国境を超えない音楽
Title:ヤバ歌謡 SUPER NONSTOP MIX~MIXED BY DJフクタケ
Musician:DJフクタケ
今回紹介するアルバムは、昭和歌謡曲のいわゆるレアグルーヴを収録したDJ MIXアルバム。DJフクタケは、90年代にいち早く「テクノ歌謡」というジャンルを提唱したことでも知られ、都内のクラブで和モノを中心にプレイするDJとしても知られているそうです。
このアルバムでは、いきなり中原めいこの「君たち キウイ・パパイア・マンゴー だね。」というご存じのヒット曲からスタートするのですが、アイドル歌謡曲から和製ディスコ、歌謡曲にノベルティーソングなどなど、B級と呼ばれそうな知る人ぞ知るような昭和の隠れた名曲がつながっています。
いやぁ、これがまたおもしれ~~!!以前、昭和歌謡曲のレアグルーヴを収録したコンピ盤として「GROOVIN'昭和」シリーズを紹介したことがあるのですが(参考1 2)、基本的に方向性としては似たようなものを感じます。洋楽では味わうことのない、非常に濃ゆい魅力あふれたポップソングにおなか一杯となる1枚です。
先日紹介したオザケンのライブ盤の中に、「笑いというのは対象とするコミュニティーが狭ければ狭いほどおもしろい」という指摘がありましたが、このアルバムに収録されている曲にも似たようなものを感じます。日本人だからこそわかるおもしろさ、和製レアグルーヴの大きな魅力のひとつはそこにあるのではないでしょうか。
ノベルティー的なおもしろさはやはり文化を共有していないと理解することは難しい点がありますし、また洋楽の要素を和風に作り替えたような曲で、元とする洋楽と歌謡曲の微妙なバランスがおもしろいのは歌謡曲に知らず知らず慣れ親しんだ日本人だからこそ。洋楽と比べてどうこう、というよりも洋楽とは全く違う評価軸でのおもしろさを感じます。
もちろんそれは「だから日本は素晴らしい」ということは全く言うつもりはなく、他の国でもこれと同様の音楽はそれぞれのコミュニティーが持っているのでしょう。例えばアメリカのビルボードチャートをながめるだけで、日本では全くヒットしていないのにアメリカでは大ヒットしているカントリーや、クリスチャン・ロックの曲をしばしばみかけますが、これもまさにアメリカのコミュニティーに根付いたポップソングなのでしょう。
よく「音楽は国境を超える」みたいな物言いをします。それは半分は事実なのでしょうが、一方では全く国境を超えない音楽も間違いなくあるわけで。このアルバムに収録されている音楽は、まさしく「国境を超えない音楽」と言えるかもしれません。
もともとDJフクタケがテクノ歌謡を提唱したDJということもあって選曲はエレクトロやテクノポップの曲がメイン。個人的には70年代の歌謡曲あたりをもっと選曲してほしかったな、という印象も受けたのですが、「今のDJとしての視点から選んだ」というコメントをしていますので、あくまでもフロアでみんなが楽しめる曲を選んだ、ということなのでしょう。
このアルバムに選曲されている曲で特に印象に残ったのが突っ走りすぎたようなテクノポップのスターボー「ハートブレイク太陽族」や、海援隊のイメージがぶっ飛ぶようなディスコナンバー「JODAN JODAN」、また聴いていて大爆笑必死なエロナンバー野坂昭如「通せば天国」などなど。「コンピューターおばあちゃん」は個人的にかなり懐かしさを感じてしまう選曲。あとなぜか選ばれているKANちゃんの「君から目がはなせない」はファンとしてはかなり違和感のある選曲(^^;;「一般的なイメージとは違う曲」ということなのですが、ファンからすれば、まさしくKANちゃんらしい曲だよなぁ・・・。
そんな訳で聴いていてとにかく楽しくなってくるDJ盤。難しいこと抜きにして、まずは聴いて楽しんでみてください!すっごい濃ゆい時間が過ごせます。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Yes,We Love butchers~Tribute to bloodthirsty butchers~Night Walking
bloodthirsty butchersへのトリビュートアルバム第3弾。ズシリと来るようなへヴィーでノイジーなバンドサウンドが心地よい作品が並んでいます。前作同様、こうやってカバーで聴くと、メロディーの意外なポピュラリティーに気が付かされたりするのがおもしろかったり。個人的にはフィードバックノイズが心地よいきのこ帝国の「discordman」なんかがよかったりするのですが、他にも少年ナイフの「ファウスト」など、完全にナイフの色に染めてしまっているあたりがおもしろかったりもしました。
評価:★★★★★
Yes,We Love butchers~Tribute to bloodthirsty butchers~ 他の作品
Mumps
Abandoned Puppy
SELF-PORTRAIT/やけのはら
HIP HOPミュージシャンやけのはらによるリミックス作品を集めた企画盤。基本的に今風のビートを強調したエレクトロなアレンジが多く、どの作品もそれなりの内容になっている反面、やけのはらならではの強烈な個性という点ではちょっと薄かった印象が。熱心なファンならどうぞ、といった感じかなぁ。
評価:★★★
やけのはら 過去の作品
SUNNY NEW LIFE
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