定着しましたが、よく言及されるように、それはデビュー当初の虚弱な身体に対するコンプレックスから肉体改造に取り組んだ結果。しかし、彼が抱いているコンプレックスはおそらく身体に留まらないのではないでしょうか。彼の楽曲を聴いて人としての弱さ、寂しさを強く感じる曲が少なくありません。彼の代表曲でこのアルバムにももちろん収録されている「とんぼ」も上京後の寂しさが描写されていますし、デビュー曲「巡恋歌」も寂しさから恋に落ちた女性を描写しています。
もうひとつ、彼がかかえているコンプレックスとして、地方出身の彼だからこその東京に対するコンプレックスも強く感じます。その「とんぼ」も上京をテーマとしていますし、「東京青春朝焼物語」をはじめとして上京をテーマとした曲が少なくありません。地方出身のミュージシャンが、自分の楽曲で上京をテーマとすることは少なくありませんが、そんな中でも彼が上京をテーマとして取り上げる回数はやはり多いように感じました。
ある意味長渕剛って、とても弱さを持った人間で、コンプレックスの塊なんじゃないでしょうか。もちろんそれは決して悪い訳ではありません。誰もがなんらかのコンプレックスを抱えて生きていますし、またそんなコンプレックスを抱えた彼だからこそ、数多くの名曲を産みだしたように思います。少なくともこのアルバムにおさめられている曲には、そんな彼の弱さをそのままさらけだしたような曲も多く、それが心に突き刺さってきました。
しかしだからこそそんな弱さを認めるのではなく、逆に肉体改造に取り組んでマッチョイムズを前面に押し出した彼は、コンプレックスを乗り越えたというよりもむしろコンプレックスゆえの虚勢を感じてしまい、とても弱さを感じてしまいます。熱心なファンはひょっとしたらそういう「弱さ」も含めて支持しているのかもしれません。たださほど熱心なファンではない私から見たら、そこには余裕のなさも感じてしまい、やはり今の彼の姿には共感することが出来ません。
またこのベスト盤で彼のマイナス面としてもうひとつ感じたのは社会派の歌詞。いや、今の日本の現状に真っ向から立ち向かうその姿勢は立派だと思います。ただネタ的に「アメリカに追従する日本の批判」「拝金主義への批判」ばかり目立っていて、その考え方は決して否定はしないしある程度賛同もするのですが、どこか薄っぺらさも感じてしまいます。
しかし逆に内省的な歌詞に関しては、ドラマ性ある具体的な心理描写も含めて強く心に響く曲が多く、なんだかんだ言われつつもやはり30年以上第一線で活動をつづけるその実力は伊達じゃないな、ということも感じてしまいます。外見やパフォーマンス的にはマッチョ志向な彼ですが、内省的な楽曲に関してはそれほどマッチョイムズを感じる曲も少なく(もちろん一部「うーん」と思うような曲もありますが)、当初の予想以上に長渕剛というミュージシャンを魅力的に感じることが出来ました。
とはいえ、やはり今後もオリジナルアルバム単位で彼を追いかけるほどはまったかと言われると、やはりマッチョイムズなスタイルが気になってしまうのですが・・・。かなりボリュームが多いアルバムで普段彼を聴いていない方には抵抗あるかもしれませんが、やはり名曲が揃っているだけにだれずに4枚聴きとおせるだけの力のある作品が並んでいると思います。聴いてみて損はないベスト盤なのは間違いないでしょう。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
小田日和/小田和正
約3年2ヶ月ぶりとなるニューアルバム。御年66の彼曰く「最後から2番目のアルバム」だそうで、自分の年齢とリリースペースを考えると、オリジナルは本作も含めてあと2枚、というつもりで作成したとか。とかなんとか言う人に限って、あと4、5枚はつくりそうですが(^^;;
そんな彼のニューアルバムは、まさに小田節がさく裂といった感じ。大ベテランの彼だけあって、ちゃんと自分に求められる音楽をわかっていて、それに誠実に答えているといった印象。目新しさはありませんが、「小田和正を聴いたなぁ」と満足できるアルバムになっています。職人技って感じですね。
評価:★★★★
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