2人のOLが世間を「ディス」
Title:DIStopping
Musician:Charisma.com
最近話題となっている、現役OL2人組からなるHIP HOPデゥオ。いままでも名前は知っていたのですが、先日偶然インストアライブを目撃。そのリズミカルなトラックに惹かれ気になる存在となり、ちょっと遅ればせながらアルバムも聴いてみました。
現役のOLとして働きながら音楽活動を進める彼女たち。そんな一般社会との接点を持ちながら活動する彼女たちのラップの大きな特徴は、そんな彼女たちの立場だからこそ綴れるような社会に対する皮肉めいた視点でしょう。例えば「ジェンガジェンガ」では
「どれだけ世間になじめるかそれが一般常識あるかないか
言うとおりに動けば正解の世界がデカい
敵わぬ願いに目眩
害はないけど面白くもない
愛はないけど愛してほしい
心動かすやつ 組織で浮くやつ」
(「ジェンガジェンガ」より 作詞 いつか)
と組織の中でなじむことを強要される社会を皮肉っていますし、「Train HELL」はタイトル通り、通勤電車の混雑をディスったようなユニークな内容になっています。
そんな社会に対する「ディス」をひとつの売りにしているようで、このアルバムのタイトルもまさにそんな彼女たちの特徴からつけられたもの。ただ正直、社会に対して中指立てて、という雰囲気はあまり感じませんでした。楽曲によってはかなり内省的な歌詞も少なくなく、また女の子らしい恋愛感情を織り込んだ歌。どちらかというと、彼女たちの歌詞は社会に対して真っ向から対峙しているようなイメージを受けます。
また女性2人組というユニットながらも女の子らしいかわいらしさをあまり表に出していないのも特徴的。「女の子」という言い方よりも「女性」といった表現がピッタリきそうなユニット。意識しているかしていないのかはわかりませんが、男性社会の中、たくましく生きていこうとする姿をそこからは感じられます。
さらに彼女たち、その特徴的な歌詞が前面に取り上げられますが、それ以上に彼女たちのトラックメイキングにも惹きつけられました。基本的に彼女たちの曲の特徴はエレクトロトラック。リズミカルな打ち込みのサウンドが耳を惹かれます。
ただその一方、この手のエレクトロサウンドはインパクトがあるものの単調になりアルバム通して聴くと飽きが来やすい特徴があります。しかし彼女たちの曲に関しては、楽曲毎に作曲陣がかわっている影響もあるのでしょうか、かなりバリエーションがあって最後まで飽きが来ません。「sodaiゴミのkoi」のようなスペーシーでトランシーなナンバーや「チャンコイ」のようにポップ色の強いナンバー、「空色will」のようにちょっとエスニックな色合いの入ったナンバーなどなど。特に良かったのが「LOOKER」や「ジェンガジェンガ」のようなトライバルなビートを聴かせてくれるナンバー。彼女たちのイメージにもピッタリとマッチした迫力あるトラックに仕上がっています。
そしてこのビートの強いリズミカルなサウンドはアルバム全編を通じて流れており、聴いていておもわず身体が動き出しそうな楽しさがあります。リスナーを全く飽きさせない内容になっており、実に魅力的。歌詞という側面で語られがちな彼女たちですが、そこを差し引いても十分すぎるほどリスナーを惹きつけられる魅力を持ったミュージシャンだと思います。
とにかく、まだまだこれからが楽しみになってくる2人組ユニット。今後のキャリア次第ではさらなる歌詞の広がりもありそうな予感が、これからに要注目です。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
KIDS RETURN/餓鬼レンジャー
前作から9年ぶりとなる熊本出身の3人組HIP HOPグループの待望の新作。特に目新しい感じはしないものの、エレクトロサウンドを中心としたリズミカルなトラックに、ユーモアセンスをまじえたリリックがとても心地よく、いい意味でのポップスさと、ハードコア風の「やばさ」を兼ね備えたラップが魅力的な作品。9年のブランクを感じさせないアルバムでした。
評価:★★★★
ディスコの神様/tofubeats
tofubeatsの2枚目となるEP。タイトルチューンは本作では藤井隆を起用。「ディスコ」という言葉自体もそうですし、ジャケットも「いかにも80年代」といった雰囲気ですが、楽曲自体はちゃんと今風にアップデートされたエレクトロポップチューン。前作と同様、良くも悪くも優等生的に感じる部分もありますが、基本的にクオリティーの高いポップチューンは聴いていて素直に気持ちよさを感じて楽しめる作品になっています。
評価:★★★★
tofubeats 過去の作品
Don't Stop The Music
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