飛ばしていっている・・・だけではなく
Title:飛ばしていくよ
Musician:矢野顕子
矢野顕子のニューアルバム。ちょっと意外だったのが、純然たるスタジオアルバムとしては2008年の「akiko」以来5年半ぶりのアルバムということ。その間にもアルバムはリリースしていましたが、「音楽堂」はピアノによる弾き語りのアルバム、昨年リリースした「矢野顕子、忌野清志郎を歌う」はタイトル通りカバーアルバム。コンスタントに活動を続けている、というイメージがあっただけにちょっと意外でした。
今回のアルバムに関して大きな特徴だったのがエレクトロサウンドの導入という点でしょう。「在広東少年」のセルフカバーでは砂原良徳がトラックメイカーとして参加。へヴィーなロック風な「Never Give Up on You」ではBoom Boom Satellitesが参加しています。また、エレクトロアレンジということで一番奇抜だったのが小田和正の「YES-YES-YES」のカバー。元曲のイメージをガラリと変えるエレクトロなサウンドで、最初は何の曲かわかりませんでした(^^;;ちなみにこの曲は矢野顕子本人がトラックメイキングを手掛けているようです。
ただ、このエレクトロサウンドに関しては、正直言ってこのアルバムの中であまり大きなプラスとして働いていないように感じました。様々なトラックメイカーを参加させた結果、1曲1曲は悪くないかもしれませんが、アルバム全体として方向性がバラバラになってしまって、いまひとつ、アレンジの方向性をぼやけさせる結果になったように思います。特に矢野顕子のエレクトロといえばyanokamiとしての活動が記憶に新しいところ。やはりレイハラカミの特徴的なトラックが頭にある、という影響もあるのでしょうか?
しかし、それでもこのアルバム、素晴らしい傑作に仕上がっています。それはやはり矢野顕子本人の書く曲の良さと彼女のボーカルのすばらしさがあるからでしょう。もちろん、トラックに関しても、プラスに働いていない一方で決してマイナスにも働いていなかったと思うのですが・・・。
今回のアルバムで印象的だったのは矢野顕子らしいほっこりとした雰囲気の楽曲でした。まずはなにより「リラックマとわたし」。リラックマという誰でも知っているキャラクターを用いて、リラックマの雰囲気を曲に持たせつつも、ちゃんと矢野顕子の曲に仕上がっているのはやはり彼女の実力でしょう。リラックマらしいほっこりとした曲調に心暖まる作品になっています。
「ISETAN-TAN-TAN」もいいよね。デパートの名前がそのまま入ったコマーシャルチックな曲でもちゃんと矢野顕子らしい曲になっているところがさすが。ほっこりといえば「ごはんとおかず」も印象的。旦那をごはんに自分をおかずに例えて夫婦生活を歌った曲。後半は倦怠期らしい描写も飛び出しつつも、どこか温かさを感じさせる描写がとても楽しい楽曲になっていました。
タイトルナンバーも「飛ばしていくよ」はまさにこのアルバムを象徴するようなエレクトロでアップテンポなナンバーなのですが、「飛ばしていくよ」といいながらもいろんなところで休憩を挟みつつ、楽しくゆっくりと進んでいくようなアルバムになっていました(笑)。エレクトロサウンドが特徴的ながらも矢野顕子らしさが良く出ていたアルバムだと思います。時にはワクワクしながら、そして時にはほっこりとしながら聴きたいそんなアルバムです。
評価:★★★★★
矢野顕子 過去の作品
akiko
音楽堂
荒野の呼び声-東京録音-
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
矢野顕子、忌野清志郎を歌う
ほかに聴いたアルバム
TETSUYA KOMURO EDM TOKYO/小室哲哉
globeの「Judgement」、安室奈美恵の「You're my sunshine」をEDM風にアレンジした曲も含まれる小室哲哉の最新アルバム。玉置浩二とのコラボ曲「EDM TOKYO 2014」も収録されています。最近流行りのEDMを前面に押し出しているアルバムなのですが、EDMって確かに雑誌などでは大きく取り上げられてりもするのですが、音楽好きにとっては、「いまさら・・・」的な感じもあり、このアルバムのEDMも正直2周遅れくらいのちょっと厳しい内容。EDMのアルバムとして聴いた場合はあきらかに小室哲哉が今の音にアップデートできていない、グダグダな内容でした。
ただ一方で小室哲哉らしいメロディーセンスは随所に感じられます。特に、アレンジを重視してメロディーが後手にまわっていた数年前の作品と比べると、彼らしいいい意味で「ベタ」なメロが前に出てきており、そういう意味では聴きやすいアルバムだったと思います。「新しさ」を求めるとかなり厳しいアルバムだと思うのですが、素直に小室哲哉らしいポップアルバムを、と考えると、個人的にはそれなりに楽しめたアルバムでした。
評価:★★★★
小室哲哉 過去の作品
Digitalian is eating breakfast 2
Far Eastern Wind-Complete
DEBF3
A Gift for You/福原美穂
福原美穂初となるベストアルバム。もともとそのボーカルとしての実力が大きな話題となりデビューした彼女ですが、このベスト盤からはその実力を否応なく感じることが出来ます。時には力強く、時には優しく歌い上げる彼女のボーカルはとても印象的。楽曲は、基本的にソウルやファンクがメインですが、ポップとしていい意味で聴きやすくインパクトも十分。もっともっと売れてもよかったのになぁ、ということを感じさせます。
ただその一方で、確かに福原美穂というひとりのシンガーとして考えた時に、彼女だけが持っているような特徴みたいなものは少々薄め。個性という点ではちょっと弱かったかな、とも感じ、その点がいまひとつブレイクしきれなかった理由なのかも、とも感じました。今後彼女は充電期間に入るそうで、またソニーからも一度離れるとか。充電後、さらに大きくなるであろう彼女の活躍に期待したいところです。
評価:★★★★★
福原美穂 過去の作品
RAINBOW
Music Is My Life
Regrets of Love
The Soul Extreme EP
The Soul Extreme EP II
The Best of Soul Extreme
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