アレンジ合戦
Title:逆輸入~港湾局~
Musician:椎名林檎
2012年の東京事変解散後、再び本格的に活動を開始した椎名林檎。昨年はシングルやコンピ盤、ライブ盤のリリースがありましたが、今年、まずリリースされたのは本作。過去に彼女が他のシンガーに提供した楽曲を自ら歌いなおしたセルフカバーアルバムです。
今回、このアルバムでユニークなのは、収録された11曲すべてについて、別々のミュージシャンがアレンジを担当しているということ。それもアルバム全体として統一性は全くもたせず、それぞれのアレンジャーが自分たちのスタイルで、椎名林檎の楽曲のアレンジを手掛けていて、アレンジャーそれぞれにつき聴き比べが出来ます。さながら椎名林檎のアルバムの中で、アレンジ合戦が行われているようでした。
で、結果、圧勝だったのが「主演の女」をアレンジした大友良英。ホーンセッションとガレージロックなバンドサウンドで昭和の空気がプンプン感じるキャバレーロック風に仕上げています。椎名林檎のパブリックイメージそのまんまといった感じなのですが、やはり彼女の歌い方とメロディーはこういうアレンジが一番ピッタリくるような気がします。「椎名林檎を聴いた!」と満足感を覚えるような曲でした。
また「カプチーノ」を手掛けた小林武史もノイジーなギターとピアノで、ちょっと怪しげな雰囲気をふくませた椎名林檎らしいアレンジに。最近はどうも大味なプロデュースが多いように感じる彼ですが、ここではきちんとアレンジャーとしての実力をみせてくれます。また、ハードロック風に仕上げた「雨傘」の根岸孝旨も、椎名林檎らしさをよく生かしたアレンジになっていたように感じます。
逆に残念だったのが、「プライベイト」を手掛けた前山田健一。軽快なテクノポップにはアレンジャーとしての自己主張を強く感じ、椎名林檎としての個性とぶつかりあってしまった感じが。アイドルみたいに歌っている本人のキャラクターが重要、というのであれば、こういうアレンジもありなんでしょうが、ボーカリストとして歌も聴かせるようなタイプのシンガーのアレンジとしては、ちょっと自己主張が強すぎるような印象を受けました。
さらにぶっとんじゃったのがAA=の上田剛士の「渦中の男」。いつも通りのデジタルハードコアサウンドはかっこよかったけど、椎名林檎の曲というよりも、「上田剛士 featuring 椎名林檎」といった感じ。完全に上田剛士の曲になってしまっていて、椎名林檎の曲として聴いた時にはちょっと物足りなさも感じました。
そんな感じで、アレンジャーによる良し悪しはあったのですが、全体的には椎名林檎の楽曲の良さをよく引き出していたアレンジが多かったように思います。また、椎名林檎の個性が出まくっていながらも、変に暴走せず、ポップにまとまっている楽曲が多く、セルフカバーアルバムということですが、逆に人に提供した曲だからこそ、変なエゴが出なかったのかもしれません。いい意味で椎名林檎らしい曲が並んでいて、椎名林檎のオリジナルアルバム感覚で楽しめるアルバムになっていたと思います。
セルフカバーアルバムということですが、そんな訳なので、椎名林檎が好きならまず聴くべきアルバム。アレンジャーそれぞれの実力もさることながら、椎名林檎の魅力もしっかりと伝わってくるアルバムでした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
暁のファンファーレ/THE BACK HORN
THE BACK HORN10枚目となるオリジナルアルバム。「ビリーバーズ」のようなへヴィーなギターリフがガツンと来るような曲もあるものの、全体的には比較的ポップで聴きやすいものを感じました。ただ、この聴きやすさという点、インパクトはあった一方、ちょっとチープさを感じてしまう曲も。
評価:★★★★
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