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2014年6月21日 (土)

全体主義へのアンチ

Title:ナマで踊ろう
Musician:坂本慎太郎

元ゆらゆら帝国、坂本慎太郎のニューアルバムは非常に強烈な作品です。いや、メロディーやアレンジ自体はパッと聴いた感じだと、一般的にイメージするような強烈さはあまり感じません。そこにあるのは強烈なサウンドで私たちの耳をつんざくようなロックとはある意味真逆のタイプの音。しかし、このアルバムには、今の日本に対する坂本慎太郎の強烈なメッセージが込められています。ある意味、どんなロックなアルバムよりも「ロック」な作品と言えるかもしれません。

まず楽曲自体は、ロックというよりもムード音楽なテイストが流れています。本人曰く「ホテルのラウンジで、みんながご飯を食べている横でなんとなく演奏しているバンドとかのあの感じ。」をイメージしたかと。ムード音楽だったりAORだったり、あるいはスティールギターをつかってハワイアンな雰囲気が流れていたり。確かに、ロックのようにみんなでこぶしを振り上げたり、シングアロングしたりするああいう雰囲気からはかけ離れています。

ただ、このムード音楽のような楽曲にも彼なりの強烈なメッセージが込められているということ。それは全体主義に対するアンチ。インタビューでも「みんな同じ方を向いて、同じことをしているって怖い」ということを語っていました。

そのメッセージ性は歌詞にも強くあらわれています。特に今回の歌詞は、寓話性を含んだ歌詞ながらも、その内容はかなりストレート。例えば「めちゃくちゃ悪い男」では

「みんな待ちつかれたとき 誘ってくる
妙に耳障りよく 甘く溶けそうな言葉で」
「(めちゃくちゃ悪い男)誘ってくる
妙なものを売るために お前は来た」

(「めちゃくちゃ悪い男」より 作詞 坂本慎太郎)

なんて歌詞は、ゾッと来ますし、「この世はもっと素敵なはず」

「見た目は日本人 同じ日本語
だけどもなぜか 言葉が通じない」

(「この世はもっと素敵なはず」より 作詞 坂本慎太郎)

というフレーズにも、今の日本で思い当たる部分があり怖くなります。

また、一番印象に残ったのは「あなたもロボットになれる」という曲で、「チップを埋めるだけで」「不安や虚無から解放される」という不気味で耳障りよいメッセージからスタート。最初は「日本の2割が賛成している」という歌詞からはじまるのに、最後は

「日本の5割が賛成している
危険のランプが点滅している」

(「あなたもロボットになれる」より 作詞 坂本慎太郎)

と締めくくられる歌詞。ある種の不安や恐怖を誇張し、最初は決して多数派ではなかったのに、最後は半数近い日本人が、「ロボットになる」という方向に流されてしまう・・・正直、この曲はいまの日本をストレートに表現した、強烈なメッセージに感じました。

このアルバム、確かにライブで演奏してみんなで一体感を出して盛り上がる曲ではありません。ただ一方で、ムード音楽のように聴き流せる音楽でもありません。それはそれだけ彼がこのアルバムにかけているメッセージが強力だから。また楽曲自体も、確かにムーディーな雰囲気はあるものの、ゆらゆら帝国から続くサイケポップな流れも確かに感じますし、比較的音数を絞った曲の構成は緊張感もあり、聴き始めれば癖になるような深みを感じます。イージーリスニングのような類のものとは大きく異なるのは間違いありません。

ジャケットも、骸骨になった本人にきのこ雲というこれまた強烈なメッセージ。今の日本に対する彼の強烈な危機感を感じさせるアルバム。それだけに、最初に書いた通り、どんなロックアルバムよりもロックを感じさせる作品でした。

評価:★★★★★

坂本慎太郎 過去の作品
幻とのつきあい方

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